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eat_(h)umble_pie

全体公開 3132文字
2020-01-05 19:58:06

「田町 めぐみ」たちの誕生日。


僕の目の前にはパイがあった。
大きなパイだ。こんなの初めて見た。
「さーさぁ!めぐみくん!分けてごらんよ!あ、でも僕の分も欲しいかも!」
遠く向こう、目の前の席に座っている髪の長い……誰かは、僕に向けて満面の目顔を向けている。
「誰?」
「僕?そーだなぁー、こうしてみようか」
パチンと指を鳴らすと、その人の見た目は白いローブと長いかみのけ、おっきくて浮いた輪っかを被ってる人になった。
神様。」
「まぁそんなかんじさ!君のかみさまのイメージはクリスマスのかなぁ?いけてるでしょ?白いからねぇ。さ、ほら、みんな待ってるから」
大きなパイは大きなテーブルに乗っていて、周りにはぬいぐるみのお客さんが座っていた。でもその形はあやふやで、どんな見た目なのかは分からない。誰でもなかったし何でもなかった。
パイを分けるため、と神様が渡してきたのはペンで、どうやらパイにそのまんま書いて欲しいみたいだった。書いてもきれないよ?って僕が思うとそれはいつのまにか剣になった。
「ペンは剣よりも強いんだけどなぁ?あはは!」
かみさまが笑う。なんとなくきれそうだけど、周りにはたくさんの人がいて、誰もがみんな、分からなかった。
目の前で白い人が僕のことを笑ってる。
……何個分にすればいいんだろう。
とりあえず真ん中に線を引いた。すっ、と引くと、そこに切れ目が出来て中のものが少し剣、いや、メスの先に付いた。
真っ赤なジャムとコンポート。
心臓が高鳴るのが分かる。ドクドクと、音が大きくなっていく、目が見ている。
「ねぇ」
「なんだい?」
神様は笑う。
僕を見て笑ってる。
クスクスと声がする。
……そっちを向いても誰もいない。
……なんでこんな事するの」
………。」
何も答えない。何も答えないのに笑っている。あれ、答えていないのは誰だっけ。
目の前の白い人は何かを話してるみたいだけれど僕には何も聞こえない。きっと出来ないから怒ってるんだと思う。……でも笑ってて、うーん?
とりあえずみんなの分引かなきゃ。えっと、何だっけ。何人分なんだっけ、えっと。
周りを見渡すと色んな人がいた。
……なんにんぶんだっけ。
周りの景色とぬいぐるみと人が混ざって継ぎ接ぎになって、どこから数えればいいのか分からない。
……めぐみくーん。」
あれ、いつの間にか神様が横にいた。
こっちに、ちかづい、て?
半分に裂かれた僕が、勢いよく退けた。
「やめろよ!」
僕は急に叫んだ。いや、隣の子だった。隣の子は固まってしまった僕の代わりに怒鳴っていた。不思議と怖くなかった。
……ごめんってー。」
「めぐみ、大丈夫?この野郎いつも調子にのるから」
隣の誰か、紫の目の、大人っぽい人。あ、でも学ラン?じゃあ高校生なのかなぁ。僕のこと、知ってるの?
……だいじょうぶ。」
「そ。無理はすんなよ。」
意外とつめたい声だった。座り直して、椅子の上であぐら掻いてる。でも、僕のこと嫌いじゃないみたい。いい人なのかなぁ。
 考えていた僕の目の前、神様はいつのまにか、また向かいの席に座っていた。いつ戻ったんだろう。……僕の耳もおかしくなくなった、目の前にいる神様は僕に笑いかける。
……パイ、冷めちゃうよー。みんなで食べようよー。」
笑ってる神様の前に置いてあるパイは、大きくふたつに分かれていて、でもこれだと人数分にはならない。
「どうしよ
僕が言うと、隣にいた子が、付け足すかのように話しかける。
「ん、あー、分かんないから適当にど真ん中切ったんだよ。めぐみなら何とかなるだろ?」
……えっ」
手元に持ったメスと目の前のパイを見る。赤いジャムは、酸っぱい匂いと甘い匂いが混ざっていた。なんだかワインみたいな匂いもする。僕は、お皿の端でメスについている分をぬぐって、とりあえず、
右側の方から真ん中に、4分の1、
に、なるようにクレヨンで線を描いたのは僕よりも小さい子供だった。
「ぼくもたべていいのー?」
「いいってさ」
「やった!ぼくね、あまいものすきだよ!」
「知ってるよ、ミカンが好きなんだろ。」
「そうだよ!!メグにい、おめがたかいねー。」
「何だそれ。はは。」
メグ兄。ということは、メグって名前か。僕と同じ名前?
目配せをすると、青年は頭を掻きつつ目を晒す。
「あ、ニックネーム。そう呼んで。じゃないと違和感あるから。」
「わかっ、た……本名は?」
……まだ教えない」
目をそらす彼。フォークを咥え始める。もう話さないと壁を下ろしたように感じた。
すると、クレヨンを持った子が話しかけてきた。
「めぐみ、はじめましてー!ぼくはね、ケイっていうんだー。」
ぱっ、と話して、すぐにテーブルクロスに絵を描き始める彼。
……ケイ君。はじめ、まして
僕が言葉を返すと、自分のランドセルから別のクレヨンを取り出して、僕の前に置いた。
「はい、めぐみのぶん!」
……うん。ありが、とう?」
綺麗な赤色のクレヨンだった。彼の持っているオレンジ色とは違う種類にも見える。
パイの上に堂々と絵を描き始めるケイくん。
「それ、食べられるの?」
ついつい聞いてしまったぼく。
「??ゆめだからたべられるよ。」
ああ、ここ夢なんだ。
彼はそのままパイの上にオレンジの楕円を描いて、切れ込みを描いた。パイの中身はオレンジのコンポートになって、美味しそうなグミや缶詰のフルーツみたいなのも見える。
「すきなものはねー、これー!」
描いた楕円が、綺麗な飴細工になった。みかんの味がするんだー、とちびっこは付け足す。
「めぐみも、すきなものかこうよー?」
好きなもの。
……僕、わかんないよ?」
そういったとき、隣の彼らは2人して僕の顔を見た。顔から先は、よくわからなかったけど、でもなんだか優しそうな顔をしていたのはわかった。
「そんなの、美味しいもの適当に描きゃいいんだよ。ただのパイだぜ?オレはオレであの、……バッカスみたいなの食べたかったからそれにしたし。……無難なの入れときゃいいよ」
「なんでもおいしいよー?えっとねー」
ケイ君、は僕の取皿の横に赤色クレヨンで丸を描いた。すぐさまそれは、さくらんぼになった。
「ほらー!さくらんぼ、おいしいよー?」
「あ、いいじゃんそれ。ケイ、パクるわ」
メグ君、は紫色のクレヨンで丸を描いた。それはプルーンみたいになった。その後、緑を付け足したらミントが添えられた。
「メグ兄、もしかしておえかきじょーずー?」
「夢オチだけどな。」
「えへへへへ!めぐみー。ここいいよー!」
ケイ君が小さな指で、パイの1番上を指す。そのまま、赤いクレヨンを僕の手に持たせて、ギュッと、その指を閉じさせる。
「かいて?だれも、やぶいたりしないよ。」
僕のそばで、僕が小さな声で呟いた。
突然目から涙がこぼれそうになって、僕は慌てて目を擦った。赤いクレヨンの欠片が爪に入っている。手がうっすらと赤くなっている。僕はパイの上に、怒られないくらいに小さく、涙みたいな形を描いた。
それは大きな苺になって、僕のパイの上に転がって割れて、擦れた紙の白い部分はクリームになった。
………おいしそう」
「おいしそうだねぇ」
「ん、できんじゃん。……食べよ、腹減ったわ。」
気がつくと、部屋の中には僕らの分しか椅子がなくて、机もかつての家のビニールを引いた小さいもので。蛍光灯の光は白くほの暗く、僕らの小さくて、でも豪華なパイを照らしていた。
なんだか言いたくなって、僕はその上に蝋燭をたててから、火をつけた。
「お誕生日おめでとう、めぐみ」

いつかのしょっぱい味がした。


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