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[雨P♀]同業者

全体公開 1360文字
2020-01-14 12:56:24

「そうだな、よろしく頼むぜ、プロデューサー」
同業者だとお互い気づいたPさんと雨彦さんの初顔合わせのお話です。

Posted by @toasdm

 苗字を聞いた瞬間から、薄々そんな予感はしていた。『そういう』家系だな、という予感が的中したのは、雨彦が、アイドルとして正式にプロデュースされることが決まって初めての顔合わせの時だった。
「では、これからよろしくお願いしますね!」
 目は、普通に見えた。
 特別な何かが『視える』ような、そんな特殊な目ではないように見えた。しかし。
……
「?」
 明らかに、雨彦の『目』について、何かを知っているような素振りをみせながらも、それを上手に隠している彼女の苗字から推測するに、恐らくは、同業者だ。出自を隠して生きていく道を選ばせてもらえたのは、彼女の家系では「男が継ぐもの」だからだろう。うちとは違うな、と家の呪縛に囚われた、狭い生き方しかできない雨彦にとって、自分の人生を自分で生きている彼女の存在は、羨ましくもあり妬ましくもあり、眩しかった。
 だから。
「お前さん」
「はい?」
 大人気ない、と思うものの、雨彦は止められなかった。
「同業者だろう?」
「っ……
 色々なものを隠して普通に生きていける彼女の秘密を、自分だけは気づいている、という圧をかける自分の子供じみたやっかみを、止めることができなかったのだ。
「何の話ですか?」
「その苗字、女だから継がなかっただけで、お前さんにもわかるんだろう?」
……
「俺は葛之葉だぜ?」
……そういえば、そうでしたね」
 観念した彼女の伏せた目に、正直「勝った」と思ったのは、しかし一瞬だった。
「私は、半端者なので、家は継げませんでした」
「へぇ?」
 思ったよりも闇が深いな、と気づいてからは、やっちまったか、という後悔ばかりが雨彦の胸を締め付けた。
「でも、いいんですよ。感覚ばっかり鋭くたって、肝心の、祓う力がほとんどないんじゃ、意味ないですから」
……お前さん、目じゃないんだな」
「はい」
 二人きりのミーティングルーム、沈黙がやけにうるさくて、雨彦は募り続ける後悔に顔をしかめた。
「うちは耳です。葛之葉、さんは、目ですよね」
「そうだな」
……きっと、掃除もできるんですよね」
「うちのことは知ってるだろう?」
……
 それだけで、お互いのできることとしていいことの情報交換は終わる。さぞかし生きづらいだろう、と彼女の気持ちに寄り添いたいと思ったのは、そんな彼女に、見透かされているな、と思ったからだ。
「生きづらいですけど、一生懸命になれることを自分で見つけるのって、いいことだと思うんです」
……そうかい」
 ニコニコと、太陽のように笑うのだ。彼女は。
「葛之葉さんだってそうですよ」
……俺が、かい?」
 そんな風に笑いかけて、雨彦も同じだ、と言うのだ。

「これから、一生懸命になれることに、一生懸命になりましょうよ。一緒に」

 よろしくお願いします、と差し出された手を素直に取れたのは、同業者のよしみというのももちろんあったが、それよりも、彼女自身が持つ人間的な魅力が、自分の生まれやしがらみを、きれいに掃除してくれたからだと雨彦は自覚する。

「そうだな、よろしく頼むぜ、プロデューサー」

 お前さん、祓う力がないなんて嘘だな。

 その言葉を飲み込んで、雨彦はそれ以降、同業については一切触れないと固く誓った。


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