@corona_moca1111
「はぁ、あいつ、勝手に役割決めといて意外と適任なのも全てむかつきますね。まぁどーせ役割ですよはいはい。まぁ得意なのでいいんですけど。
と、いうことで。
哲学人「人知原理論」。証言台に立ちなさい。」
超自我が指を鳴らすとそこは裁判所だった。ずらっと並ぶそれらは全て魑魅魍魎で、資料もなにもなく整えられているはずの空間が歪んでいる。
「はぁ……まぁそうでしょうね。貴方には責任能力がないですから。ほら、席くらいあるでしょうちゃんと座って。」
「どうして?」
「どうして、とは。」
「人知原理論」は怯えている。恐怖感情。侵食の恐怖。肯定するベースの消失、暗転。
「どうして僕のことを否定するの?」
「どうしてでしょうね。」
残念ながらいままでのように生暖かくする慈悲も今はない。こちらの気持ちが被害者から来るものと長い間の怨嗟とで冷え切り始めている。
「そう返されても覚えてないよ…」
「「どうして忘れたんですか?」どうして覚えられないんだよいつも怒られているくせに」
「なんでそんなこというの、酷いよ……。」
彼の横にいる彼の分身、いや、彼の「超自我」なのだろうか。が検察側の席についている。本来は僕が立つかなぁと思っていた場所だ。
ああ、どうなってんのかなんとなくわかってきた気がする。
「……「人知原理論」さん、そこは貴方の立ち位置じゃないでしょう」
「「……へ?」」
2人の声が重なる。
本体の方の彼はいつのまにかイド的な方の席、個人的無意識の中の欲求の方によっていて、記録係の席もそれに伴う自我の席も全て空っぽで。まず初めに事件当時のレポートからなにからデータが足りないことは浮き彫りになって。
自我が空白、なのとさっきの発言とを組み合わせてもやっぱりそうとしか考えられない。
この人の自我はどこへ行ってしまったんだ?
「……めんどくさいのでキネさんに戻しますね。キネさん、貴方さっき「哲学人の思想なんて、初めから哲学に染まっている」とおっしゃっていましたが覚えてますか。」
ああ、キネさんのいつもの顔だ。こりゃだめか。
「ほら怒ってる、謝れよ」
キネさんの分身が怒ってるが、彼も覚えていないようで本も出てこない。仕方ないな俺が書くか。
「……キネさんのお友達さん?今日は僕が叱るので一旦帰ってもらってもいいですか。今回必要なのは理性的な対談で、罪悪感ではないので。」
「……。」
よし、黙ってくれた。いるけど。
歪な裁判所は切り替わってビデオが見れるようなカウンセリングルームをつくった。ソファーに2人腰掛けてもらって、反対側に座る。
「わかってるんですよ貴方に制約があることくらい。そこにいるのは「客体君」でしょう?貴方が主体で、第一性質はないはずで、かつ、作者の矛盾でアンタは心理学を自分のこととして学べないんだ。だからなんで悩んでんのかわかんないしなんで怒られてるかわかんない。僕らのことだって心理学系哲学人ってわかるけど神様としか見てない。言っときますが、哲学人ですよ。貴方と同じです。」
超自我は一息で言い終わった。
流れていく記憶を見て入ってないことも自覚していた。
「アンタがバークリーさんの話ならちゃんと知覚してそこに留まってるはずなんですが。なんで話したことやビジュアルやらなんやらまで流れてるんですか。哲学じゃない、貴方自身の記憶はどこに行ったんですか。」
超自我は冷徹に言い放つ。
彼はうつむいたまま首を振る。泣き出しそうな目も、なんにも覚えてない上に流されて怒っている「客体」も、彼には見通せていた。
「……いいです。攻めてないし。心理学の内容なんて知らなくても治療できるし。どちらにせよ、貴方は治療が必要なんです。記憶を保持できないと責任能力も自己肯定感も哲学の在り方も全部空っぽになって当然でしょうが。」
超自我は彼のことを殴るようにがさつに撫でた。
「はいはい、……正直今のアンタはいい子じゃないですが。」
彼は、まるで今までそうされたことがないかのような顔をしている。
「……??」
救いの受け皿までねえなさては。こりゃ困った患者だよ全く。
「ほら、誤解を解くコマンドを探しに行きますよ。理解されたいなら、まずは自分のこと自分で知らないとだめでしょう。時間はかかるでしょうが、俺も手伝うし為せば成るでしょう。記憶探しです。」
手をひっつかんで、彼ごと夢の外まで引っ張り落ちた。