@acbh_dmc4
たまにはどこか遠い土地へ観光旅行なんぞをしてみたい。
そんなことをエツィオが言い出したもので、現在ローマのメモリを抜け出してサーバー内をうろついていた。
とはいえ、アニムスで解析されているアサシンの出身国と時代にしか行けないため、今の所イラク、イタリア、トルコ、アメリカ、七武海周辺というところだろうか。
中国やインド等のアジア圏も行けなくはないが、現在はそんなに頻繁に解析されていない。
テンプル騎士団に見つかっては、塩どころか金塊を送るもいいところになってしまうが、新たな時代のアサシンのメモリーでも私が解析して、その時代を作り上げようかと考えていると、エツィオが私の背を軽く叩き、希望するメモリーを決めていた。
私はエツィオの指定したメモリーを見上げると、思わず怪訝な顔をしてエツィオの顔を見返した。
「コンスタンティノープル?お前も私のメモリーは一通り読み込んでいたではないか。ここの世界の事は十分知って居る筈だと思うが…」
「知識を入れたに過ぎない。言ってみれば、人の記録を映像で見ただけだ。それにあんたの任務の様子を見ただけだから、観光した訳じゃないだろ」
「まぁ、お前が良いのなら構わないが…」
「では決まりだな」
鼻歌交じりにメモリーの中に入り込む。
解析者を追い出すために、敵対しているイェニチェリの体を乗っ取って、さっさと私の姿をした解析者を始末してからメモリーをロックしていた。容赦ない。
少し位躊躇してくれてもいいのでは、と思ってエツィオの隣に立てば、私の顔を見て鼻で嗤った。
「中身があんたではないから問題ないだろう?」
「まぁ、時折本気で私を殺しに掛かって来るからな。いつも通りか…」
片眉を上げて、心底馬鹿にしたような顔で私を一瞥すると、エツィオは真っ直ぐガラータへと向かって行った。
街を歩いていると、背後から刺客に襲われかけたので返り討ちにする。
後ろで私が羽交い絞めにされているのに、エツィオときたらチラリとこちらを一瞥したきりで、気にせず先に進んでいた。普通に傷つく。
少し位心配してくれても良いじゃないかと、エツィオの背中に恨みがましい視線を投げつけていたら、エツィオがこの世界のメモリーから私が以前したように、アサシン教団とテンプル騎士団の設定を取り除いていた。
エツィオ曰く「一々隣で襲われていては、目障りだからな」とぶっきら棒に言っていたが、彼なりに心配してくれていたようで少しだけ嬉しくなった。
「それにしたって気を抜き過ぎだ。何簡単に背後を取られているんだ、情けない」
「ローマでの生活で襲われることなんてなかったのだから、仕方ないだろう?命がけの戦闘なんて、お前に喧嘩を売って戯れに戦う位だし」
「ああ、俺は本気でアンタを殺そうとしてるのに、モブに対しては完全に無防備…おお、良い事を考えついた」
「もう金輪際油断等しないし、お前がいくら刺客を放とうが返り討ちにしてやる。というか、私はお前の親も同然なのに、本気で殺しにかかるとか酷過ぎるじゃないか」
「親は選べないというが、ここまで外れを引くなんて悲劇もいいところだ」
大げさに嘆いて見せるエツィオに、今ここで命のやり取りを繰り広げてやろうか、とチラと思ったが、嬉々として乗ってきそうなのでやめておく。
ガラータの隠れ家に着くと、そこを拠点として部屋を整え、それなりに日が暮れてきていたので食事をとりに外へと出た。
この国は特に魚介類などが豊富で、ムール貝の酒蒸しなどを屋台で買って食べ歩きをした。
ああ、確かにこうして観光のように街を練り歩くのは楽しくて良いものだ。
特に追われる心配もないし、何よりもう随分とこの街並みが懐かしい気持ちになる。
羊肉の串焼きを頬張り、次はあそこだと目に付く豪奢な建築物の見物に歩いた。
翌日はガラータを出て、コンスタンティノープルを端から見物することにした。
大きなバザールの店頭に並ぶ、色とりどりの絨毯や衣装、変わった形の家具や嗜好品を見て回る。自分用とエツィオに上等な布を購入し、ローマのメモリーに戻ったらこれで衣服を仕立てようと計画する。
同時に今すぐに着れる衣服も調達して、それに着替えれば、エキゾチックな雰囲気がまた互いの魅力を引き上げて衆目を集めていた。
しかし、私というよりは年がいくらか若いエツィオの方へと皆の視線が集まっている気がする。少しだけ面白くない思いがして、私も同じくらいかもう少し若く見た目を変えようかと考えてしまった。
バザールを出て適当に道を歩いていると、エツィオが嫌そうな顔をして、ある一点を凝視した。
釣られてエツィオの視線を追うと、そこには酒瓶を片手にへべれけになったドゥーチョが千鳥足でヨロヨロと徘徊していた。
周りの住民も迷惑そうな視線をドゥーチョへと寄越し、遠巻きにして通り過ぎていた。
「何故アレがいるんだ…」
「そういえば、あの男もこのメモリーに居たのだったな。すっかり忘れていた」
「俺も存在自体を綺麗に忘れて居たよ。それで消去しそこなったのか…まぁいい」
エツィオは徐にドゥーチョへと近寄ると、問答無用で手にナイフを形成し、心臓を一突きしてから何事もなかったように道を進んでいった。
ドサリと倒れ伏して痙攣し、やがてピクリとも動かなくなったドゥーチョをなんとなく哀れに思って見つめる。
最初にやったように設定を弄り、ドゥーチョを削除するのでもいいが、一番手っ取り早い暗殺の手段をもって物理的に消したのだ。
確かに一人だけを消すのなら、この方が手っ取り早いなと思い、残った死体は消したものかと思案した。
その間もエツィオは進み続けて、仕立て屋の辺りまで進んでしまっていた。
私が付いてこないのを漸く訝しんだエツィオが、こちらを振り向くと同時に、私は思わず手に持っていた荷物をボトリと落としてしまっていた。
リンゴの力で分身を出現させるが如く、殺されたドゥーチョがまた出現したのだ。それも、ドゥーチョの死体の前で。
思わずポカンとドゥーチョを凝視したまま固まってしまっていたら、エツィオが面倒くさそうな顔をしてこちらに戻って来た。
そして殺したはずのドゥーチョが、また目の前にいることに少し驚いたのか目を瞠ったが、また容赦なく投げナイフでドゥーチョの頭部を射抜くと、これで問題ないだろうと言わんばかりに鼻を鳴らしてまた踵を返した。
どうやら最初に殺したドゥーチョの死体はエツィオには死角で見えなかったようで、殺したはずのドゥーチョが死んでいなかったのを、私が揶揄していると思ったようだ。
そして私はなんとなく予感がして、エツィオがまた仕立て屋の前まで進むのを見送り、もう一度ドゥーチョの死体の転がっている辺りを確認した。
「ああ、やっぱり出るよな」
もう一体のドゥーチョが、2体の死体の前に出現し、酔っぱらいながらも目の前の自分の死体にビックリして、恐々と自分の死体を確認していた。実にシュールである。
念のためドゥーチョが何故こうも出現し続けるのか、ドゥーチョのシナリオを確認すれば、倒し方が決まっているらしい。
要は殴り倒さないことには延々と出続ける。
だが、何故死体が消えず、ドゥーチョが湧き続けるのか…どうもこれはバグではなく、仕様っぽい感じがする。
じっくりと観察をしてしまっていたら、またエツィオが私を振り向いて、さっさと来い!と苛立ちながら叫んで促してきた。
まぁ、別に居るなら居るで良いかと思い、私は急いでエツィオの下へと向かった。
「何をドゥーチョが死んだ程度で呆然としているんだ?アンタあいつが好きなのか?」
「いやぁ~、なんだか面白いものを見たのでな。死体はあのまま放置してきたし、後で戻って見てみるか?」
「ドゥーチョの死体を?面白いもんでもないだろう。しかし…見るだけで虫唾が走る男だが、知っている者がああして人形のように突っ立ってられると、何とも言えない胸糞の悪さを感じるな」
つい先日、自らレオナルドを作成した時の事を思い出しているのだろう。表情が強張り、目に暗く影を落とす。
彼の心を慮り、後でこっそりドゥーチョを殴りに行って、この世界から削除しておいてやろうと心に決めた。
…と、ドゥーチョを殴りに行くのをすっかり忘れて数日後、今日は二人別行動で私はガラータで一心不乱にトルコアイスを練りながら、エツィオの帰りを待っていた。
急に甘いものが食べたくなって、また折角コンスタンティノープルに居るのならと、時代は問わずこの国特有のお菓子をと検索してみた結果、ベタなトルコアイスを作ることに決めたのだ。
エツィオも軽くその辺を散歩するだけだと言っていたし、そろそろ帰って来る筈だ。
一緒に食べるために、冷凍室へと出来上がったトルコアイスを仕舞い(後で取り分ける時にめっちゃアイス伸ばす!)、トルココーヒーの準備をして帰りを待った。
しかし、待てど暮らせどエツィオが帰ってこない。
そろそろ日が暮れるかというときになって、なんとなく心配になってエツィオを探しに街へと出た。
エツィオの位置は、マップ上から確認できる。
目の前にスクリーンを出現させて、エツィオのいる位置を確認し、そちらへと距離を短縮して迎えに行った。(ワープみたいなものだ)
私はエツィオを迎えに行ったはずだが、目の前に広がったのは、阿鼻叫喚の殺戮の跡だった。
目の前に転がる紫のシャツを着た男の死体と噎せ返るような酒と血の匂い。
山と積まれたドゥーチョの無数の死体に、出現しては撃ち殺されるドゥーチョの姿。
そして遠目から鬼の形相で復活したドゥーチョを見ては射殺すエツィオに、これ以上続けさせたらまずいと思い、エツィオの腕を強引に引いてその場を離れた。
「お、お前は…いったい何をやっているんだ…?今までずっとアレを削除しようと躍起になっていたのか?」
もう瞳孔かっ開いて明らかに興奮状態のエツィオを落ち着かせようと、ガラータに強制転移してフカフカのクッションの海に放り投げた。
心を落ち着かせる効果のあるカモミールを、情緒はないがもうとにかく急ぎで作成し、エツィオの手に持たせて匂いを嗅がせるように口元まで運んでやった。
あとは糖分とカルシウムも取らせて落ち着かせようと作っておいたトルコアイスを実演込みで取り分けてやり、エツィオの近くのクッションをいくつか退かして置いてやった。
暫くエツィオがお茶を飲んだり、アイスを食べたりしているのを注意深く観察し、徐々に殺気立った空気が落ち着き始めたところでエツィオの正面に座り直した。
すっかり落ち着いた顔色と態度のエツィオが、満足げな溜息を吐き、先ほどの惨状の説明を始めたので、黙って耳を傾ける。
「ドゥーチョがいくら殺しても生き返るから色々試してたんだ」
「…シナリオの確認はしなかったのか?削除を試したりは?」
「ああ。シナリオも確認して殴らないと消えないっていうのも分かっていたが、殺している内になんだか妙な気分になってきてな…」
「…み、妙な気分…?」
「ああ、まぁなんていうか…あいつは削除しなくてもいいかな、と…」
なんだろう、エツィオが壊れてしまった…最近レオナルドを自ら作成しようとして絶望したばかりだというのに…そもそもあのせいで暫く心が沈んで、気分転換に旅行に行きたいと言い出したのだろうに…
こんなところに余計な遺物が転がっていたせいで…
私は思わず両手で顔を覆って、さっさと殴りにいかなかった自分を今すぐ殴り倒したいと思いながら、後悔と懺悔の気持ちで一杯になった。
しかし、エツィオはそんな私の両腕を取ると、満足そうに笑顔を見せ、何でもないことのように私に話しかけた。
「あんなのでも、なんだか居なくなると寂しい気がするから、ここでは削除しないでおこう。それとこことローマのメモリーは繋げられないか?世界は広い方が良いだろう?」
「だが、お前は…知り合いがいると辛い気持ちになるのでは…」
「ああ、なんていうか吹っ切れた。それに鬱憤溜まったら気軽に殺りに来れたらいいと思ったのだ」
「…おい、それそのうち見た目が私になったりしないだろうな?」
「ああ、たまには混ぜようかと思ってる」
とても爽やかないい笑顔で肯定されて、この子との一向に埋まらない心の距離と、何故だか感じる理不尽な思いに、私も今から腹いせにドゥーチョを殴りに行こうと、今度こそ深く心に決めたのだった。
弱いものイジメの実績解除。