@toasdm
体毛は、眉の色と同じだと聞いたことがある。彼女は圭の線の細い横顔の、整った眉あたりをちらりと確認する。髪色とさして変わらない明るい圭の眉の色、彼女は興味をくすぐられる。
「うん?」
視線に気づいてこちらを見て、にこりと微笑む圭の、華奢と男らしさが同居した手が柔らかな金色の髪を耳にかける。
「どうしたの?」
「いえ……」
耳にかけた髪の隙間から露出した、甘やかに弧を描く口元や頬、顎。
男性である圭にもきっと、そこに髭が生えるのだろう、と考えてみて、彼女は自分の中に違和感が生まれてことに違和感を覚えていた。
都築さんも、男性だから、お髭生えたりするんだよね……?
あんまり濃いイメージはないけど、生えるってことは、剃ってるんだよね……?
あの、都築さんが、お髭剃ってる、の?!
脳内に思い描く男性らしい仕草に違和感を覚えはするものの、さりとて圭が男性であることには変わりなく、私はいったい、都築さんに何を求めているんだろう、と思考の迷路に迷い込み、彼女は口ごもった。
「なにか、心配事かい?」
「いや、そういう、わけでは」
「そう……?」
明らかに納得していない圭本人に聞いてみるのが一番手っ取り早いのだろうが、なんと切り出せばいいかわからない。あの、ええと、とまごつく彼女を優しく見守る圭ならば、恐らく気を悪くしたりせず、普通に答えてくれるとは、思うのだが――…。
「僕には言えない悩みかな?」
イエスかノーかで言えばノーだし、圭にしか答えられない謎だった。本当に、心底心配をしているような顔をされると、彼女の胸は罪悪感で押しつぶされそうになる。眉尻を下げる圭に、彼女はとうとう観念して、ストレートに聞いてみることにした。
「都築、さんも」
「うん?」
真っすぐ見つめ返してくる無垢な印象の瞳から僅かに目線を逸らし、彼女は消え入りそうな声で尋ねた。
「おヒゲ、生えるんですよね……?」
たっぷりの沈黙。やっぱりなんでもないです、と早口で言った彼女を、圭はきょとんとした顔で見つめて、それからふわりと笑った。
「うん、男だからね」
この人からそんな言葉が出るのが違和感なんだよなぁ、と彼女はどこか他人事のように傍観する。そんなことかい?と悪戯っぽくくすくすと笑い、圭は続けた。
「あまり、濃くはないけど……ちゃんと、生えるよ」
「な、なに色、の?」
「髪と同じ色、だけど……」
不思議そうな顔で見られることが、彼女にとっては不思議だった。そんな悩みだったの?とくすくす笑う圭と、あの男性らしさの象徴的な髭という存在が、彼女の中ではどうしても同列に扱えなかったのだ。
「そうだね、こんな」
そして。
「こんな感じに、なる、かな?」
「っ!?」
先ほど耳にかけていた髪の毛の一束をしなやかな指で摘まんで、鼻の下にちょんと持ってくるようなお茶目なところも、意外性しかなかった。
「あまり生えてはこないから、三日に一度くらいしか剃っていないよ」
「剃ってるんですか?!」
「?」
生えるからね、と毛先を弄び、圭は口髭もどきをぴるぴると揺らす。この人こんなにお茶目だったっけ?!と混乱する彼女の意図や考えがよくわからなかったのか、圭はこてんと小首を傾げて尋ねた。
「伸ばしてみようか?」
「いいいい、いいです、いいです!」
なんか色々解釈違いを起こしそうで、とすっかり混乱した彼女の悩みが解決したと悟ったのか、圭は不思議そうな顔をしながらも一応納得する。
機嫌よさそうに鼻歌を歌う圭の横顔をまたちらちらと盗み見ながら、彼女の頭の中はすっかり、圭が髭を剃る時の仕草のことでいっぱいになっていた。