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[北P♀]敬愛

全体公開 2010文字
2020-02-08 13:00:50

「プロデューサーは可愛いと思いますよ」
リップクリームを塗る仕草で、自分がPさんを女性として意識してるんだな、と恋心に気付いた北斗のお話です。

Posted by @toasdm

 惹きつけられたその理由には思い当たる節があるが、そういう感情ではないと思っていた分混乱する。そういうつもりじゃない、そういうつもりで彼女のことを、見ていた記憶はない。
「?」
……色付き、なんですね」
「はい、なんか体温とかそういうので、つける人によって違うみたいで」
 色気づいちゃったかな、と照れたように笑う仕草が、また北斗を混乱させる。そういう対象じゃないはずだけど、ともう一度頭を納得させようとするものの、どこか無視できない、なんともいえないときめきのような甘い痺れが、じわりと頭を占めていく。
「よく似合ってますよ」
「えへへ……うん、なんか、北斗くんに言われると自信持っちゃいそうだね」
「ええ、是非持ってください」
 俺のお墨付きですから、と普段通りにウィンクがてらお得意のチャオ☆を繰り出しても、俺が言いたいのはそういうことじゃない、と心のどこかがそれを否定する。ありがとう、と嬉しそうに笑う彼女を、北斗は今、尊敬できるプロデューサーとしてではなく、抱きしめたくなるような一人の女性としてとらえてしまって動揺していた。

 ただ、リップクリームを塗っていただけ、なんだけどな。

 打合せの時間合わせに入った小洒落たカフェ、向かいに座った彼女は注文を決めてからリップクリームを塗っていた。コンパクトを取り出してそれを覗き込み、柔らかそうな唇を薄く開いてすっとそこにリップクリームを滑らせる。そんな何気ない動作になぜ自分がここまで心惹かれてしまったのかも、実のところ、北斗はよくわかってはいない。
 女性がリップクリームを塗るところなんて、もう何度も見てきている。性別に拘らなければ、極々当たり前に、日常にありふれた動作の一つだ。匂い立つような強烈な色香も、思わず引き寄せたくなるような可愛らしさもない、ただの、髪を直す仕草のようなそんな見慣れた光景だ。
 それなのに、なぜ。
 しかも、敬愛している彼女に対して、なぜ自分はそんな風に――抱き寄せて、キスをして、その温度と柔らかさと味を確かめてみたい、などと思ってしまったのか。北斗にはよくわからなかった。
「普段あんまりメイクもしないし、髪形もこんなんだからあんまり、ね」
「そうですか?」
 その、彼女の言う「あんまり」が、あんまり女性らしくないから、という意味であれば、北斗はそれをすぐさま否定しなければならない。どんな女性も皆美しく、その女性なりの魅力がある、というのは北斗の持論だ。えへへ、と照れたようにまた笑う彼女のことを、北斗は今以上に、愛らしく魅力的だと感じたことはなかった。
「プロデューサーは可愛いと思いますよ」
「っふふ、ありがと。お世辞でも嬉しいな」
 これは、否定したらなにか、誤解を受けてしまうかな?
 そう思う気持ちよりも先に北斗の中に生まれたのは、冗談じゃない、だった。
 冗談じゃない。どんな女性も魅力的だし、特に――そこまで考えて、北斗は完全に、彼女に惹かれている自分に気が付いた。
「全世界の男がほっとかないと思いますよ」
「もー、言い過ぎ!」
「あはは」
 全世界に俺しかいないなら、俺はほっとかないですから。
 そんな口説き文句がするりと出てきそうになる口を噤んで、笑顔に変換する。ダメだ、俺今多分、好きになっちゃいけない人のこと好きになってる。脳裏をよぎる雑音は全て、仕事関係のことばかりだ。
 彼女は、プロデューサーとして充実した毎日を過ごしていて、俺はそこを本当に尊敬していて、敬愛しているはずだ。
 頭は必死に、心を説得しようとする。そんな北斗の葛藤も知らずに彼女は、やっぱり少しでも色ついてた方が可愛く見えるかな、と何やらうきうきとした様子で、すっかり上機嫌だ。
「北斗くんはどう思う?」
「え?」
「色」
 彼女の興味は自分ではなく、リップクリームの色の方に移っている。こちらを向かれたらどうにかなってしまいそうだな、と苦笑して、北斗はそうですね、と彼女の手を包もうとして、引っ込める。
 ――普段なら、いけたと思ったんだけど。
 ナチュラルに過剰なボディタッチの多い北斗が、躊躇う程に北斗の想いは真剣だった。向き合う覚悟も、目を逸らし続ける自信もない今は、やめておいた方がいい。そんな風に考えて、北斗は無難に答える。
「今の色、とても似あってると思います。季節とか気分によって変えるのもいいかも」
「わ、なんかそれっぽい!」
 きゃっきゃと喜ぶ彼女に触れる資格は、覚悟の決まらない今の北斗にはない。お待たせしました、と運ばれてきたコーヒーを飲みながら、北斗は頭を冷やした。

 俺、ちゃんとしたい人には結構ちゃんとするんですよ。

 北斗の密かな宣言を、彼女は知らない。
 この敬愛がいつか形を変えても、俺から逃げないでくださいね、と野心を灯した恋心は、ちょうど彼女の唇のような色に染まっていた。


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