@875108Express_
「………はっ!!!」
私立大病院のラボのベッドで、男は目を覚ました。
確か、先程やって来た『彼』に諸々託した気がする。その後、日々の疲労が祟って、力尽きて倒れてしまったのだろうか。いつの間にかベッドの上で、丁寧に寝かされていたようだ。
辺りにエナジードリンクの瓶が転がっているのと、給水タンクの水が切れた空気清浄機がぽつんとおいてあった。デスクには誰かのカルテや処方箋が散らばっていて、端には柔らかい笑みで微笑んでいる黒髪の女性の写真と、眼鏡が置いてあった。
眼鏡をかけると、男はラボを出ていく。ラボを出ると、妙な焦げ臭さと、湿っぽさを感じた。男は顔をしかめて階段をのぼり、三階へとやって来た。
だだっ広い床だけが広がる、三階の床。そこに円になって並べられたのは、12個の冷凍カプセル。そのうちの二つは、既に空いているようだった。
男は迷うことなく、残りの冷凍カプセルのロックの解除を試みた。プシューという音を立てて開いたのは、そのうちの三つだけ。残りの七つは、どんなに強く叩いても、扉が開くことはなかった。それどころか、扉を叩くと中から破裂音が聞こえた。破裂音にたじろぎながら、男は扉があいた冷凍カプセルに近づいた。
あいた冷凍カプセルに入っていた少年少女たちは、穏やかそうな表情で眠っていた。この三人も、じきに目が覚めるはずだ。そう思った男は、着用していた白衣のポケットから、注射器を取り出す。
「薬が間に合ったのは…ここの三人と、先にカプセルから出た二人…そしてリズットくんだけか。…すまない、本当にすまない!せめて、君たちの未来だけでも…取り戻してみせる…!」
そう決意し、一人目の腕に注射器の針を刺そうとした。
が、それを阻止するかのように、男のPHSが鳴った。突然のことに男は注射器を引っ込め、代わりにPHSを手に取った。
「…はい、花宮です」
淡々と応答すると、男…花宮の耳元に、下品な笑い声が聞こえてきた。それを聞くなり、花宮は青ざめた表情で腰を抜かした。
「なっ…!こっ、こここ今度は何なんですか!もういい加減にしてくださいっ!!怤藍ちゃんやリズットくんだけじゃなく…うちの妻まで巻き込んで…!」
怖じ気づきながらも声をあげる花宮に、相手はなにかを告げたようだ。
「はっ…はぁ!?何てことを…!!あぁ…俺はまた救えなかったのか…!…ちょっ!?今、何と?!そうやってまた、彼の命を…?あ、あの子は、貴方のサンドバッグじゃありません!れっきとした、未来ある普通の男の子なんですよ?!…もう沢山なんです。貴方がそのつもりなら、こっちだって、考えがあります!!…覚悟してください。あの子達と一緒に、貴方のわがままを終わらせてやりますから!」
強がって反抗する35歳の成人男性、花宮は年甲斐もなく涙目になって怯えていた。
相手はそんな花宮に「知ったことか」と言わんばかりの一言を残すと、電話を切った。電話が終わるなり、花宮は胸を押さえて項垂れる。
「はぁ…はぁ…!怖い…何もかもが怖い…!頭と胃が破裂寸前!今日が俺の命日かもしれない!…って、医者がこんなんじゃ誰も救えない…!…大丈夫、何かあったら労災ってことにしよう。それと…俺には『アレ』がある…」
PHSを白衣のポケットにしまい、男は深呼吸すると、何処かへと駆け出した。まだ眠っている三人を、その場に残して。
○
同じ頃、二階のホールで休憩をとっていた五人の男女。リズットは自販機で全員分のホットレモネードを購入しては、それを配布していた。
時刻は午前11時。朝食らしいものをとっていなかったのか、怤藍の腹から立て続けに気の抜けた音が鳴っていた。
「レモネード美味しい…美味しいんだけど、何か美味しいおやつ食べたい…お腹すいた……」
ぼそっと呟く怤藍。それを聞いてリズットは、ホールの出入口が出れるかどうかを確認した。
イヴァン「食べるものなぁ……」
「病院食、あんまり美味しくないんだよね…。この間食べた鯖の味噌煮から、紙きれみたいな味がしたんだよ…」
希更「あたしちゃんもお腹ぺこぺこだぁ……何かないかなぁ……」
イヴァン「鯖の味噌煮の味は知らないけれど、紙の味は不味そうだなぁ……確かに」
「ね~!美味しいおやつ食べたぁい!」
それとなく空腹を訴える怤藍を放置し、周囲を見渡すリズット。先程の爆発によりスプリンクラーが作動していたのか、ホールの外が水浸しになっていた。
「出られなくはないけど、足元が悪くなったな…」
リズットがじっと床を見下ろしていると、ホールの外からけたたましい足音が聞こえてきた。
さらに。
「こんな生活とっととやめたぁ~~~~~い!!!!!」
…悲痛な男の叫び声が近づいてくる。突然のことに、リズットは思わず出入口から身を引っ込める。
「いきなりの『それ』は、心臓に悪いのですが…」
驚きのあまりリズットが胸を押さえてしゃがみこむので、怤藍や他の三人が、出入口からそっと外をのぞいてみる。
アイザック「…あん?」
「んえぇ………?」
アイザック「…(顔を覗かせ)…なぁんだ、なんだいったい」
出入口から身を乗り出して様子を見ると、そこにいたのは。
希更「なになに……?(覗き込む)」
イヴァン「ん?」
「誰か俺にいい病院と、とっておきの旅行プランを紹介してくれ~~~!!!」
…と叫びながら、千鳥足で此方に向かう白衣の男。
アイザック「……(呆れたように)……アンタ、医者だろ」
「?!えっ、先生!?先生だ!!先生!!」
男を見るなり、怤藍は勢いよくホールを飛び出した。が、床が水浸しになっているせいで、怤藍はホールを出るなり勢いよくスッ転んだ。
希更「ふらんちゃん……!?」
アイザック「あっ」
さらにそこに、周囲が見えていない白衣の男がやってくるものだったので、彼はタイミング悪くスッ転んだ怤藍と激突する。反動で男がかけていた眼鏡が、床に振り落とされる。
「あ゛~~~~っ!?!!??!!」
男は衝撃のあまりその場でうずくまり、怤藍は倒れたまま半泣きになる。
「何やってるんですかあなたたち…」
片方の視界が遮られたせいで平行感覚が悪いリズットは、壁をつたって二人のもとに歩み寄る。希更、イヴァン、アイザックも、続けて彼らのもとにかけよった。
怤藍と激突したことにより、男は正気を取り戻したのだろうか。目をこすって眼鏡をひろうと、男はそれをかけて全員の顔を見た。
「あ…えっと…いきなり大声だしてごめん…。ちょっとさっき…というかいつものことなんだけど、いろいろあってパニックになってて…」
「あいたたた…」と、男は髪をかきむしりながら、名札を見せた。
「そ、そっちのお嬢さんと…噂のプログラマーさんは…俺とははじめまして…かな?えっと…はじめまして」
アイザック「…ま、そうだな。ドーモ、はじめまして。アイザック=カルツェ=エマニュエルだ。アイザックでいい」
希更「あ!えと、初めまして!あたしちゃ……私、鵠間希更です……!」
「アイザックさんに、希更ちゃん。うんうん…俺は花宮っていいます。一応…医者、です。よ、よろしく…」
へへっと笑う花宮の目元には、深い隈が出来ていた。
「怤藍ちゃんから、いろいろ聞いてるよ。皆俺よりも凄く勇敢で…はぁー駄目。俺医者向いてないな…って、脱線するなよ俺…」
ぺちぺちと自分の頬を叩きながら、花宮がリズットに目を向ける 。
イヴァン「……(先生しっかり~って視線を向けてる)」
「スゥ~~~……で、リズットくんも薬のお陰で…。うん、異常はなさそうで…加えて、男っぽさが増したようで何より。…ちょっと色々あって、君の左目が壊死しちゃったようだけど…」
花宮の言葉に、リズットは左目をそっと触った。
「これくらい別に…どうってことないです。むしろ昔予想してたのとは、良い意味で違う体になれたので…感謝してます。ありがとうございます、先生」
「…そっか!」
花宮はリズットに笑いかけると、今度はイヴァンに目を向けた。
「それから…イヴァンくん。頼みを聞いてくれてありがとう。…あぁ、このひと悶着が終わったら、諸々の御礼をかねて、何かご馳走させてね。…はぁ、俺なんかに君はもったいないや…」
イヴァン「……ったく、何ですか急に……そんなの別に気にしなくても良いけど……あぁ~~俺が参加してる期間に弟たちの公演があったら詫びを頼みます」
「はははっ、任せて任せて~…はぁ…有給とれるようにしなきゃ………」
このやりとりに違和感を抱いた者もいたが、何も気づいていない花宮は本題に入ろうとしていた。
「…そうだ!君たちに、伝えておかないといけないことがある!」
面々が首を傾げると、花宮は重々しく口を開いた。
「落ち着いて聞いてほしい。…実は、電子空間に取り残された子達…カルカタッタに残ってる子達、かな。その子達が…もう、現実世界で目を覚まさないことが確定した」
その言葉を聞いて、怤藍は目を見開いた。花宮はうつむきながら話を続ける。
希更「……どういう、こと……?」
アイザック「………なんでだ?」
イヴァン「……………………」
「とりあえず、最後まで聞いて欲しい。…不思議なことに、電子空間上で彼らの意識は生きている…まるで人工知能みたいに。だから、彼らは現実世界では『脳死』…だけど、電子空間では永遠の命を手に入れた…ってことになるらしくて…」
ここまで告げると、花宮は奥歯を噛み締める。
「…そんな彼らなんだけど、実は『電子空間にいる彼ら』が…彼ら自身は気づいていないんだけど、今…あの人の人質に、なっている…んだ…」
花宮は先程から何を言っているのだろうか。面々は話を聞きながらも、訳がわからないと言わんばかり表情をしていた。
「…実はさ、三階の冷凍カプセルにいた子の中に、そろそろ目をさましそうな子たちも一応いるんだ。その子たちと合流してから、話の続きをしようと思う」
そういって花宮は、全員を連れて三階へと向かう。
アイザック「…(3階に向かいつつ)…いちおー、生きてるやつもいるんだな?」
「そうだと…いいなぁ…ね、リズット…」
「えっ………あ、あぁ……そうだな。…そうじゃないと、ヤなんだよなぁ…」
希更「わ、わかった……多分かな、みんな……(3階へ向かう)」
イヴァン「……(のんびり皆に着いていき)」
三階に向かうと、扉があいた冷凍カプセルの中にいた三人…りんご、冬真、パピヨンが丁度目を覚ました所だった。
🍎「おはよぉさん!何やいっぱいおるなぁ。」
「ふ、ふわぁ、あ。うーん、……もう朝なの?くあ、あ、ぁ。…きゃっっっ!!知らない所だわ、知らな人だわ!!……!!!リズ!!!!!」
「うわっ!」
「『うわっ!』じゃない!!リズット!!三人とも生きてる!!生きてるよ!!」
イヴァン「……(少し安堵の息をこぼし)……おはよう、みんな」
「リズ!!リズ!!!あなた本当にリズね?私が見てる幻想とかじゃない?」
「えっ、リアクションに困る…。えっと………無事に、生きて帰って?きたよ…パピィ」
希更「……!よ、良かったあ、みんな、生きてたんだね…!(目を潤ませ)」
「おはよう!みんな!そこにいらっしゃる少しお疲れの紳士様はどなた?」
🍎「うーん、まさかこんなSFなカプセルに入っとるとはなぁ…りんご味のお薬かぁ」
「皆゛生゛き゛て゛て゛よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛」
「あー…えっと…」
現実世界での再開を果たした面々は、ふと、あいていない冷凍カプセルに目がついた。花宮は先程目が覚めた三人に自己紹介をし、残りの五人は、ここまでのことを話した。
「………ということが、あってね。…で、急なんだけど、冷静に聞いてほしい。ここにいない搭乗人物の子たちは…ここにはいない『阿久津さん』って人の人質にとられているんだ。とはいえ、あの子たちはそのことに気づいていないんだけど」
花宮は地べたに座ると、真剣な表情で全員の顔をみて、話を始めた。
「目的は、あの子達を『手駒』にすることらしい。…金になるからという理由で、あの子達を洗脳して『サイバーテロ』を起こしたいんだって。それで世界の医療システムを破綻させるんだとか。それでどんな利益が生まれるのか、俺には到底理解出来ないんだけど…阿久津さんは、愉快犯思想も持ち合わせてるからな…」
🍎「うーん悪質」
「…そう、そうなの。……そうよね、どうすれば阿久津さんからみんなを守れるの?」
ため息をつきながら、花宮はふと、リズットに目を向けた。唐突に目を向けられたリズットは、目を丸くした。
「…えっ、何ですか。嫌すぎる予感がするのですが」
リズットが素直なリアクションをとると、花宮は「さすが…察しが良いな…」と呟いた。
「…で、阿久津さんからの伝言。『カルカタッタ残留組に手をだして欲しくなければ、三時間以内に全員でリズットくんを殺せ』とのこと」
花宮の一言に、リズット以外の全員は驚愕した。
「そいつ殴ればいいのね!分かったわ!どこにいるの??」
「とりあえず落ち着いて最後まで話聞いて~~~~~!!」
アイザック「……………ん?…いや、なんでだ?なぜリズットを狙う?」
🍎「パピヨンちゃんがどんどんバーサーカーに…」
「ふぅ…ちなみに何故リズットくんなのかというと…彼、元々『財閥令嬢』なんだ。まぁ今はれっきとした男の子なんだけども…。で、そんな財閥出身の子が死ぬことにより、普通の人の倍の金額はあるであろう遺産が発生するわけで。その遺産が欲しいんだって、阿久津さん。ちなみにその遺産が手にはいれば、今後一切、怤藍ちゃんや搭乗人物の皆には関わらない…ってさ」
希更「なるほどね……どこまでもサイテーな奴……!!」
花宮が一通り話し終えると、リズットはため息をついた。
「あぁ…成る程、あの人らしい。…そう、そんなに僕が邪魔なんだな。怒りや呆れを通り越して、あの人の鶏にも満たない低能っぷりには、笑えて来てしまいましたよ」
遠い目で乾いた笑みを浮かべるリズットとは対照的に、怤藍は低い声で唸り始めた。
「ううぅ…。ね、ねぇ…希更ちゃん。…やっぱりあたしが…あたしがここで死ねば、阿久津さん、思いとどまって…くれると思う…?」
ざっくばらんに切られた髪を揺らしながら、怤藍がその場でうずくまりながら希更に問うた。それに対して希更は、首を横に振る。
希更「それは違うよ!……死ぬなんてダメって言ったじゃん!イヴァンさんの時みたいに、全員が助かる方法を、今度は皆で考えようよ……!」
希更にそう言われると、怤藍は「そっか…そうだよね…そうだった…」と呟いた。
ちらりとリズットが面々の顔色を盗み見ていると、ふと顔を上げたパピヨンと目が合った。
不安げな表情が、かいま見えた気がした。
「もう、やめてほしいの。…リズに、私の大事な人に、ひどいことしないで欲しい」
リズットが言葉を失っていると、この空気に耐えられないと言わんばかりに、唐突に声を上げる者がいた。
りんご「バカ!アホ!ドジ!マヌケ!おたんこなす!そんなんじゃお前は肥料にもなりゃしないクソ以下や!まるで猿の親戚みたいやなぁ!……何や、青鯖が空に浮かんだような顔して。とにかくお前は滑ってころべばええんやバーーーカ!!」
あまりにも納得がいかなかったのか、怒りが爆発したりんごは、阿久津へのありったけの暴言を吐き散らす。
「まぁまぁ落ち着いて…俺もその気持ちわかる…というかほんと…今にも叫び出したいとこなんだけど、ここ一応病院だからね…?」
そう言ってなだめる花宮なのだが、彼も人のことはあまり言えない男である。そのことを、後から目覚めた三人は、知るよしもなかった。
ふと、りんごの口から吐かれた「滑って転べ」という言葉が、妙に引っかかった冬真。彼は思い出したかのように「わるものを退治するえいがを、カルカタッタで見た気がする」と呟いた。
それを聞いて、心当たりがある搭乗人物たちは、カルカタッタのアトリエにあったビデオコーナーのことを思い出した。様々な映画が置いてあった中に、悪役を懲らしめるような内容のコメディ映画があったことを思い出した。
「ありましたね、そういう映画が。わたくしも『ピーターラビット』なら観ました。…いっそ映画みたいに悪役を懲らしめてすっきりしないと、皆様的には気が済まないのでは無いでしょうか。まぁ、これはあくまでもわたくしの推測にしか過ぎませんが」
リズットがそんなことを言うと、花宮はあることを思いついた。
「これってさ…『怤藍ちゃんの物語の続き』?なんだよね?だったらさ…ここらで物語の終点にしないか?」
「と、いうと?」
怤藍の代わりに、リズットが問う。
「いや、実はさ…良いものがあるんだ。…せっかくの物語の最後なんだ。最後は映画みたいに、痛快な撃退劇でも見せて、阿久津さんに『ぎゃふん!』と言わせてやったら?何なら俺も、阿久津さんが『ぎゃふん!』って言ってるとこ、ちょっと見たいかも」
アイザック「……へえ、そりゃいいな。…でも『いいもの』ってなんだ?」
何か含みのある笑みを浮かべると、花宮はポケットから何かを取り出した。
花宮が取り出したそれは…光沢のある、黒いカードのようだった。
「さぁて皆!これなーんだっ!?」
花宮はそのカードを、搭乗人物たちに見せびらかす。
アイザック「……クレジットカード……?アンタのか……?」
怤藍は首をかしげていたが、リズットはそのカードを見るなりぎょっと青ざめる。
「ふふふふふ…なんと!これは阿久津さんからちょーーーーっと『拝借』してきた、阿久津さんのクレジットカードでっす!!」
花宮が高らかに告げると、漆黒のクレジットカードがキラーンっと輝いた。
「このカードを…そうだなぁ、たまたま目が合ったので、アイザックさんに預けます!はい、どうぞ!」
押しつけるように、花宮はアイザックの手にクレジットカードを握らせる。
アイザック「…へ?なに?」
「それを使うのは…君たち次第!うん!あとは…怤藍ちゃん!いや、未来の大先生!!君に任せよう!!」
「いや、勝手に人のクレジットカードを使うと、あなたたちの方が捕まりますから…!」
リズットが突っ込むと、怤藍がスッと手を挙げた。何やら話を聞いてほしいようだ。
「…アイザックさん、お願いがあるの」
アイザック「…………えーと…なんだ。言ってみ」
「後で内容を指示するから、阿久津さんにビデオレターを送ってほしいの」
アイザックにそう頼んだ怤藍をみて、面々は不思議そうな顔をする。
アイザック「…ビデオレター……?なんで……いや、そもそもオレでいいのか?」
「な、何をするつもりなんだ…?」
アイザックと不安そうな顔をするリズットに、怤藍は力強く頷いた。
「…あたしに任せて。いいことを思い付いた。今のあたしはねぇ…人生初の反抗期大作戦を決行しようとしているとこだから」
「そ、そうなのか…。いや、別に止めるつもりは無いんだけど…」
アイザック「………………そうかい。…んじゃあ、任せた。オレはそれに全力で乗っかってやるよ」
「ありがとう。…よし、作戦たててくるから、ちょっと待ってて」
イヴァンも「へぇ……?まぁここまで来たんだ。なんでも力になるよ」
希更「……そう来なくちゃ。あたしちゃんも力になるよ」
搭乗人物に励まされ、書き手は『反抗期』を起こすことにした。
その後面々は怤藍の指示で、病院内で一時待機することになった。アイザックは先程怤藍に頼まれた通り、指示された内容のビデオレターを作成し、それを阿久津のメールアドレス宛に送信した。
○
阿久津文裂はメールの通知音に気づき、スマートフォンを手に取った。
見慣れぬアドレスからの、動画付きメールのようだった。怪訝そうな顔で阿久津はそれを開く。動画を再生させると、そこには何かを握っているアイザックの姿があった。
…………………………
『─よォ、阿久津さん。オレだよ、オレオレ』
『忘れられていても困るから、優しいオレはちゃあんと自己紹介をしちゃうぜ。偽名だって使わない。真摯だろ?
さて、オレの名前はアイザック=カルツェ=エマニュエル。普段はプログラマーをしてる。そのクルミみたいな…おっと失礼、アンタの脳みそに叩き込んで貰えれば幸いだ』
『…前置きが長くなるのはよくねえよな。オレにとっても、アンタにとっても。だから早速本題に入らせてもらおう。本題は、カルカタッタ残留組とリズットを殺す件について、だ。』
『その件について、オレはとってもうまい話がある。もちろんオレにとって、そして何よりアンタにとってもうまい話だ。早い話が金になる。アンタがいま考えていることよりもずっとな。そして、1番得をするのはきっとアンタだろうさ。…なあ、そんな実のある話、気にならないか?』
『…さて、オレはこんな話を持ち出して何がしたいのか?簡単だ。オレは交渉がしたい。アンタと話がしたいんだ。』
『交渉の時間は今から3時間後。場所は私立大学病院。分かるだろうから道案内はよこさないぜ。』
「……あぁ、ちなみに。もし交渉の場にアンタが来なかったら、だ。アンタどうなるか知っておきたいよな?」
『(くすくすと笑いながらペティナイフとクレジットカードを取り出して、ナイフの刃を軽くクレジットカードに滑らせ)』
『───交渉に来なかったら、こいつがどうにかなっちゃうぜ?』
『それじゃ、色良い返事を期待してる。……あばよ』
…………………
動画…もといビデオレターは、ここで終わった。阿久津はそれを見終えると、スマホを投げ捨てようとした。が、その寸前で、動きを止めた。
口元は、不気味なほど緩んでいた。
その後阿久津は、タクシーを手配した。しばらくしてやってきたそれに乗り込むと、阿久津は車内で舌打ちをした。
「…いいだろう、小娘共。小僧の『最期』まで付き合ってやろう」
阿久津がそう吐き捨てると、タクシーは彼を乗せて、病院まで向かったのだった。