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[雨P♀]ピアスの重み

全体公開 1501文字
2020-02-16 15:39:44

「緊張するなよほら、力抜けって」
久しぶりにピアスをするのでうまく通せないPさんにピアスつけてあげる雨彦さんのお話です。

Posted by @toasdm

 学生の頃に開けたきりなんですよ、と気恥ずかしそうに彼女が言ったのは、先週の水曜日だ。電話の向こう、いつもより嬉しそうなその声に、雨彦は自分までもが、学生時代に戻ったような気分になった。
「へぇ」
「社会人になってからはずっとしてなくて、お休みの日にでもしていればよかったんですけど」
 お前さん飾り気がないからな、とからかった雨彦に、そんな飾り気がない私でも好きなんですよね、と言い返してくる彼女のことが、雨彦は好きだ。その彼女が、何年かぶりにピアスを通してみたら、穴は塞がっていなかった、と報告してきたのなら、雨彦にできることはただひとつだ。お互いの次の休みが被る日を空けておいてくれ、と言って、その日は電話を切った。

 そして、今日。雨彦は、彼女を家へと招いた。

「ん? お前さん、ピアスはしてこなかったのかい?」
「あはは、それがですねぇ……
 あんな話をふってきたくらいなんだから今日は耳に、いつもと違う飾りがついているものだとばかり思っていたが、彼女の耳は普段と変わらない。普段見慣れたきっちりとした、スーツ姿ではないだけで雨彦の胸は躍ったものの、寂しいような、好都合のような、複雑な心境だ。それと同じくらい複雑そうな顔をした彼女は、よくよく見ないとわからないくらい小さな穴の開いた耳たぶを触りながら言う。
「穴が小さくなりすぎてるみたいで、自分だとまだ、上手に通せないんです」
 勝率三割ですね、と気恥ずかしそうに照れて言う彼女の仕草に愛しさがこみ上げて、雨彦は彼女の肩をそっと抱き寄せた。
「慣れるまでは毎日付け外しした方がいいのかもしれないな」
「うーん、そうですねぇ……
「どれ、ちょっと待ってな」
 ぽんぽん、と彼女の頭を軽く叩いてどこかへ行くと、雨彦はすぐ戻る。手に携えた小さなペーパーバッグを差し出して、雨彦はニッと笑った。
「プレゼント、受け取ってもらえるかい?」
「え……?」
「この話の流れならわかるだろう?」
 開けてみろよと促されて小さく頷いて、彼女は丁寧にラッピングされた箱を開く。
「ピアス……!」
「結構種類があるもんなんだな。迷ったが、俺の好みで選ばせてもらったよ」
 雫型の小ぶりな薄藤色がフックの先で揺れる。ぶら下がり系だ、とぱぁっと目を輝かせる彼女の反応に、雨彦はほっと安堵する。大丈夫だ、外してはいないようだな、と彼女の手からそれを片方取り上げると、雨彦は彼女の耳に手を伸ばした。
「つけてやろう」
「え」
「自分じゃつけられないんだろう?」
 雨彦の指先が耳たぶに触れる。びく、と肩を竦ませた彼女に、とって食ったりしないさ、と苦笑しながら、雨彦は腰を屈めて顔を近づけ、ピアスの先端を慎重に穴へと通した。
「痛くないかい?」
「は、はひ……
「緊張するなよほら、力抜けって」
「いっ、言い方に問題ありません?!」
「っはははは、すまないな、狙ったよ」
 もう、と彼女が頬を膨らませたあたりで、雨彦の手がすっと離れる。これでよし、と満足そうに言ってから、ほぅ、と雨彦は目を細めた。
「いいな。似合うよ」
「ほ、ほんと……?」
 鏡がないから見えないけど、と彼女がピアスに触れるより早く、雨彦の指先がちょん、とピアスに触れた。

「可愛いな」

 なんでそんな顔してそんなこと言うの、と真っ赤になった顔をぷい、と背けて彼女は鏡見てきます、とくるりと踵を返した。小ぶりなはずのその石の、揺れた重みと雨彦の言葉の重みが、覗き込んだ洗面台の鏡の中で彼女の心を揺らしている。

 耳元で小さな存在感を放っているのは、雨彦の瞳によく似た色のピアスだった。


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