@toasdm
見慣れてるだろう、と笑う雨彦はライダースジャケットの裾をちらりとめくった。う、と小さなうめき声をあげる彼女の反応が面白くて可愛くて、雨彦はにやりと笑みを深める。見慣れてますけど、とまだぶつぶつ言いながらもちらちらと、彼女は雨彦の腰を何度も盗み見ては小さくうめいて雨彦を満足させていた。
「衣装の採寸でお前さんも知ってるだろう?」
「あれは商品の検品みたいなもんです!」
検品ねぇ、とまたにやにやと笑い、雨彦はレザーパンツがぴったりと包んだ長い脚の始点、細い腰に手をあててわざと強調する。
「今日は検品じゃねぇのかい?」
「デートですから!」
「っははは」
担当アイドルとしてみる雨彦の魅力なら大丈夫だが、プライベートで見る雨彦の魅力は彼女にはまだ、刺激が強すぎる。デートならめかしこんでいかないとな、と昨日電話口で言っていた雨彦の「めかしこむ」は、おしゃれに、という意味よりはどちらかというと、彼女に刺さるように、といった意味合いが強いように感じられた。
「こういう俺はどうだい?」
「あぁぁぁ」
普段つなぎか衣装のどちらかしか見ていない彼女にとって、雨彦の私服らしい私服は初めてだ。どういう系統の服を着るのかすら想像できなかった彼女の前に現れた雨彦は、それはそれは、彼女に刺さる格好をしていた。
「お前さんなぁ」
「うぅっ……」
目を逸らせばわざわざ回り込んで視界に入り込む雨彦の意地の悪さに、彼女は翻弄されどおしだ。
ショート丈の無骨なライダースの前を開け、インナーには首の詰まったシンプルなカットソーを着ている。普段はゆるゆるの開いた胸元が見えていることが多いから、そのギャップだけでもドキドキする。高級シルバーブランドのネックレスがその詰まった首元にさりげないVラインを描き出し、ライダースの男くささを消しすぎないアクセサリーのチョイスも心憎い。そして、なによりも。
「……」
「お前さんわかりやすいな」
苦笑する雨彦の腰から下、長い長い脚をぴったりと包んだブラックのレザーパンツが彼女の性癖に深く深く突き刺さっているようだ。決して華奢というわけではないにせよ、雨彦は身長の割には体重も軽く、かといってもやしかといえばそうでもない、立派な筋肉がバランスよくついている。折れてしまいそうという印象はまるでなかったが、一切の無駄のない細い腰は、アウターのジャケットの開きとで絶対領域を生み出していた。
「だってぇぇ……」
「ほれ」
「うわぁぁぁぁ!」
その細い腰をちらりと見せてくるのが、またたちが悪い。だってそんなの無理じゃん絶対見ちゃう、とそこに釘付けになる視線を、目の毒!と逸らしてはまた見て、を繰り返す彼女をからかうだけで、どのくらい時間を費やしただろうか。ふっ、と気の抜けた表情で、雨彦は空を見上げる。
「……初デートくらい気合い入れさせてくれよ」
その横顔を見上げて、私、どんな顔したらいいんですかね、と逆に冷静になった彼女の方を横目で見て、雨彦はニッと口角をあげる。
「ほれ」
「んにゃああ!」
気合いを入れた雨彦のウエストあたりから、嗅ぎなれない香水の匂いがしたのも彼女にとっては混乱の要因だ。気合い入れた結果香水までつけてるんですかね、とその腰周りから漂う何とも言えない、雨彦らしい透明感のある香水の名前は知らなくても、雨彦がどれだけ楽しみにしていたのかはよくわかる。私だって楽しみだったんですけど、としどろもどろになった彼女の腰を軽く引き寄せて、雨彦は耳元で囁いた。
「で? お前さんのお眼鏡にかなう俺に仕上がってるかい?」
こくこくと頷く彼女の耳に、軽く触れた唇は、嬉しそうににんまりとしている。
それは、刺激が強すぎやしませんかね、とようやく言葉になったのは、それからしばらく経ってのことだった。