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[雨P♀]人間

全体公開 1605文字
2020-02-27 02:47:26

「俺はお前さんが思うほど大人じゃないからな」

やきもちやいた雨彦さんとPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 この人も人間なんだなぁ、という意外性から漏れた小さな笑いにすら、雨彦は不貞腐れてぎゅうと抱きつく力を強める。雨彦さん、苦しい、と彼女が身を捩っても、雨彦の方は彼女の背中にしがみついて、肩口に乗せた頭をぐりぐりと彼女に押し付けてくるばかりだ。
「ただの、知り合いですよ?」
「そんなことは知ってるさ」
「っんん」
 そんなことは知ってる、それは確かに、その通りだろう。雨彦はそんなところを疑ったりはしない。ただ、知っていてもどうしようもないものというのはあるのだろう。例えば、嫉妬とか。
……
「雨彦さん……
 雨彦と嫉妬という感情は、彼女の中では結びつかないものだった。ついこの間、学生時代の男友達と歩いていたところを雨彦に偶然見つかってしまって以降、機嫌が悪いというか不貞腐れているというか、そっけない態度をとりながらもどこか構ってほしそうな態度をとられるまでは少なくとも、彼女の中ではそうだった。
…………
 背中越しに感じる表情は、音で表現すると「むっすーーーぅ」だった。頬を膨らませるほど子供っぽくはないが、やっていることは子供とほぼ変わらない。私は雨彦さんだけですよ、と言ったところで、そんなことは知ってるさ、と返されてまた黙り込むのは目に見えている。どうすれば、と無為に流れた時間が積み重なった部屋は、久しぶりの二人きりの時間を多少重苦しくしているように感じられた。
…………雨彦さんでも、やきもち妬くんですね」
「悪いかい?」
 しょうがないからストレートに聞いてみよう、と攻め口を変えてみたが、雨彦の返事は彼女が期待したようなものではなかった。ただそこに、否定が混じらなかったことは僥倖だ。突破口をなんとか探り当てて、彼女は慎重に言葉を選んだ。
「いえ、正直ちょっと、嬉しい、っていうのもあるんですけど」
「嬉しい……?」
 やきもちがかい?と彼女が転がした方向に、雨彦と話とが上手く転がり始める。いけるかな、という期待半分、なんとかご機嫌を直してほしいんだけどな、という希望半分で、彼女は前に回った雨彦の腕にそっと手を添えて続ける。
「なんか……全くやきもち妬かれないのも、それはそれで無関心っぽくて」
……はぁ」
 大きめの溜め息を境目に、拗ねていたような雨彦の様子が何段階か一気に軟化する。抱きしめる腕の力は相変わらず強いが、押し付けられる頭はぐりぐりからすりすりに変わった。
「そんな大人な反応してくれるなよ」
「大人……ですか?」
 背中でこくりと頷いて、雨彦はひょいと彼女を持ち上げて、くるりと自分の方へと向けさせる。この人本当に人間なのかな?と成人女性を軽々と操る雨彦の腕力に目を白黒させながら、久しぶりに見た雨彦の表情に彼女はどこか、ほっとする。
……悪かったよ」
「?」
 コツン、と額と額をくっつけて合わせて、悪かった、と繰り返した雨彦の表情は、怒っても拗ねてもいなかった。まだ少し不貞腐れた色を残したばつの悪そうな表情のまま、雨彦は目を閉じてもう一度溜め息をつく。

「俺はお前さんが思うほど大人じゃないからな」

 お前さんがあんまり大人だと俺が可哀想だろう、と薄く片目を開けた雨彦の、茶目っ気のある言い方に、彼女は事態の終息を悟る。むぎゅう、と恥ずかしさを誤魔化すように抱きついてきた雨彦のやきもちが、少しだけ嬉しかったのは本当だったし、正直に言うと、子供っぽい雨彦が可愛いな、と思う気持ちもあった。それは今は黙っておくことにしようと心に決めて、彼女は雨彦の後頭部に手を回した。
「よし、よし……
……お前さんなぁ」
 俺が可哀想だろう、ともう一度苦笑した雨彦の人間らしさに、彼女はほっとする。

 ああよかった、この人もやっぱり、人間なんだなぁ。

 好きにしてくれよ、と白旗をあげた雨彦の頭を、彼女は彼女が納得するまでしばらく撫で続けていた。


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