「やるかい?」
「ふふ……はいっ!」
倉庫の片付けをしていた雨彦さんとPさんが埃被って死蔵されてた卓上フライヤーを見つけて串揚げパーティをする話、前編です。
@toasdm
「海老」
「イカ」
「おー。被せてきますねぇ」
海鮮売り場にいるからな、とウィンクする雨彦が手にした買い物かごの中、彼女は海老とイカとをひとパックずつ追加する。既にかごの中でわいわいよろしくやっていたピーマン、しいたけやじゃがいもなどの野菜たちが、ようこそようこそとそれらを出迎えて、少しずつ足されていく重さに二人は顔を見合わせて笑いあう。
「他にはありますか?」
「帆立」
「あー、よさそう」
ちょうどいいところに、と黄色い特売シールが貼られた大ぶりの帆立貝柱を手に取ると、彼女は嬉々としてそれも仲間入りさせる。さて他にあるかな、と辺りを物色している彼女から少し離れた場所、ん、と刺身コーナーを眺めていた雨彦が顔を挙げ、お前さんお前さん、と手招きをしている。
「何かありましたか?」
「もういっそ、ここにある刺身の柵ひとつずつ買っちまおうぜ」
ひそひそ話をするように腰を屈めて、雨彦は彼女の耳元で悪事を相談する子供のように囁く。魚売り場の冷蔵ケースにずらりと並べられた「本日の目玉商品」コーナーは、まぐろ、サーモン、白身の魚がぎっしりと詰められていて、そのままわさび醤油で日本酒と一緒にいきたくなるようなラインナップだ。
「わーー大人買いだ!」
ここの全部、全種類、ひとつずつですか?!と驚く彼女にニヤリと口角を上げて、雨彦は頷いた。
「だいたいいけるんじゃないか? サーモンフライもマグロフライも、普通にあるだろう」
「確かに……だったら、串揚げにしてもおいしそうですよね」
もういっちゃえ、と二人のテンションはヒートアップしていく。ここにあるやつひとつずつ買おうぜ、はその後精肉のコーナーでも同じことをやり、大量の肉と魚と野菜の上に、二人は卵と小麦粉とパン粉を乗せて店内を歩く。たどり着いたドリンクコーナーで、雨彦は顎に手をあてて考え込んだ。
「どのくらいいけますかねぇ」
「そうさな……お前さん、酒は結構いけるクチかい?」
お猪口を持つような手の形を、雨彦は口元でクイッとやる。なんか楽しそう、と他人事のように言う彼女の方だって、雨彦からしてみれば生き生きとしていて楽しそうだ。いけますよ、と同じ手つきをする彼女の様子に目を細めた雨彦と彼女は、酒類のコーナーで六缶パックのビールを二つ、かごに追加した。
「さすがに、ちと重たいな」
「持ちましょうか?」
「ああ、頼めるかい? ってわけにもいかないからな」
うまいもんの為ならなんのそのさ、とくっきり筋の浮く腕を見せ付ける雨彦を、彼女は満面の笑みで頼りになります、と励ました。やけにテンションの高い二人はその後大きめのサラダ油もかごに入れ、ずっしりと重たい袋が二つと比較的軽い袋をひとつ、軽い方は彼女に任せて二対一で分担して雨彦の車にそれらを積んだ。
「しかし、黙って持ってきちまってよかったのかい?」
彼女が入力したカーナビの指示に従って彼女の家へと向かう。ハンドルを握る雨彦は、後部座席の買い物荷物の隣にある古ぼけて色のすすけた箱をルームミラーでちらりと見た。
「あれだけ埃被ってたら、きっと誰も覚えてないですよ」
「まあ、そうだろうがね」
あっけらかんという彼女の様子に苦笑して、雨彦はふぅ、と期待の溜め息をついた。
「卓上フライヤーで串揚げパーティ、か……」
「もう絶対おいしいやつですって」
たまたま倉庫の掃除を手伝った雨彦にとって、ある意味それはご褒美だ。倉庫の片隅で埃を被っていたそれを見つけた時と同じように、二人は顔を見合わせて笑った。
「やるかい?」
「ふふ……はいっ!」
大量の食材とビール、出所不明の卓上フライヤー。そして、わくわくが二人分。
それらを乗せた雨彦の車は、まもなく彼女の家に到着する頃だ。