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田舎のダイナーで働くソー

全体公開 ソーロキ 1517文字
2020-03-01 21:21:46
Posted by @syuu_29

おれにも弟がいると彼は言った。グラスを拭く手が止まったので顔を見れば、笑みというには影の落ちた表情。「へえ、奇遇だね」と言えば、彼はぎゅっと瞼をつぶった。そこに読み取れる苦痛を見なかったふりがむずかしくて、彼から目線を露骨にそらすことしかできなかった。ソーが置いたばかりのグラスをもう一度取り上げ、布巾で水気を切ったそれをもう一度無意味にから拭きした。
彼は、ソーは、この土地の人じゃない。
半年ぐらい前、ダイナーに車で現れた彼は髭も髪もまるで整えてない昔のヴァイキングかなにかみたいな様子だった。雨の中で雷が鳴り響いていた嵐の夜。店に入るなりメニューも見ずにコーヒーと告げてソファで黙り込んだ彼は不思議なことにちっとも雨に濡れてなかった。口を閉ざし、人でも殺してきたみたいな顔で一晩中コーヒーをおかわりし続けて、家に帰したウエイトレスの代わりにモーニングのメニューを差し出したオーナーに「仕事を探してる」と話しかけたその日から、彼はずっと、ダイナーの雑用をやってる。厨房以外のことはなんでも。
アメフト選手みたいな体格の彼が手持ち無沙汰にカウンターに寄りかかっているおかげか、ダイナーはちょっとだけ治安がよくなったように思う。名前も知らない客なんてほとんど寄りつかない田舎だから実際の影響ははかりかねるけど、それでも少なくともウエイトレスたちから見れば、彼の姿に気づいて入り口前で帰っていく客を何度か見ているのだから効果があるに違いない。
町中みんなが知り合いの田舎町に、彼は意外にもすぐに馴染んだ。ソーは誰にでも気さくで、明るくて気のいい男だ。最初の晩の表情なんて夢か何かだったみたいによく笑う。それに髭や髪を整えると、驚くほどのハンサムだった。田舎町にはもったいないが、なんとなく失礼かなとその感想は告げずにいる。だってこんなところにあんな晩に来たのだ。訳ありだなんてわかりきってる。町のみんながそうだ。
助け船でも出すみたいに、ビールサーバーの管を磨いていたオーナーがカウンターに歩み寄る。
「まあ弟ってめんどうだよな。私も弟がいてね、とくにティーンエイジャーの頃は手を焼いたよ。わがままで、身勝手で甘えるのが得意で」
今振り返ればかわいいもんだが、と付け加えるオーナーは六十代だ。弟さんだって、さほど離れていないだろう。その境地は遠いなあとぼやけば、ソーがふいに破顔した。
「おれとは逆だな」
「逆って?」
どういうことか、と聞けばソーは目を細めて、手元に視線を落とした。なにかあるみたいに両手の手のひらをじっと見つめる。
「あいつは――甘やかすのが得意だった。おれがろくに自覚できないぐらいに」
逆に甘えるのが下手でな、と苦笑する目尻に皺が寄る。兄弟にしては親密そうな話だなとなんとなく思うのはその表情の甘さのせいだろう。だってまるで母が父の愚痴をこぼす時みたいだ。
「仲がいいんだね」
――ならいいが」
もうわからん、とソーは肩をすくめていつもの笑みを浮かべた。やわらかくって、人懐こささえ感じる笑顔がぱっと浮かぶ瞬間はまるで本心を隠してしまったみたいだった。
ふいに、これって仮面だったのかと気がつく。あの嵐の夜とはまるで違う、この親しみやすい男の表情。
だってそうだ、あだ名で呼び合うような親密さだってあるのに、町の誰も彼に兄弟がいることだって知らない。家族がいるのかだって知らなかったのだ。
でもまるでそんなの気づかないふりをして「仲いいよ」と念押しする。そうしながら目をそらして、拭くものがない布巾をきれいに畳み直した。
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これの前のパートが書けるとソーロキだなあという感じにおそらくなる予感があるにはある


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