@mary_hitman
尊い人の綺麗な指先が暗闇を探っていた。
大きめの寝具の上ではあるが、流石に隣に眠る人物を見つけられないほどの広さはそこにない。月はすぐに手に当たった衣服を掴むと、相手を引き寄せるように力を込めながら、何か動物のように自分の体を擦り寄せた。
それはもう何度となく繰り返された行動だった。
「ぬくい……」
色のない足を絡ませながら、ただ心地好さそうに小さな声が漏れる。
「切りましょうか……?」
腕の中に収まろうとする相手の動きによって、目を覚ました魅上が問いかける。
薄手の布団に包まってはいるものの、肌寒さを感じる夜だった。季節は夏であるというのに、この部屋はそれとは無縁であるかのように冷え切っていたのだ。
「いや……、こうしてる方がいい……」
目蓋は閉じたまま、月が小さくそうこぼす。それから、愛に満ち足りたその場所を離れたくないとでも言わんばかりに、さらに体を押し当てる。そうされてしまっては魅上も口を噤むしかなかった。
喜びと恥ずかしさを隠しつつ、不器用な手がそっと絡み付く体に触れる。
魅上にはいつでも理由が必要だった。こうした、隣で眠る相手を抱き寄せるというような簡単なことであっても、彼には理由が必要だった。
だから気まぐれに、月はエアコンの設定温度をわざと下げるようなことをする。それは日常に挟み込んだ小さな嘘の数々と同様に、全て魅上に理由を与える為だと言っても過言でなかった。
「こういうの、幸せだと、思わない?」
先程よりも明瞭な声が囁く。
全く以って贅沢な行為だ。熱帯夜の中に敢えて寒さを作り出し、互いの熱で暖め合う。無駄でしかない行為であるのに、そこには確かに幸福があるのだ。それは冷たくなったつま先が脹ら脛に貼り付くことさえも、不快だとは思わせないほどの幸福だった。
「幸せです……」
魅上の口許が緩む。
ひっそりと身を寄せ合い、幸せな心を抱いて小さくなって眠る。それは何処か、二人の生活の始まりを懐かしむようでもあった。