「ほら揚がったぜ、お前さん」
倉庫の片付けをしていた雨彦さんとPさんが埃被って死蔵されてた卓上フライヤーを見つけて串揚げパーティをする話、後編です。無限の胃袋雨彦さんです。後日談に続きます。
@toasdm
まずは乾杯、と飲みかけのビールをもう一度合わせて、二人は残りを一気に飲み干した。ちびちびと飲みながら準備を進めていたせいもあってか、お互いの缶にはほとんど残っていなかった。程よく桜色になった頬に期待の笑みをにんまりと浮かべて、彼女は卓上フライヤーの油を温める。設定温度は百八十度だ。
「さて……どれからいくんだい?」
「どれから、というか」
二缶目も仲良く開けて、ぐび、と喉奥に流し込む。「これは何人分ですか?」と言いたくなるようなこたつの上の大皿五枚を眺めて、彼女は訝しむように雨彦を見つめた。
「ところどころキワモノが混ざってませんか? これ」
「そうかい? まあ、なんでも試してみようぜ」
まずは無難にこいつからか、と雨彦は竹串にシシトウを二個刺して卵液にさっとくぐらせる。食べやすいようにとビニール袋に入れて細かく砕いたパン粉をまぶしたあたりで、彼女も察してひとつまみのパン粉を油に散らした。
「お、このくらいならいい温度かもしれないです」
「……よしっ」
底に沈まずにぱっと散ったパン粉が知らせた適温に、雨彦はニヤリと笑う。じゃあ私も、としいたけを手に取った彼女もそれに倣って、二人は同時に、油の中に竹串を突っ込んだ。
「まずいな……」
「あー……これはー……」
ジュワジュワと、パン粉が揚がる音がする。漂う調理の香りが脂っこい揚げ物の香りを軽く凌駕して、二人の鼻腔をふわふわとくすぐる。にやけが止まらない。しまりのない顔が見つめる卓上フライヤーの中で、竹串に刺したシシトウとしいたけが、それぞれ串揚げに華麗なる変身を遂げる。空腹をそそる香ばしさを纏った香りが辺りに漂って、小皿に乗せた串揚げはもうそれだけで、十分ご馳走に見えた。
「お前さん、何つける?」
「まずはそのまま、一口だけいってみようかと」
「なるほどな」
そうするか、とにんまりが言い、いきましょういきましょう、とにんまりが答える。いただきます、と串を手に持ち、それぞれ口の中へと放り込む。
「……んーーーーっ♡」
「んっふ……」
言葉にならない感動が、二人の舌の上で爆ぜる。揚げたてのカラリとしたざくざく食感と、水分をしっかり保った食材の風味とが、口の中を制圧していく。そこを追いかけるようにビールを流し込めば、独特の苦味が清涼感を伴って、口の中をまっさらの状態にリセットしてくれる。
「葛之葉さん、シシトウ一口ですか?!」
「このくらいならいけるだろう」
お前さんはしいたけ半分かい?とからかうように言う雨彦が小皿に塩を盛り、ちょんちょん、ともう一個のシシトウ串揚げをぱくり。む、私も、と負けじと彼女も雨彦の小皿から塩を拝借して、ぱくり。
「ああ……っはは、笑っちまうくらいうまいな」
「んー幸せぇ~♡」
頬を押さえる彼女を肴に、雨彦はぐびぐびとビールを呷る。塩味が足されて引き立った食材のうまみは、まだまだ後に控えている。これだけそろってるなら食いでがありそうだ、と腕を捲る雨彦と、まだまだいけますね、と串を手にする彼女とは、本格的な串揚げパーティに幸福指数を跳ね上げた。
「葛之葉さんこれ! うずらテッパンなだけあってめっちゃくちゃおいしいです!」
「ははぁ、なるほどな。だがこいつも捨てがたいぜ。ほら、チーズをベーコンで巻いてやった」
「あっずるい! 間にたまねぎ挟むの絶対おいしいじゃないですか私もやるっ!」
「なら俺は海鮮全部ひと串でいってやろう」
「なんて贅沢な!」
「お前さんにはほら、肉全部ひと串を作ってやった」
「うわーーーーい!」
酒と串揚げと、それからビール。知能指数の程よく下がった快活に笑う二人の声を「いいぞいいぞ」とフライヤーの中の串揚げたちが煽る。最高速で叩きつけられる旨みの暴力にノックアウトされないように、こちらも全力で!と大量の食材を次から次へと串揚げに変換し、二人はビールの空き缶と使用済み竹串を大量生産した。
「ふはーーーー……た、食べたぁ……」
「そろそろ食休みといくかい?」
すっかり空っぽになった皿を重ねて片付け、雨彦はひょいとそれらをキッチンへと下げる。食休み?と首を捻った彼女のところへ戻ってきた雨彦は、一口サイズの冷凍たい焼きをニヤニヤしながら持ってきた。
「こいつもカラっと揚げてやるのさ」
「えぇぇええええ?!」
休みってなんなの、と白目を剥く彼女の前、雨彦は嬉々として串に刺したミニたい焼きを卵とパン粉にくぐらせる。
「ああ……うまそうな匂いだ」
それビールと合うんですかぁ、とすっかり満腹で動けなくなった彼女のことなどおかまいなし、とビールを飲み干し、また開けて、雨彦はさあな、とにやついた。
「食ってみなきゃわからないだろう?」
もう入らないですよ~、とへにゃへにゃこたつに倒れこむ彼女よりも、雨彦はうんとお腹に余裕があるようだった。
「ほら揚がったぜ、お前さん」
ニッコニコと笑う雨彦は、酒の香りを漂わせた子供のような顔をして、ミニたい焼きの串揚げを差し出していた。