ほわいてぃーらぶいてぃー

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2020-03-15 21:11:23

ホワイトデークロシア2020。付き合っていない前提で読んでください。押せ押せでめんどくさいシアンちゃんが書きたかった

Posted by @Greas087



 朝からずっと胸の高鳴りが収まらない。昨日夢の中に入るまでずっとわくわくして眠れなかった。
 今日は待ちに待ったホワイトデーだ。
 去年まではホワイトデーと言われても特に特別な日だとは感じる事はなかった。バレンタインにプラズマジカで、シンガンクリムゾンズの皆にマシュマロ入りのココアを淹れてあげるから、そのお返しとして毎年キャンディが何個か詰まった小さな箱を貰っていた。それだけだった。
 けれど、今年のバレンタインに週に2日は練習を見てくれているクロウちゃんに、何となく頑張って手作りしたクッキーを贈ったのだ。
 それをチュチュに話したら、これはホワイトデーの倍返しが楽しみですね! と、言われ、言われたままいつもより豪華なお返しを貰えるのではないかと勝手に期待をしていて、この浮かれ具合だ。
 クロウちゃん何くれるのかにゃ、と、心を躍らせてカフェに到着すれば、既にプラズマジカとシンガンクリムゾンズの皆が揃っていた。よく見るとシンガンの皆はステージ衣装を纏っていた。
「あ、シアンおはよう」
「レトリーおはようにゃ、今日シンガンの皆ライブにゃんだっけ?」
 ドアの音にいち早く気付いたレトリーに挨拶を返しつつ、今の現状を聞く。
 一昨日まではライブがある事なんて知らなかったので、どうして衣装に着替えているのか疑問だ。
 すると、レトリーはちらりとシンガンを見る。
「なんか、今日エスリバーで開催されるホワイトデーフェスに出場するバンドが出られなくなったから、その穴埋めでシンガンが呼ばれたんだって」
「そうにゃんだあ」
 シンガンっていつも突然お仕事が舞い込むから大変だな、と同情しつつチラリとレトリーの手元に視線を写す。
 キャンディーが入った小さい箱が手の中に収められていた。
 すぐ近くにいたチュチュとモアも既に同じ物を持っている。
 もう皆貰ってるんだ。
 寝坊はした訳ではないけれど、先を越された気持ちに陥り少々落ち込んでいると、
「シアン」
 と、突然を声をかけられた。振り向くと普段の服装よりもギラギラジャラジャラしたアクセサリーや装飾が付いた衣装を着た格好良いクロウちゃんがいた。
「おはようにゃ、今日ライブ頑張ってにゃん!」
「お前に言われなくても家畜をブヒブヒ言わせてやるぜっ!」
 いつも通りに強気にニカッと笑ってからクロウちゃんはジャケットのポケットから何かを取り出した。
 レトリー達が貰っていた同じキャンディーの小さな箱だ。
 あたしの前にそれを突き出す。
「ほら、今年のやる」
「わあ、ありがとにゃん!」
 ありがたく受け取ってから、真っ直ぐクロウちゃんを見ながら次のお返しを待つ。倍返しってどれ位の倍数になるんだろう。やっぱり2倍かな、それともクロウちゃんだから96倍なのかな。
 期待を胸に待っていたけれど、じっと見ていたのがおかしかったのか不思議そうな顔をしてクロウちゃんは口を開いた。
「何だよ、まだ物欲しそうな顔は」
「だって、あたしクロウちゃんにバレンタインにクッキーあげたにゃん、倍返しを待っているのにゃん」
 素直に胸の内を語ると、途端に眉間に皺を寄せて怪訝な顔をされた。
「あ? 他の奴にもどうせあげてんだろ?」
「にゃにゃ? クロウちゃんにしかあげてないにゃ?」
 そういえばクロウちゃんにしか渡していない事を一度も伝えていなかった気がする。だったらあたしの方が悪い。
 クロウちゃんはバツの悪そうな表情を浮かべ、しゃあねえなあ、と、呟きながらカフェの厨房に向かうと冷蔵庫から牛乳を取り出して戻ってきた。
「これでどうだ?」
「わあい! 牛乳大好きにゃん!」
 持ってきたばかりの牛乳を受け取る。大事そうじっと牛乳を見つめて満足しかけて、ハッとある事を思った。
「あ、でも、これは他の女の子にもあげるにゃ?」
 そうだ。あたしはクッキーをクロウちゃんにしか渡していないのに、クロウちゃんが他の女の子にも同じ物を渡すつもりなら意味がない。
 クロウちゃんは少し考えてからまた口を開いた。
「まあ、今日も配達あるからな、お得意さんのおばちゃんにはあげるかもしれねえな」
「それじゃ駄目にゃ! おばさんも女の子にゃん! 特別な物がいいにゃ!」
 歳の離れているであろうおばさんだって心は女の子だ。ホワイトデーの倍返しをずっと期待していたので少しムキになって食い下がると、クロウちゃんも分かりやすくムキになって返してきた。
「お前今日我儘だぞ!? これからライブなんだからお前に構ってる暇はねえ!」
「そうだけど! でも……
 クロウちゃんに我儘だと言われ、まだ食い下がりかけたけれど、確かに人にお返しを求めるのは良くないとやっと冷静になった。折角牛乳をくれたのだからそこで気持ちを落ち着かせてありがとうで終わりにすれば良かった、と後悔した。クロウちゃんに迷惑をかけてしまった事を素直に謝ろう。
 すると視界はうるっと歪む。謝る前に目頭が熱くなり、喉も何かが詰まって声が出なかった。
 あたしの異変に瞬時に気付いたクロウちゃんは目を丸くする。
「何で泣きそうな顔すんだよ! し、深呼吸!」
 泣きそうな女の子の扱いに全く慣れていないのか慌てたような素振りをしながら言う。あたしもクロウちゃんに言われた通り深呼吸を繰り返した。
 深呼吸をしたおかげで、気持ちが落ち着いたのはいいけれど、クロウちゃんを困らせてしまったという事実はなかった事にするのは難しかった。
「ごめんにゃ、クロウちゃん」
「ライブ終わったらなんかすっから待っていやがれ」
 先程よりも優しい声でそう返しながら頭をポンポンと軽く撫でてから、クロウちゃんはカフェを後にした。



「わあ! 女子がいっぱいぴゅる!」
「ホワイトデーフェスはボーイズバンドしか出演出来ないですからお客さんも女性ファンが多いんですよ」
 到着すると、直後に他のバンドが演奏を終えたばかりなのかお客さんのテンションは最高潮だった。
 チュチュの言う通りお客さんはどこを見渡しても女の子ばかりだ。
 けれど、シンガンが出演するというアナウンスは開演直前だったらしく、シンガンのファンは手に取る程もいないと思う。彼等の存在すら知らない人達もいるかもしれない。
 アウェーな場と、先程クロウちゃんの気を狂わせてしまった事もあり、あたしは1人だけそわそわと彼等の出番を待っていた。
 終わった事なのだからくよくよ悔やんでも仕方ない。それでもまだ罪悪感は残っていた。
 そうしている内に、ステージが紅いライトに包まれ4つの黒い影がその中に灯る。
 会場はなんだなんだ、と騒ついている。
「行くぞ家畜共!」
 と、この会場にその人達がいるのか全く分からないのに、クロウちゃんが決まり文句を叫ぶと一気にライトは眩しい光へと変わっていき、堂々とした姿の彼が現れた。
 曲が始まり、クロウちゃんが歌うと一気に場の雰囲気が一変し彼等の曲で全員が高揚した。
 全員がシンガンの魅力に釘付けだ。
 あたしもずっとクロウちゃんを見ていた。あたしの泣き顔を見た時の慌てぶりが嘘のようだ。それを見ていて今まで悩んでいた事も忘れた。何を悩んでいたっけ。
 会場の黄色い歓声を独り占めしたまま2曲を歌い上げた。
 
 フェスが終了し、先程までとは打って変わり、静寂が漂う会場の外でシンガンの皆を待ち構えていると、ガヤガヤ会話をしながら4人が出てきた。プラズマジカと社長の姿に気付くと、彼等はこちらに向かって歩いてくる。
「クロウちゃん! お疲れ様にゃん!」
 大きく手を上げて振り回しながら呼ぶと、クロウちゃんはあたしの方へと来てくれた。
「やっぱりクロウちゃんは凄いにゃん! ピンチヒッターなのに会場のお客さん皆虜にして、夢中にさせて、家畜さんにさせちゃって! 天才にゃん! 格好良いにゃん! あたしもやっぱりクロウちゃんみたいになりたいにゃん!」
 未だにシンガンのライブの熱が冷め切っていなくて、興奮のまま言葉を並べる。きっとライブの度に同じ様な事を伝えているかもしれない。それでも伝えなければ気が済まなかった。
 呼吸もせずに一気に言い切るも、特に何のリアクションもなかった。普段なら俺様だから当たり前だ! とか、返してくる筈なのに。
 暫く彼の反応を待っていると、やっとクロウちゃんは口を開いた。
「なあ、シアン」
「どうしたにゃん?」
「お前、忘れてる事あんだろ」
 そう言われ、あたしは腕組みをして唸りながら考えてみた。何か忘れていた事は確かにあったけれど、ライブが楽しくて悩み事なんてすっ飛んでしまったのだ。
 答えがなかなか出てこないでいると、突然クロウちゃんが何処かを指差しながら叫んだ。
「あ、あっちに空飛ぶいちごが!」
 苺と言われて反射神経で指が指した方向へと視線を移す。空飛ぶ苺なんて見つけたら新発見だ。こんな発見をすれば、きっと偉い賞を貰って沢山の苺も食べられる。
 しかし、空を飛んでいる苺は何処にもいなかった。本当に苺が飛んでいたのか再度確認しようとした。
「クロ……にゃぷ!」
 クロウちゃんの方を向くと同時に、突然腕を掴まれたと思ったら視界が真っ暗になった。額には硬い板みたいな物に密着し、空気を吸うとスパイシーだけど微かに甘い匂いがする香水の香りがした。
 目の前にいたクロウちゃんがあたしとくっ付いてた。いや、あたしの背中に腕も回されているので、抱きしめられていたという方が正しい。
「にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、にゃ、くくくくくクロウちゃん!?」
 憧れの人に抱き締められていて、思考が上手く働かなくてクロウちゃんの腕の中で1人でしどろもどろになっていると、
「クッキー美味かった、ありがとな」
 と、頭の上から優しい声が降ってきた。
「ひ、ひゃい……
 その言葉に、ただ短い返事しか出来なかった。
 そうだった。あたしはさっきまで、クッキーのお返しが貰えなくて不貞腐れていた。ライブを見たらそれが幸福感で満たされて、満足してしまって忘れたのかもしれない。
 これがクロウちゃんなりのあたしだけのお返しなのかもしれない。そうだと信じたい。
 少しでもこうしていたくて少しだけ身を委ねれば、クロウちゃんは優しく頭を撫でてくれた。
 暫くこうしていて、やっと離れるとじっとクロウちゃんの顔を見る。
「何だよ、まだ足りねえのかよ」
……これは他の女の子にもしますかにゃ?」
 思わず敬語になる。
 もしかしたらお得意さんのおばちゃんにもノリであたしと同じ事をするかもしれないと思い念の為に聞くと、盛大に溜息を吐かれた。また呆れられた。
 やっぱり聞かなければ良かった、と本日何度目かの後悔をしていれば、クロウちゃんは明後日の方向を見ながら言った。
「お前みてえにこの俺様の事を振り回す奴が現れたらしちまうかもな、多分いねえけど」
 そう言われれば、また目頭が熱くなった。悲しい気持ちで泣くと言うより、嬉しくて泣きそうだった。
「うへへ、ありがとにゃん!」
 顔全体に力が抜け上手く笑えていないままお礼を伝えれば、だらしねえ顔しやかって、と頬を軽く抓くるのだった。

 なお、ここまでの一部始終は、他のメンバーにばっちり見られていたなど気にも留めずに。


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