@875108Express_
8月10日、午後0時30分。
現実世界に帰還した搭乗人物たちが病院内をうろついていると、天井から軽快なチャイムの音が聞こえてきた。チャイムの音に続き、こんな放送が入ってきた。
『搭乗人物の皆さ~ん。お昼ご飯用意したから、二階のホールに集まってくださ~い。二階のホールですよ~』
放送の声は、花宮のものだった。放送を聴いてお腹をすかせていることに気づいた搭乗人物たちは、二階のホールに向かった。
希更「わーいご飯だ!!(向かう)」
🍎「お腹空いたわぁ」(てくてく)
二階のホールに向かうと、テーブルを出して配膳をしているリズットと怤藍の姿がそこにあった。
「あ、皆適当に座ってて。今先生が、お昼持ってきてくれるとこだから」
搭乗人物たちがホールにやって来たことに気づいた怤藍は、そう言ってソファーを指さした。
そう言われ全員が着席すると、両手に何かを抱えた花宮がホールにやってきた。
「お待たせ皆。出前で申し訳ないけど…はい!お昼ご飯の、ピザとお寿司!食べて!!」
花宮がテーブルにピザと寿司を並べると、リズットがピザを切り分け始めた。その隣で、怤藍がいくら寿司を皿にのせながら口を開いた。
🍎「スシウメェ」
「あぁ、そうだ…食べながらで良いんだけど、皆に聞いてほしい話があるんだ」
その一言に、寿司やピザに手をのばしながら面々が首をかしげる。
「あ、そんな深刻な話じゃないよ。“作戦”が思いついたから、それを皆に共有しようと思って」
いくら寿司を頬張り、それを咀嚼すると、怤藍は意気揚々とこう告げた。
「そう!題して…『クレジットカードを落としただけなのに』だよ!!」
…どこかで聞いたことがあるようなタイトルを聞いて、リズットが眉間にシワを寄せた。
「それ確か、映画化した小説のタイトルのパク…」
「しっ!!名前だけ借りただけだもん!!」
何か言いかけたのを怤藍が必死に止めたので、リズットは困惑していた。
「実はさっき先生がアイザックさんに渡してたクレジットカードを人質にして、阿久津さんをこの病院にお呼び出ししちゃったの。アイザックさんに『交渉がしたい。三時間以内にここに来ないと、貴方のクレジットカードがやばいことになります』って内容のビデオレターを、阿久津さんに送ってもらってね」
よほど腹をすかせていたのか、怤藍がピザとサーモンの寿司を交互に頬張りながら、話を続けた。リズットはそんな彼女の口元を、こまめにウェットティッシュで拭っていく。
「まぁ、交渉なんて嘘っぱちなんだけどさっ!阿久津さんに話すことなんてなぁんにもないよ!!それでね?皆に提案があるんだけど…んふふっ…」
今度は卵寿司を手に取ると、怤藍が唐突に一人で笑い始めた。それを見るなり花宮が頭を抱え、リズットは遠い目をし始めた。
怤藍は卵寿司を咀嚼すると、楽しそうにこう告げた。
「…皆!阿久津さんに“決闘”…じゃないや。“ドッキリ”仕掛けてみない?」
思いもよらない提案に、首をかしげた者もいただろう。怤藍は寿司を食べる手を一旦止めると、どこかから大きな段ボール箱を引っ張ってきた。
「実はここに…じゃんっ!」
怤藍がごそごそと段ボール箱を漁ると、そこから大きなバズーカー砲が出てきた。
イヴァン「……?」
「ふっふっふっ~!なんとこれは、密林さんでポチってして買った、バズーカー砲!!ちなみに引き金を引くと、パイ投げのパイが発射されちゃうんだよね!」
柄にもなくニヒルに笑いながら、胸を張って説明する怤藍に、リズットが「なんでそんなものがここにあるんだよ…」と呟いた。そんなリズットなどお構いなしに、怤藍は段ボールの中身の紹介を続ける。
「こっちは強力な粘着質を発揮する…名前わかんないけど、ベタベタする液体!で、お次はカプサイシンソースで、あとあと…これはアロンアルファとダイソーの画鋲だね~」
寿司とピザを避けてテーブルの上にスペースを作ると、怤藍は段ボールから取り出してきたものたちを並べ出す。食事の場に相応しくないものばかりが並ぶ中、搭乗人物たちはそれらを不思議そうな顔で眺めていた。
「これは釣り糸で~…こっちは“笑ってはいけないやつでお尻叩く時に使うやつ“と…。あっ、催涙スプレーとカラーボールと…スタンガンもあるよ!あとなに…?スライム…?だっけ。とりあえず床にぶちまけたら、足滑らせるやつ!このくらいかなぁ」
段ボールの中身をひとしきり説明し終えると、怤藍はまた寿司とピザに手を伸ばした。
「えっとね、作戦はこう!」
そう言って怤藍はピザを頬張りながら、自分で考えた作戦を暴露した。
怤藍が考えた作戦というのは、次の通りであった。
まず、阿久津がここに到着する前に、全員で病院内にトラップを仕掛ける。その後各々配置につき、やってきた阿久津をトラップに嵌めながら、屋上におびき寄せる。
アイザック「(サルカニ合戦を思い出している)」
そして、屋上にやってきた阿久津に“トドメ”をさして「ぎゃふん!」といわせよう、というものである。
どちらかといえば、ホームアローンを連想させるような作成内容だった。
「あぁ、一応言っておきますけど…“トドメをさす”といって、刃物で阿久津を刺す…というのはしないで貰えますか?あんな“低脳三流人間失格最低男”のせいで皆様が手を汚すことになると、耐えられないんですよ。仮に正当防衛だとしても、あの男を刺したら…ほんとの意味で僕は…軽蔑、するから。あまり誰かを軽蔑させないでほしい…です…」
作戦を一通り聞いたリズットが、不安げにそう告げた。
🍎「武器持ってる人たくさんいそうやな…」
「そうですよ。なんでか知らないんですけど、調理場にあったはずの果物ナイフがことごとく消えてるので、おかげでさっき買ってきた果物が、皆様にお出しできないんですよ。なんでですかもう」
アイザック「(口笛を吹きつつそっぽを向いて)…いや~なんでだろうな~」
パピヨン「おほほほほまったく誰かしらね困っちゃうわねほほほ!!!」(目逸らし)
希更「ナンデダロウネ……(目逸らし)」
「……はぁ。まぁ…僕を刺せば万事解決するみたいだから、仕方ないか」
そういってリズットはため息をついた。
🍎「まーこの中に持ってった人がおるんやろなぁ!」(口笛吹きながら)
パピヨン「妖精さんが隠しちゃったのよ」
「大丈夫大丈夫!危ないことはしないし、させないから」
「ほんとに大丈夫なのか…?…嘘ついたら絶交だからな」
冬真「ぜっこう…」ぜつぼうがお
にわかに信じられないというリズットに、怤藍がウインクしながらサムズアップしてみせた。
「というわけで、お寿司食べたら下ごしらえをして、配置を決めようと思うんだけど…大丈夫そう?配置に関して要望があったら、後であたし教えてね~」
ここまで告げると、怤藍はキュウリ巻きに手を伸ばし、もぐもぐと頬張り出した。
「うちの病院、もしかしなくても滅茶苦茶になっちゃうなぁ…」と苦笑いしながらも、元気そうに寿司とピザを食べる面々の顔をみて、花宮は満足げに頷いた。
しばらくして怤藍が「トイレに行く」と言って席を外すと、リズットは静かに口を開いた。
「…あの、皆様。わたくしからも、提案が一つだけあるのですが」
どことなく不安そうな顔が拭いきれないリズットに、面々は耳を傾けた。
「これはわたくしの勝手な推測なのですが…彼女のことなので、もしかすると、どこかのタイミングで突拍子もないことをするかもしれないのです。なんとなく胸騒ぎがするんです」
一時間半前の怤藍が、希更に対して告げた「あたしがここで死ねば、阿久津さん、思いとどまって…くれると思う?」という言葉。その時は何も言えなかったが、リズットの脳裏にはその言葉がちらついていた。
「それで、あの…もしよろしければどなたか…お一人だけでも構いません。わたくしに、手を貸して頂きたいのです。そう難しいことをお願いするつもりはありません。手を貸して頂ける方は、後でわたくしに、教えてほしいです。…すみません、図々しいことをお願いしてしまって」
リズットが話を終えると、バタバタと怤藍がホールへと帰ってきた。
「いやーここの病院滅茶苦茶涼しいなぁ~…って!ピザ全然減ってないけど、皆食べてる?!いっぱい食べてね?!この後皆で大暴れするんだから!」
怤藍はそう言うなり、またピザに手を伸ばし、搭乗人物たちも食事にていしたのだった。
8月10日、午後1時25分。
高速道路を走る一台のタクシー。その窓から、阿久津文裂は空を眺めていた。
雲一つも無い空だった。カンカン照りの太陽の下、一羽の黄色い鳥の姿を見た気がした。
黄色い鳥は高速道路を横切ると、タクシーに目がけて急降下してきた。
ダンッ!という音と共に、黄色い鳥はフロントガラスに追突する。その拍子に、タクシーのドライバーは「うわぁっ!?」と声を上げた。
阿久津はその一部始終を見ていたが、つまらなさそうに鼻を鳴らしただけだった。
阿久津と搭乗人物達が出会うまで、残り一時間を切っていた。