@acbh_dmc4
モンテリジョーニへとアサシンの修業のために移り住んで暫く、大分伯父上の鍛錬にも慣れた頃、俺は金儲けの為に何かできる事はないかと考えていた。
500年後の未来と違い、この時代には足りないものは数多くある。
現代人としての俺の知識を上手く活用できないものかと考えるが、その殆どが俺には到底仕組みの理解できないものばかりだ。
しかしながら、基本的な足りないものと言うのは確実にある訳で、その実現可能そうなものから手をつけて行こうと考えた。
先ずは原案を作ってから伯父上に相談する事にする。
羊皮紙に拙い絵で作りたいものの図と、その説明を書き出したものを纏めて叔父上の書斎に赴いた。
「伯父上、俺、こういうのを作りたいんだけど…」
「なんだ?これは…ピッチフォークか?それにしては全体的に太めだが…葡萄でも栽培したいのか?」
「いえ、農具の方ではなくて、これは食器です。手のひらサイズでパスタとかをこう、絡めて食べられるようにするものです」
手でクルクルとフォークでパスタを巻く仕草をしてみる。
この時代、500年後には普通に使われているフォーク等はなく、基本手づかみでの食事なのだ。
ナイフとスプーンはあるけど、便利なフォークがないなんて…あれってどれくらいの年代から作られたものだったんだろう…
アウディトーレ家は貴族であるから、こういった食器の道具にしても、ちゃんとした揃えがあるのだがフォークは見当たらなかったし、何処に行ってもフォークを使っている家はなかったように思う。
「…ピッチフォークで食事を摂るのか?これまた奇妙な提案をする」
「フォークがあれば食事で手が汚れませんし、何より食べやすいと思うんです。先ほども言ったように、パスタを巻き付けて食べる時とか…摘まんで下から食べるのとか面倒ですし、肉料理なんかはナイフで突き刺して食べるとちょっと危ないじゃないですか。
やっぱり手でつかんで食べる事になるし、そうすると肉汁で手がべたべたして、いちいち拭いたりで余計洗い物が増えるでしょう?」
「ふぅむ。確かに…」
「突き刺せばナイフで切るときの抑えにもなり、そのまま口に運べます。便利ですよ。鍛冶屋に造ってもらえるよう頼みたいんですが、どのくらいお金がかかるのか…」
「気にするな。その位出してやる」
伯父上ににこやかに了承され、あともう一つお願い事をしてみる事にする。
イタリアに生まれて、当然パスタはあったし、実はピザっぽい物もあるのだが、それにつけるソースが今一イタリア感がない。
十分美味しい食事ではあるが、やっぱりイタリアと言えばこの野菜は外せないだろう。
「あと…伯父上、俺トマトっていう野菜も欲しいんです」
「トマト…?それはどういう野菜だ?」
「えっと、このくらいの大きさで、赤くて少し甘みのあるジューシーな野菜です」
俺は手元の羊皮紙にトマトの絵を描いてみる。形状はどんなものがあるのか分からないので、普通のトマトとプチトマトを描いてみた。
伯父上はそれを見てもピンとこないようで、やっぱりこの時代にトマトは一般的ではないらしい。
うーん、じゃあそれを使ってソースを開発すれば、ここ一帯の特産に出来るんじゃないかな…
料理に関してはデズモンドの時に一人暮らしもしていたし、バーでも軽いものなら作っていたから、多少は心得もある。
それに初めてコーヒーを飲んで、ミルクと砂糖入れたら良いんじゃないかと言い放ったエツィオのセンスだって大したものだと思うし、やってやれないことはないだろう。
「トマトって言うとスペインかなぁ…手に入れば美味しいソースが作れるのに」
「その野菜も今後お前の予言で出てくるのか?」
「いいえ。そういやあの記憶にトマトらしきものは一切出てきてないな…食事とかアサシンに無関係な出来事は飛ばされたのだろうし…」
デズモンド時代はまともに学校なんて通ったこともないから、勿論世界史なんて勉強しなかったし、俺の知っている歴史はアニムスで体験した11世紀の十字軍遠征頃と15世紀のイタリア、それと18世紀のアメリカだけだ。
相当片寄った知識だし、そもそも学校で作物の歴史なんて習うものだろうか。
一応手掛かりになりそうな情報を一通り伯父上に話し、トマトを探してもらう事にして、フォークは火急に作ってもらう事にする。
これで元始的な食事方法とはおさらばだ!
***
鍛冶屋にフォークを作ってもらってから、家での食卓には常にナイフとフォークとスプーンが添えられている。
新しく作り上げられた食器は伯父上にも好評で、俺たちの食事風景を見た使用人たちも自宅で試しに使ってみたら便利だと、モンテリジョーニでは大体の領民がフォークを使い始めていた。
作り上げた食器は、勿論手紙で使い方をレクチャーするとともに、実家へも送った。
新しいもの好きのフェデリコやクラウディアも大層気に入ってくれたようで、アウディトーレ家では必ず使用されているようだ。
そして、父上からの要請でメディチ家にもフォークを贈りたいと便りが来たので、どうせなら揃いの食器セットを作ろうと伯父上に持ち掛けた。
デザインなどを現代の仕様に合わせるべく、ナイフ・フォーク・スプーンを同じような意匠で、持ち手などに豪華な装飾を施して作り上げた。
彼のメディチ家が筆頭にフォークを使ってくれれば、もしかしたら流行るかもしれない。
家族にも新たに新調し、メディチ家へ贈り物用に豪華な箱に詰めて送り出した。
少しだけ現代に近づいた生活が出来るようになると、俄然トマトも欲しくなってくる。
折角イタリアに居るのだし(という言い方も変だが)本場のピッツァが食べたい!
それと、前世はよく目覚めのコーヒーを飲んでいたからコーヒーも飲みたい。
アニムスでのエツィオがヴェネツィアでアントニオからコーヒーをご馳走になっているから、この時代にもあるものだが、航路のあるヴェネツィアとは違い、内陸のモンテリジョーニに輸入するには高価すぎる。
出来れば気軽に飲みたいと考えていると、そういえばコーヒーの代用品でタンポポがコーヒーの味に近い事を思い出した。
前に興味で飲んでみたが、アメリカンコーヒーっぽいと言えばぽい。
少しだけ甘みもあるからミルクを入れてカフェラテ風にしても良いし、そこに生姜を入れればチャイっぽくもなる。
俺は早速モンテリジョーニの外へと出て持てる限りのタンポポの根を掘り起こし、ヴィラへと運び込んだ。
使用人に頼み、タンポポの根をよく洗ってもらい、細かく切ってから大皿に均一に広げてそれを庭先に天日干しにする。
良く乾いてから焙煎し、また細かく刻んでから煮だしてみた。
使用人と共に試飲すれば、コーヒーのような苦みと酸味、そしてタンポポの甘みが口に広がった。
少しだけ青臭いが、もう少しやり方を変えればコーヒーらしくなるかもしれない。
要工夫だな、とまずまずの出来のタンポポコーヒーを味わった。
一緒に試飲した使用人にはミルクを入れてもう一度飲ませれば、こちらは美味しいと好評だった。
タンポポは身近な雑草故、何処でも採取できるので、色々と乾かす時間だとか焙煎時間の調節を繰り返し、安定して美味しく飲めるタンポポコーヒーを作り上げた。
完成品を伯父上に振る舞うよう使用人に準備してもらい、鍛錬後の休憩に出すと、伯父上はまた目を丸くしてその初めての飲み物を味わっていた。
「これに砂糖やミルク、生姜なんかを入れればまた違った味わいになります」
「うちの庭で何をしているのかと思えば、茶の研究をしていたのか」
「ええ、ちょっとコーヒーが飲みたいなと思いまして。でも高価なものですし、代用品としてタンポポの根から似た風味の飲み物が作れるので工夫してみました」
「お前は予言者でもあり、発明家だな!これはトマトという野菜も早く見つけてやらねば。どんな物を作り出すのか楽しみだ」
伯父上は一口タンポポコーヒーを飲み、次にミルクと砂糖を入れて味わうと、どうやら後者の方が好みに合ったようで2杯ほどお代わりをした。
お小遣い稼ぎ程度だが、無いよりは収入があった方がいいだろう。
出来たら雰囲気の良いcafeでも作りたいところだが、生憎と時間はない。
一先ず伯父上の名義を借りて、下町の食堂にタンポポコーヒーとタンポポチャイのレシピを売りつけておいた。
これが結構好評となり、この街に行商に来る商人も、タンポポコーヒーを仕入れて行って少しだけ街が潤った。
500年後の未来、イタリアと言ったら観光業だが、今の時代でも特産物を作って外から人を集めたいものだ。
今の所俺にあるのは酒の知識と、多少の飲み物についての知識のみだし、この時代にあるアルコール類を洗い出して新しい飲み方なり、俺の注文で、改良してもらえれば特産物として成り立つだろうか。
そう考えると、シェイカーも作っておいても良いかもしれない。
早速空いた時間でこの時代の酒の種類についても調べてみよう。
ちなみにトマトについては残念ながら直ぐに見つかるようなものではなかった。
俺がモンテリジョーニの盛り立ての為に商売を始めてからゆうに50年は経った頃にスペインから原種が齎され、レオナルドの協力の元ブドウ園を行いがてら、品種改良をして最初のトマトソースを作るに至った。
だがそれはまだ遠い、遠い先の話。
おまけ
エツ「今の俺がバーテンやれば絶対女性客に喜ばれる…(確信)」