@toasdm
星占いの結果が十二星座中最下位だっただけで落ち込むような彼女ではないはずなのに、今日に限ってはやけに落ち込んでしまう。ぼんやりしていて人にぶつかり、ものすごく睨まれた。ジュースでも買おうと思って自販機に百円玉を入れたら、三回連続で返却口に戻ってきてしまった。おまけに、散々な目にあったからちょっと奮発、のつもりで買った唐揚げ弁当はまずかった。何もかもがうまくいかない、という落ち込み要素満載の彼女の頭を、ぽん、と撫でる手はいつもと変わらないのに、嬉しい、という気持ちにはどうしてもなれなかった。
「どうしたの?」
「いえ……」
なんでもないです、の声だけで十分、ごまかせていないことはわかりきっていた。なんだか今この人に甘えてはいけないような気がする、と抱きつきたい気持ちをぐっとこらえて、彼女は何でもない風を装っていた。
「ね」
当然、みのりからしてみれば、明らかに落ち込んでいる彼女のことを放っておくという選択肢はない。しょぼくれほっぺに手を添えて、みのりはじぃっと瞳を覗き込む。
「別に……あの、ほんとに、大したあれじゃなくて」
「そうなんだ?」
「……」
まずは何から説明したらいいものか、と言葉を選ぶ彼女の手をとり、みのりは優しく包んでぎゅっと握った。
「思いついたことから、なんでもいいよ。話したくなかったら話さなくたっていい」
「……朝、テレビみてたら、星座占い、最下位で」
「うわ、凹むね」
なんだそんなこと、と笑われるかと思っていた彼女は、プラス方向に肩透かしをくらう。一つそれを皮切りに、彼女の小さな落ち込みの数々が次から次へと出てくる。
「それでですね、あの、あんなおいしくない唐揚げ弁当作った人どうかしてるんじゃないの?!ってくらいおいしくなくて!」
「唐揚げってまずいのほんとにまずいからね」
「もうぜーったい買いませんから!」
「うんうん、そうしよっか」
「はーーー……」
「ふふふ。お疲れ様。散々な日だったんだね」
「そうなんですよねぇー……はぁぁ……」
ため息をつきながら、彼女はふと、あんなに落ち込んでいた自分が、マイナス方向とはいえ怒りを爆発させられるまでの元気が出てきていることに気づいて驚いた。みのりさんなんかしました?と思わず訪ねてみたが、え、俺?ととうのみのりは何かをしたつもりは全くないらしい。
「なんか……落ち込みよりも、疲れが出てきちゃった」
「っふふふ、そっか。疲れるのにも元気がいるよね」
「はぁ……みのりさんって、否定しないですよね」
「え?」
今の自分に一番必要だったものはこれか、と握られるままだった手を握り返して彼女は気づく。
「星占い最下位で落ち込んでても、たかが占い、って言わなかったじゃないですか」
「え、いやだって、俺でもちょっといやな気分になっちゃうよ」
「唐揚げ弁当まずかった、とか」
「ちょっとお高いもの買ってまずかったら、俺三日は引きずっちゃいそうだし」
「……っふふ。だから、否定しないでただ話を聞いてくれて、漸く立ち直ったところなんですよ」
もう今日は終わっちゃうな、と時計をみれば、短針は間もなく、てっぺんをさす頃合いだ。なんか疲れちゃった、とみのりに甘えることができるようになった彼女のまぶたにも、夜は訪れ始めている。とろんとうとうとしはじめた彼女をよいしょと抱きかかえて、みのりはそのままベッドに移動する。
「寝ようか」
「うん……」
ぎゅっとみのりのシャツを掴んだ彼女の手をゆっくり剥がしてまた握って、指を絡ませみのりは言った。
「さんざんな一日は、もうすぐおしまい」
「んー……」
優しい言葉が鼓膜と頭と、疲れた心を優しくゆらす。
「明日は、いい日にしよっか」
彼女が眠りに落ちるか落ちないかの瀬戸際で、みのりは小さな約束を提案する。彼女の上のまぶたと下のまぶたがくっつくような優しいキスをひとつ落として、おやすみ、と囁いた頃、短針はちょうど、さんざんな一日が終わったことを告げていた。