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[想楽P♀]もー

全体公開 2 1771文字
2020-04-13 12:59:05

「もー…………
デートの日に寝坊した想楽くんのお話です。

Posted by @toasdm

 カーテン越しの外の白さに、がば、と跳ね起きた想楽は一瞬で、まどろみの淵からジャンプする。うわ、と慌てて目覚まし時計を引っ掴むと、全ての針がぴたりと止まったまま、電池切れの四時十二分を指していた。スマートフォンの通知画面は、家を出る予定時刻の十八分前を指していて、そういえばお休みの日はアラーム切れてるんだったな、と思い出して想楽はがしがしと頭をかいた。
「もー……
 タイミング最悪ー、と部屋から飛び出し、洗面所へと駆け込めば、柔らかな髪にぴょこん、と寝癖がついている。
「もーー……!」
 今からシャワーを浴びなおす時間はない、と咄嗟の判断で、想楽は洗面台に頭を突っ込み、簡易のシャワーを髪に浴びせる。
「んぅっ!」
 水温む春とは言うものの、給湯器からの出始めのお湯は最初の方はまだ冷水だ。冷たいー、と身震いしながら髪の毛全体をざっと濡らしてついでに顔を洗い、目が覚めたからいいかー、と想楽は、髪と顔とを一緒に拭いた。
「んーーーーー……
 シャコシャコと歯を磨き、いつもと順番逆になっちゃった、と鏡を覗けば、案の定真っ白な歯磨き粉の泡が、想楽の口の端にちょんとついている。ぶくぶくと口を漱いでからタオルでそれを拭い、想楽はドライヤーを手に取った。
「もー!」
 コンセント差し忘れたー、と、スイッチを入れてもうんともすんとも言わないドライヤーのコードの先に文句をつけて、差し込んで、がしがしと寝癖を取りながら、想楽は慌てて髪の毛を乾かした。一度濡れた髪の毛は素直にまっすぐ、想楽の頭の丸さに沿っていつもどおりの落ち着きを取り戻す。何着ていこう、と家の中をダッシュで移動しながら適当につかんだ服に袖を通して、想楽は壁掛け時計を見る。
「うわー」
 寝坊かー?と兄の声がする。そうですけどー!と八つ当たり気味にキレた返事を返しながら手に取った靴下は、左右が微妙に違ったものをひとまとめにしてあったようだ。片方履いてから気づいた運の悪さに辟易としながら、想楽は乱暴にそれを脱いで放り投げて片割れを見つけ出して履いた。
「もー! もーーーっ!」
 忙しいなあ、とからかうように言われて腹は立ったが、今はそれどころではない。財布、スマホ、充電器、これさえあればなんとかなるや、とバッグにそれらを突っ込んで、想楽は再びダッシュする。玄関で靴に飛び込んで、慌ただしく家を出た時間は、出発予定時刻を三分過ぎていた。
「はぁっ……はぁっ……!」
 ダッシュもダッシュ、猛ダッシュでたどり着いたバス停には、幸運の女神がいてくれたようだった。おぼつかない足取りでゆっくりバスに乗り込むおばあちゃんがいてくれたから、バスになんとか間に合った。ゆっくりで大丈夫ですよー、とおばあちゃんに手を貸してやりながら、想楽はなんとかバスに間に合った。
「あんた優しいねぇ」
「いえいえー、当然のことをしたまでですよー」
 それは本心だったが、今日に限ってはおばあちゃんに感謝する気持ちが少しあったのがくすぐったい。発車したバスに揺られながら、想楽は漸く、寝坊からの爆速起床と準備の慌ただしさからひと段落落ち着いたところへたどり着く。スマートフォンを確認すると、朝跳ね起きた時にはなかったメッセージが一件きているようだった。
「えーと……
 今日のデートの相手からのメッセージに胸をわずかに高鳴らせながらそれを開いて、想楽は思わず、バスの中で声を漏らしてしまった。

「もー…………

 一気に力が抜けてしまって、なんのためにー、と想楽は誰も座っていない前の座席に突っ伏すようにもたれかかってしまった。
 すみません、寝坊しました、少し遅れます。
 そんなメッセージに想楽の疲れは、少しだけ大きくなってしまった。
「あんた、大丈夫かい?」
「あー……あははー、ありがとうございますー……
 脱力した想楽に、これでも食べなさい、とおばあちゃんが通路越しに飴玉をひとつ寄越した。そういえば朝ごはん食べてなかったな、とその飴玉を口に放り込んで、想楽はスマートフォンを操作した。

 こうなったら、待ち合わせの駅でちょっと贅沢なモーニングとか食べないと気が済まない。

 もー、と小さく呟きながら、想楽は豪華なモーニングを提供してくれる店を探しながらバスで揺られていた。


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