@corona_moca1111
蹴っ飛ばして入れ替わった。
目眩。白んでいる視界は確実に目の前のそれのせいだとわかる。
「ちょ…止血!」
側をみてすぐにあったタオルで傷を押さえつけて手をあげる。鈍痛が嫌でも意識に響く。
「ケイ、消毒液どこ?」
「えっと、あっちのなか!」
ケイが言ったあっちは多分奥の棚だろう。両手を上げたクッソださい状態でいくとそばに紐があった。タオルを固定して漁ったところから出たマキロンをタオルの上から注ぐ。
「痛っってぇよクソ!!!馬鹿!!」
こっちの気も知らないで部屋の中は閑散としている。
「めぐみ。おきて。めぐみ。」
ケイがめぐみを呼んでほっぺをつねったりするがが、あいつは起きない。その顔がなんだか安らかでムカつく。勝手に無駄になろうとするなよこっちは生かしてるんだからさ。
「メグにー、どーしよう。めぐみ、ぐっすりだよ?」
「……違うから」
「そのくらいしってるよー?でも、めぐみはおうじさまだからー。」
「どういう意味?」
「あんまりしらないけど、みんなにやさしいんだよー」
「……お前ホント」
ホントは全部わかってるだろ、の言葉を飲み込んで、この先の事を考える。問題は、めぐみの仕事について知識があるやつが誰もいないってことだ。正式な昼職のマナーなんて知らないし、複雑な理論とか分かるわけない。そこにある本もクソムズ過ぎて脳みそがはじける。
力をつけるにはそれなりの安置で修行する必要があるのは当然だし、そのための安置なのに。
あー畜生。計画が無茶苦茶じゃねーか。
血液は滲んでるがたれなくなって、縫ってもらったほうがいいのは分かるから医者に行かないといけないんだろうが、説明もアレもソレも全てが手間で何を言えばいいんだかわからない。包丁でも滑らせたことにするか?
「電話……携帯……イッ…あっぶね!」
ふらついて手をつくと手が痛い。地獄か。とりあえず血が足りるまで座ることにする。弱った。手はつけたから筋はやってないらしいが、落ち落ち俺の仕事もできねぇじゃんか。緊急事態にも程があるだろ。
舌打ちが「誰もいない」空間に響く。
KYなチビと気絶したヘタレと役に立ちはしない俺だけを残したクソみたいな現状。
ハードモードにも程があるだろ。
「……とりあえず…寝るか……」
ぶっ倒れそうな状態を治さなければおちおち考えてもいられない。そのまま倒れこむと鞄に背中が当たってまた負傷した。酷い日だ。
このまま死んで救われるか、地獄に残されるか、そんなこと知らないよ、もう。
目をつぶって、無かったことに。
……。
目が覚めても現実だった。
時計は数時間経って、真っ暗で煩雑な部屋があって、光ったりもしてなくて。
……まぁ、起きても俺だったわけで。そして、これで本当にめぐみに起きる気がないことが証明された訳。
最悪。
起き上がったらさっきよりぶらつかなくなった視界が、床の血液とか布団とか包帯とかそういうものをちゃんと見せた。
はー。死のうとはしてなかったと。馬鹿には変わりはないけど。
どこまで行ってもムカつくやつ。
はぁ。
とりあえず付近でそこらへんの血を拭き取って、てきとーに洗った。布に洗剤を染み込ませて汚れを落としていく作業。慣れている自分がなんか馬鹿みたいで鏡ごと笑う。笑い顔まで下手くそに見える。
傷は相変わらず痛い。
水は染みるし、にじみは薄まるけど消えやしない。
「ケイ」
……返事がないってことはお子様もお昼寝か。静かすぎる。静かすぎて、嫌になる。
適当にテレビでも流すか。
つけた番組はつまんない大人たちがつまんない話でグダグタしているようだった。
ウザい笑い声、馬鹿みたいな内容。
そんなのは当たり前としてとりあえず生きる。適当にお湯を入れて沸かすポット。
笑い声。
シールを剥がす音がカサブタの音みたいで嫌な感じがする。
適当に中身を入れる。
「……誰に連絡つけんだよ。」
あいつの携帯を漁ると、知らない人の名前だけがつらつらと並んでいる。
別アカウントを開いて、俺のやつを見る。
まぁそこにはいつもの客が並んでる訳で、でもなんか頼れる大人もいなくて。どーせ無茶振りしてくるんだろうなー、どーせ適当な理由つけてこっちは触らずに向こうだけ適当するんだろうなーとか。……あ。
バーのママか。
まぁあの人は見たことあるけど、知ってるのはめぐみだけだし、どうしよっかな。
……めぐみのフリするのならないといけないんだろうか、あいつのマネ……無理だ…吐き気がする……。
……でも、傷は残さないようにしないと、駄目だ。
電話番号を選ぶ。選んで、一息ついて、ボタンを押した。
コール音がうっとおしい。待つ時間が長い。
と、
聞いたような声がして。
「ママ、『メグ』だけど。傷を縫うの上手くてなんとかなりそうな医者、知ってる?」