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[雨P♀]浮気現場

全体公開 1611文字
2020-04-14 12:46:43

「寝過ごしちまった」
デートの約束の日に2時間寝過ごした雨彦さんのお話です。

Posted by @toasdm

 人間、慌てすぎると一周回って冷静になるもんなんだな、と寝起きの頭をがしがしかいて、雨彦は起き上がったベッドの上でスマートフォンを見た。随分深く眠れたおかげか、体は軽いが気は重い。未読メッセージ十二件、不在着信三件。いずれも彼女からのものばかりだ。
……
 時刻は間もなく、待ち合わせ時間から二時間遅れた頃になる。端的に言えば寝坊して寝過ごしたわけだが、その間彼女からの連絡は、多いようで少ないな、と雨彦は思った。
 とりあえず顔でも洗うか、と立ち上がってみたが、すぐさま雨彦はベッドに腰掛けなおす。先に連絡くらいはしておきたい、と罪悪感に圧迫された胸がきしきしと軋んで音を立てるようで、はぁ、とついたため息は、いっそ情けないほどだった。
……
 電話にしようか、メッセージにしようか。迷って立ち上げた無料通話アプリの緑色を瞳に映して、雨彦は逡巡する。誠意を伝えるなら電話だろうが、今お前さんが電話に出られるかどうかはわからない。不在着信の重みを今一番感じている雨彦は、これ以上彼女に何らかの負担を増やしたくない気持ちで少し迷って、通話のボタンをタップした。
……すまない」
「ふふ……
 開口一番謝る雨彦に、彼女は機嫌よさそうに聞こえる笑い声で返す。怒ってないのか?と一瞬緩みかけた気を引き締めるように、雨彦はなんとなく、ベッドから腰を上げて立ち上がった。
「寝過ごしちまった」
「おはようございます、声聞けばわかりますよ」
「そうかい……すまないな」
 怒ってはいるようだが、なぜだろうか。彼女の態度はどちらかというと柔らかい。よく眠れましたか?とこの状況で聞かれれば嫌味のように聞こえてもおかしくないというのに、彼女のそれは、お疲れ様です、と言っているように聞こえて仕方がなかった。
「おかげさんでな、久しぶりにぐっすり眠れたよ」
「よかったですね」
「すまない」
 謝りすぎです、と笑う彼女に、どうしてお前さんはそんなに笑っていられるんだい、と雨彦は思わず聞いてしまう。そうですねぇ、とゆったりした口調で少し考えた電話口の彼女は、まるで口角があがってるのが見えるような口調で、にんまり言った。
「浮気してるからですねぇ」
「浮気?」
 ストレートにとらえるならば、恋人に、久しぶりのデートの約束を二時間もすっぽかされて待ちぼうけを食らっていたところを、軟派な野郎が声をかけてそのまま面白おかしく過ごしている、という意味になるだろうが、彼女に限ってそんなことをするとは思えない。それに、もし本当にそんなことをしているなら、自分のことを連絡もなしに放っておいた雨彦の電話に、ワンコールですぐに出る、なんてことはありえないと思ったのだ。
「どういうことだい?」
「浮気は浮気ですよ。忙しいんで切りますね」
 ぷつり。からかうようにそういった彼女の声は、そこで途切れる。どういうことなんだい?と狐につままれたような雨彦がスマートフォンを手にして固まっていると、未読メッセージが一件、追加された。

……はは」

 なるほど、こいつは確かに浮気だ、と雨彦は送られてきた写真に苦笑した。春らしいカラーリングの花柄スカートの上、丸くなった猫は彼女の手に撫でられてご機嫌な様子だった。
「そこで待っててくれ、すぐに行く」
 メッセージを返して、雨彦はスマートフォンをベッドに放り投げて洗面所へと向かった。どこの店だい、と聞かなくたって、雨彦にはその、特徴的な猫の毛色と模様とで、彼女が日頃から「すっごくかわいいアイドルちゃんがいるんですよ」と言っていた猫カフェの場所がわかってしまう。ここからなら十五分くらいか、と頭の地図に線を引き、雨彦は身支度を手早く整え始める。

 浮気現場を押さえた証拠写真は、準備中も何枚か、それはそれは楽しそうな雰囲気で「のんびり待ってます」のメッセージと共に送られてきていたようだった。


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