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[圭P♀]唐揚げ大作戦

全体公開 1 2118文字
2020-04-15 23:11:48

「ん……ああ、おいしい、ね」
都築さんに唐揚げ食べさせる作戦を閃いたPさんと、一枚も二枚も上手の都築さんのお話です。

Posted by @toasdm

 やだ、私天才じゃない?!
 閃いた彼女は揚げ鍋の中に油を注ぎ、これならいける、と謎に確信した。
 いくら前より食べるようになってきたとはいえ、圭の食事量は成人男性の平均を大きく下回るどころか、未就学児の胃袋と同等程度の許容量しかないように錯覚するほどには、食べない。なんとか栄養のあるものを、とダンスレッスンの差し入れに持っていったものは、全てスタッフがおいしくいただきました、と聞いて膝をついたことだってある。促さなくても口にするのは、ミネラルウォーターくらいなものだ。
 その圭に、彼女は今夜、まんまと唐揚げを食べさせる作戦を思いついたのだ。我ながら天才だ、と彼女はにんまりほくそ笑みながら油の温度を確認した。箸先で泡がぶくぶくと上がり、そろそろおいでよ、と袋の中の味付け肉を誘っている。大丈夫、大丈夫、これならもしかしたらいけるかも、と期待に胸を膨らませながら、彼女は揚げ油の中に衣をつけた鶏肉を投入した。

 ジャッ、ジュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥーーー……

 水分が一気に蒸発する高温が、幾層にも重なってキッチンに広がっていく。大きな音、小さな音、高い音と低い音、抜ける音くぐもった音。それらをまとめる換気扇の低い駆動音が、ベースのリズムを作っている。
「やあ、賑やかだね」
 食べるのはあまり好きではない圭だが、調理の音という視点から見てみると話は別なようだ。賑やかなキッチンの室内楽に誘われて、圭がふらりと顔を出したのは、実は彼女の計算に含まれていた。
「ええ、今日は唐揚げです」
「ふぅん……
 あー、やっぱり興味ないですよねぇ、と一瞬挫けそうになった彼女だったが、いやいや、今日のこれは絶対いけるって、と心を強く持って、菜箸をぐっと握りしめた。何も警戒しなくて大丈夫ですよー、というていを装いながら、彼女はなんでもない風に話を続けた。
「エビフライや天ぷらとは、音がやっぱり違いますか?」
「うん、そうだね。フライドポテトはまぁるい音がするけれど、天ぷらははきはきしていたよ」
 その違いよくわからないんだけどなぁ……とは思うが、彼女は圭のそういう感性が好きだった。好きだったし、尊敬もしていた。きっと圭の聞いている音が溢れた世界は、圭にとって居心地のいい場所なのだろう。その世界で圭に寄り添って行きていくことが許された自分のポジションに感謝しながら、これは是非とも食べていただかなくては、と彼女は油の中でジュワジュワと揚がっていく唐揚げたちに全てを託した。
「うん?」
「おぉ、わかるんですね?」
「ふふふ、うん」
 ジュウジュウという音がやがて乾燥したような音になり、パチパチと拍手をするような音になった頃が、揚がった合図だ。まるで、お肉が拍手をしてくれているようだね、とくすくす笑う圭にせめて一口でも、と彼女は揚げたての唐揚げの一つを引き上げ、まな板の上に乗せて包丁でカットする。
「よし、中までちゃんと揚がってる」
 ちょっと棒読み過ぎたかな?と悟られまいと意識し過ぎて少しぎこちない話し方になりながら、彼女は一口の半分くらいのサイズになった唐揚げにぷすりと爪楊枝で刺す。ふー、ふー、と吹いて冷まして、念の為唇に少し当ててみてやけどしない温度担っているのを確認してから、彼女は意を決して、圭にそれを差し出した。
「ちゃんと揚がってると思うので、よかったら味見してみてくれませんか?」
「うん?」
 僕がかい?と一瞬驚いた圭の口元、唐揚げはじっと黙って待っている。お願い、少しでいいから食べて、と差し出したままじっと見上げてくる彼女と唐揚げとを見比べると、圭はくすりと笑って、うん、と小さく頷いた。
「ん……ああ、おいしい、ね」
「んっ!?」
 正直、勝った、と思ったのだ。やっぱ私天才じゃん!?と自画自賛までしたのだ。それでも、そんな彼女の思惑を知ってか知らずか、圭はにんまりと笑った唇についた唐揚げの肉汁と脂のジューシータッグを親指で拭う。唐揚げは爪楊枝から口の中へと移動していたが、ちゅ、とその親指を吸った圭の口の中ではなく、なんで!?と困惑する彼女の口の中へと移動していたのだ。おいしいのは、唐揚げなのか、それとも別なものなのか――きょとんとしたまま真っ赤になって、彼女は抗議した。
「け、圭、さん、なんで」
「ふふふ」
 気持ちは嬉しいけど、顎が疲れてしまうからね、と彼女の考えなどすっかりお見通しだった圭がニコニコと笑いながら、まな板の上の唐揚げをひとつ摘んで言った。

「味をみるだけなら、君のキスだけで十分だよ」

 本当は食べてほしかったんだよね?と摘んだ唐揚げを口に放り込み、圭はもぐもぐと慣れない咀嚼をする。
「うん……おいしい、と、思うよ」
 よくわからないけどね、と苦笑する圭の方が何枚も上手で、彼女は天才でもなんでもなく、作戦は失敗した、ような気がしたが。
「君に心配をかけたくないからね。今日は少し、食べようか」
「!!」
 半分くらいは、成功しているようだった。今用意しますね、と嬉しそうにいそいそと準備を始めた彼女の後ろ姿を、圭はなんとも言えない表情のまま見つめて待っていた。


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