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[雨P♀]一週間の魔法のウィスキー

全体公開 1575文字
2020-04-16 01:20:51

「丁度いい具合だな」
なかなか減らないウィスキーが一晩でなくなる魔法をかけた雨彦さんと飲兵衛Pさんのお話です。

Posted by @toasdm

 お、と見開いた彼女の瞳に、琥珀色が映り込んでキラキラと揺れる。お前さんは飲兵衛だな、と苦笑する雨彦の大きな手が掴んだボトルは、封を切ったもののなかなか減らないウィスキーを移し替えたものだ。
「丁度いい具合だな」
「もう、この一週間ずっと楽しみで楽しみで……!」
 スモーキーさもなく、癖も弱く、よく言えば飲みやすく当たり障りのない、悪く言えば特徴のないただの酒、といった印象のウィスキーは、度数の強さもあってかなかなか減らなかった。酒は好きだが強いわけではない彼女は、専らハイボールにして少しずつ消費していたのだが、炭酸は腹を膨れさせる。月が一晩で欠ける量程度しか減らない夜を何度か一緒に過ごした雨彦が、見るに見かねて「一週間の魔法」をかけた先週末から、今日でちょうど一週間になる。
「どんな味かなぁ……
「まずは香りを試してみるかい?」
 ウィスキーを移し替えた広口ボトルには、皮を向いて芯をとった青りんごが沈んでいる。濁りもなく、白くぷかぷかと浮かんでいたはずの青りんごは一週間で琥珀色に染まり、ボトルの底に沈んでいた。いい色だ、と目を細めた雨彦がボトルのキャップを外した。
「わ……
「ほぅ……
 ふわ、とアルコールの香りが爽やかなりんごの芳香を連れて二人の鼻先をかすめてスッと消える。むせ返るようなフルーツの甘ったるい香りではなく、フレッシュながらも落ち着いた印象になっているのは、青りんごの瑞々しさとウィスキーのマリアージュの成果だろうか。
「ほら」
「ん……んんっ!?」
 ボトルを彼女の方へとやれば、ふんふん、と鼻をひくつかせて彼女は香りを楽しみ始める。わくわく、と書いてあるそんな彼女の表情に目尻を下げて、雨彦は用意したグラスにクラッシュドアイスをざらざらと満たした。
「まずはストレートで試してみるか……
 澱も濁りも泡浮きもない琥珀色に、大丈夫だろうが、と雨彦はスプーンで掬った数ミリリットルを手の甲に乗せる。香りを確かめ、ちゅ、と手の甲に口をつけ、いけるな、ともう一度スプーンで掬って手の甲に乗せた。
「え」
「味見さ」
 いやわかるんですけど、と一瞬たじろいだ彼女は、その一連の動作から得も言われぬ妖艶さを感じ取ってどきりとしたまま固まっていた。スプーンから直接じゃ後が大変だからな、と苦笑する雨彦はそんな彼女の動揺をわかっているのかわかっていないのか、わからなかったが手の甲のテストテイストを勧めてくる。
「あぅ……じゃ、じゃあ……
 ちゅ。
 ごつごつとした筋の浮く、男らしい手の甲に柔らかな唇が軽く触れる。ああ、なるほどな、と雨彦が彼女の動揺の原因に気付いたのは、そんな光景を見て自分の胸が少し躍ったからだった。
「あ、これ絶対美味しいやつ」
「っははは、気に入ったかい?」
 こくこくと強く深く何度も頷く彼女の顔から、全力の「早く飲みたい!」が放たれているのも、雨彦にとっては可愛らしくて仕方がない。いい子で待ってな、とクラッシュドアイスの上にスプーンでアップルウィスキーを数回に分けて注ぐと、雨彦は彼女にそれを手渡した。
「召し上がれ」
「うわーい!」
 お前さん、なんだいその喜び方は。
 大人の飲み物を子供みたいな反応で、いただきまぁす!と嗜む彼女の、そういうところが雨彦は愛しくてたまらなくなる。
「こっ、れっ、はっ」
「ああ……いいな。うまい。飲みやすくなってるな」
「これはーおいしいです!」
 すっかり上機嫌の彼女に気に入ってもらえたのが余程嬉しかったのか、かぱかぱと開ける彼女のグラスに、雨彦は次々とウィスキーを足していく。

 青りんごの香りを纏った琥珀色のウィスキーは、酔って寄り添って幸せそうに眠る二人をたった一晩でこしらえてから、愛しい思い出だけを残して魔法のように消えてしまった。


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