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雨合羽と捨て猫

全体公開 1108文字
2020-04-19 00:02:00

田町めぐみと田町ケイ
夢の中で。

僕は。
海の底につっぷしていた。いや、海かと思ったそれは水溜りの上だった。上に雨が降り注いでいた。もう少し上を見ると、薄暗い空が広がっていた。動けなかった。動けないので、空を見ていた。雨が僕の上に降り注いでいた。頬をつたったり、服を濡らしたり、髪の毛をぐしゃぐしゃにしていく。
ああ、ここが、天国なのかなぁ。それにしては、普通すぎるなぁ。
紫陽花が咲いている。近くをクルマが通って、飛沫がまた僕の顔を濡らした。砂利がささっていたい。眼鏡にもヒビがはいっていて。
光が前から迫ってきて僕を轢いた。
轟音。
つんざくほどの痛みが僕を白く。
声も聞こえなかった。痛くて、痛くて。音が収まって、気を振り絞って身体を上げると、赤メッシュが血に見えて、でも、それは血じゃなかった。
痛いのに血が出なかった。タイヤの後だけが僕の手に痕として残っていた。まだ、痛いのに、いたいのに、いたくてしょうがないのに、ぜんぜんみえてくれない。
動けるなら、動けるから、とかろうじて痛くない腕で前に進む。割れて何個もうつる先に水たまりと沢山の車、赤い光と青い光と、誰かの靴、たくさんの靴、だれも僕に気がつかないで歩いていく。
悲しくて痛くて苦しくてそれ以外に傍観しながら綺麗だなぁ、と思っていて。
足は本当に重くて動かなかった。鉛のように、過去のように、見えないし重くてもう嫌だった。力尽きて一回崩れて、眼鏡がアスファルトにカシャンって鳴って、クラクションと車の光と線と白と赤と影、誰も見ない僕と雨。反射の顔が亡霊みたいだった。
……そこにいる誰かの影が見えた。
「めぐみー、こんなところにいたの?」
話しかけてきたのは、僕よりも幼い少年だった。丸い頭と、青い子供用の施設の傘、黄色い施設配布のレインコートを着ていた。
「あぶないよー?」
……うご、け、なくて。」
「そっか、だからおきれないんだねー。ても、けがしてるー。」
気がつかなかった。左手の方から血が線を引いていた。いつのまにひかれていたのだろうか。
小さい子が、自分の傘を僕の顔のところに置く。小さい手で、僕の頭を撫でる。
「よしよーし。だいじょうぶだからねー。メグがいま、おとなをなんとかしてるよ。」
そうなんだ。
「きっとね、なつがきたら、雨もやむよ。だからね、だいじょうぶだよ。」
大丈夫なんだ。
「めぐみは、ゆっくりねてて。ぼくらはそのために、あるんだよー。」
うん。ありがとう、……
「ケイだ……よばれてる!」
名前を覚えようとした時、大きな音がして、なんだか僕らの道はまた海に戻って僕を飲み込んで、
そしてちびっ子の声も遠ざかって。
「ごめんねめぐみ!またこんど!」


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