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こちらのあとの話を加筆修正したものです。書いて下さった方へ改めて御礼申し上げます。
@Mementomori_em
「……っはあ」
「終わった、か」
襲い来る男共は全て倒した。気付けばふたりの周りは死屍累々となっていた。赤兎馬を納め、寒薙は生存確認も兼ねて榎月を呼んだ。
「おい」
「……あ?」
榎月の余裕の無さが返答に顕れている。
「怪我、大丈夫か」
「……見て解らない?」
力無く榎月は答える。半身を血に染め、負傷した左腕を下げている様はかなりのものだ。心做しか額に汗が浮かんでいるように見えた。
「こうして見てると怖えな」
「あんたは余裕そうで何よりだよ、こっちが使いものになってたらぶん投げてた」
「ははっ、その位言い返せるなら大丈夫じゃねえの」
「……」
榎月は黙ってその場に寝転んだ。
「おいおい、ここで寝ようなんて思ってねえだろうな」
「……別に。月が、綺麗だなって」
「は?」
空を仰いだ。今日の空は澄んでいて、月は煌々とこの地を照らしている。寒薙は思わず感嘆の声を上げた。
「……ねえ」
「んだよ」
「送ってって」
「は?」
「あんたも一応怪我してるんだ、僕が案内するから担いでってよ」
「……はあ?」
寒薙の声が夜の街に響き渡る。これは長い夜になりそうだ。
「……飯食ってんのかお前。やたら軽いぞ」
寒薙は榎月を担いで言われるがままに建物を探すこととなった。別に一人で帰っても良かったのだが、こんなことがあったから、赤兎馬がなかったせいで、等々と諸々の理由を無理矢理付けて付き合うことにしたのだった。
「あんたが筋肉質なだけでしょ」
「どうだかな。で、次はどっち曲がるんだ」
「左。そこから道なりに行けば解るよ」
榎月に言われた通りに左に曲がった。建ち並ぶ建物が、同衾とか、女を買うとかいう……俗的なものばかりだ。段々と不安になってきた。
「……ここで本当に合ってるのか」
「合ってる合ってる。ほら、早く行った行った」
肩に担がれている榎月は寒薙をばしばし叩いて促した。こういう時だけ元気がいいのがなんだか腹立たしくなってくる。
「落とすぞ」
「怪我増えるの嫌なんだけど」
「じゃあやめろ」
榎月は大袈裟に舌打ちをすると黙り込んでしまった。寒薙は榎月に言われた通り、道なりに進んだ。
「……はいストップ。ここだよ」
暫く進んだ後、榎月は寒薙の肩から降りると娼館の扉に手を掛けた。
「本当にここなのか」
「そうだけど。何?」
「……何でもねえ。進めよ」
娼館の扉が開く。独特の空気が、寒薙を圧倒させた。
□□□□□
「無茶しすぎではありませんか?」
「……反省してる」
娼館の空き部屋で、榎月は椿から手当を受けていた。
「そちらの方は大丈夫ですか」
「あ? 俺か? ここ以外は別に平気だぜ」
大した傷ではないが、念の為と椿は寒薙の額に絆創膏を貼った。
「あら、ではそのスーツの血は」
「こいつの付いたのがこっちに移っただけだ、気にすんな。……おい、汚したツケは払ってもらうぜ」
「ああ、はいはい」
腕の手当を終えた榎月は、畳んである着物の中から金の入った袋を寒薙に渡した。
「あ? 随分と早いお支払いじゃねえの」
「暫くはあんたに会いたくないから今の内に払っとくよ。いいだろ」
「後回しにされるよりはマシか……」
「もしかして僕のこと信用してない?」
「チャラにしろって言われると思った」
「僕お金に関しては厳しいけど」
「あーあー、そうですね、守銭奴ですもんねえ情報屋サンは!」
「うっわ敬語で話されると気持ち悪」
「あ?」
「お二方は仲が良いのですか?」
椿は小首を傾げて言う。どこを見てそう思ったんだ。恐らくふたりは同じことを考えていただろう。
「まさか」
その問い掛けにふたりは一瞬固まった後、返答した。意図せず声が重なる。
「!」
睨み合うふたりに椿はくすくすと笑う。
「……はぁ。もういい。ねぇ椿、今夜泊めて欲しいんだけどいい?」
「構いませんよ。そちらの方はどうしますか」
「俺の事は寒薙って呼んでくれ。そちらの方そちらの方ってめんどくせえだろ」
「ではそうさせて頂きますね。寒薙様はどうなさいますか」
「様付ける必要無いよ、こんなゴリラに」
「……俺はいい。こいつが送れって言ったからここまで来ただけだからな。お前は嬢ちゃんとよろしくしてればいいんじゃねえの? つーことで、じゃあな」
あとゴリラはやめろ、と言って寒薙は娼館を出て行った。
「……あれ程貶しておいて良い人ではありませんか」
「いいの、そういう関係だから。とりあえず今日は疲れたから眠らせてよ」
榎月は擦り寄るように椿に寄り添った。そんな彼の頭を椿はそっと撫でる。
「今日は随分と素直ですね。ご飯は要りますか」
「ん、大丈夫……今日はもう、疲れたから」
「あらやだ、そのままだと風邪を召してしまいますよ」
「看病してくれるなら惹いてもいいけど……なんてね」
椿から汚れていない着物を借りて羽織った。香の匂いが鼻腔を擽る。疲れと温もりと安心感で満たされて、榎月はそのまま眠りに落ちた。