@875108Express_
このランタンは、君達の命の灯火。この灯りが消えない限り、君たちはきっと前を向いて生きていける。
そんな夢を見ながら、私は今日も、君たちを照らす灯りになろう。
愛を込めて、日嘆メイズより。
搭乗人物たちの旅物語が終わり、あれから一年が経った、2020年の夏。この一年、一人でイギリスに滞在せざるを得なかった青年、リズットは今、人生初のヘリコプター操縦に苦戦していた。
「どうして……」
ことの始まりは、彼がこうなる一日前に、日本で起きた。
現在世界中で大流行中の『三文字のあの新型ウイルス』のせいで外出自粛を強いられ、途方に暮れていたリズットのもとに、一本の謎の電話がかかってきたのだ。
電話の内容が長かったので要約すると「おまえ!有罪!!起訴してやる!!」とのことだった。
電話の主曰く、何やらリズットは、一年前の物語の世界で何かやらかしたらしい。詳しい話は後ほどわかるとして、リズットは起訴されたようなので、実家のヘリコプターで日本の裁判所へ向かうことになった。
『お兄ちゃん頑張って!日本に着くまで、あと十二時間だよ!』
そんな彼をタブレット越しに応援する、一人の少女。そう、彼女は旅物語の世界にいた搭乗人物の一人、姫羽笑愛である。彼女は数時間前、イギリスにいるリズットを日本の裁判所へとナビゲートするために、彼のタブレットへと送り込まれたらしい。
「まる一日も自力で操縦しないといけないのか…気が遠くなりそうですね」
現在ヘリでロンドンの上空を横断していたリズットは、遠い目をした。何だかんだ言いながらも、ちゃんと裁判を受けるために(※なんで起訴されたのか全く心当たりがないが)日本に向かう二十歳手前の元財閥令嬢の図である。偉い。
慣れない操縦をこなしながらも、笑愛のナビ通りに日本へと向かうこと十二時間。いつしか夜は明けて、空の下にはスカイツリーやらスクランブル交差点やら、皇居が見えてきた。十二時間寝ずにぶっ通しで操縦していたリズットは、皇居が見えてきた頃には憔悴しきっていた。
「…笑愛様、あと何時間で目的地でしょうか」
ヘリが墜落しないように操縦しながら、リズットが問う。
『あと三十分だよ!頑張って!』
「ありがとうございます…。着いたら着いたで、間髪入れずに謎の裁判を受けなきゃならないんですよね…」
正直リズットは「こんな形で日本にまたやってくるだなんて、全く予想していなかった」という気持ちよりも、物凄い疲労感のほうが勝っていた。
そんなこんなで、リズットは笑愛と共に、指定されたヘリポートへとたどり着いた。ヘリから降りたリズットは、休まずに笑愛と共に裁判所へと向かう。時差ボケとカンカン照りの太陽と強烈な眠気のせいで、彼の足取りがやや重い。
それでも己を奮い立たせながら、彼は裁判所に辿り着き、その扉を叩いた。
「すみません。本日裁判に呼ばれた者なのですが」
そう告げると、リズットの背後にぞろぞろと警官たちが群がってきた。
「えっ、何ですか…?」
警官たちはリズットを取り囲むと、彼を連れて何処かへと向かう。己の身に起きているこの光景に、リズットはそこはかとないデジャヴを感じていた。
それから数分後、リズットは証言台に立たされていた。
「だからどうして……」
奇妙なことに、裁判所にはかつて搭乗人物と呼ばれた面々の顔がずらりと並んでいた。
「えー…これから、裁判を始めます」
そう言って切り出したのは、大きなモニターに映っていた周である。裁判長の席にはアイザック、原告側の席には怤藍、原告の弁護人としてりんごが参列していた。ちなみにリズットの弁護人席は、空席になっていた。
「それでは原告の守崎さん、訴えをどうぞ」
周が告げると、原告の怤藍が立ち上がった。
「はい!あたしはリズットを訴えます!!リズットは抜け駆けをしました!これは有罪です!裁判長、有罪にしてください!!」
「えっ???いっ、異議あり!!ちょっと待ってくれ?!」
こちらを指さす怤藍に、リズットは耳を疑った。
「起訴したのって、怤藍だったのか?というか、抜け駆けって…何の話なんだ…?」
全く身に覚えのないことで有罪になるのが納得できず、リズットは怤藍に説明を要求した。
「リズット…あたしが前に、あなたにお手紙送ったのを覚えてる?あのときにね…あたし、こう書いたはずだよ」
怤藍が告げると、弁護人のりんごが手紙のコピーをかかげた。
その手紙の末文には『結婚式の友人代表のスピーチは、絶対私がするんだから!』と書かれてあった。
「あたし見たよ?リズットがパピィちゃんにプロポーズされて、カルカタッタの教会で二人だけで結婚式してたの!!あたし!!見てたよ!!ノートパソコン越しに!!!」
席から身を乗り出して叫ぶ怤藍に、リズットは頭を抱えた。
「いや、あれに関してはその…いや、うん…一応日を改めて、やり直そうとはしてたんだけど…」
リズットはしどろもどろになるが、怤藍の勢いは止まらない。
「男なら言い訳するのはやめなさぁい!!どのみち結婚式にやり直しとかある?!どうせやるなら、やり残しがないように、一発で盛大にやって頂戴!!裁判長、判決を!!」
怤藍が裁判長のアイザックに視線を向けると、その場にいた全員も同じように、彼に視線を向けた。
「判決を下す!!」
全員が息を飲んで、アイザックの判決を待つ。そして。
「被告人、リズット・アルジャーノンは有罪とする!!」
有罪っ……!圧倒的有罪っ……!!
有罪判決を下されたリズットは頭を抱え、怤藍は『勝訴』とかかれた半紙を掲げた。
「え~…という訳で、被告人は今から『有罪の儀』に移るので、よろしくお願いします」
周がそう告げると、裁判所内にガタッ!という音がした。それと同時に、リズットの足元にあった床が消え、彼はそのまま闇の中へと落下した。
「うわっ!?」
リズットが落下した様子を確認すると、裁判は閉廷した。
目を覚ますと、そこは見覚えのある場所だった。ひんやりとした空気が漂う中、体を起こすと、目の前には大きな観音開きの扉が佇んでいた。ふと、扉の側に謎のウェルカムボードが置いてあったのが、目についた。
振り向くとそこには、かつて仮死状態だった彼が一年前まで眠っていた倉庫があり、リズットはもう一度扉を眺めると、悟った。
「病院の地下に作られた、噂の『劇場』じゃないか」
怤藍いわく、かつて物語の世界を上映するために作られたのがこの劇場らしい。
リズットはその『劇場』の扉に手を伸ばした。手を伸ばした時、何故か先ほどまで自分が着ていた上着の色が、白っぽく見えたことに、少しだけ違和感を抱きながら、ゆっくりと扉を開ける。
扉を開けると、そこには。
様々な種類の花びらが舞い、真っ赤なじゅうたんには色とりどりのランタンが並べられていた。その光景に目を丸くするリズットを、スポットライトの光と、温かな拍手が迎え入れる。
「大変お待たせ致しました!!それでは、新郎の入場です!!」
何処からか冬真の声がした。その声に続き、ステージのはしからパイプオルガンの音色が流れた。パイプオルガンの前に座っていたのは、イヴァンだった。ステージ上のスクリーンには、ステンドグラスの写真が投影されていた。
「えっ、新郎…?」
リズットが困惑していると、観客席から「おめでとう!!」の大合唱が響き渡った。
「リズットさん、早く神父さんの前まで行ってください」
戸惑いのあまりその場でしどろもどろになっていたリズットに、マイクスタンドの前で冬真がそう促した。
「えっ、え………?はい…」
よくわからないって顔をしつつ、リズットは言われた通り前に進んだ。
ステージの中央には、神父が立っていた。が、その神父の顔に、リズットは見覚えがあった。
なぜならば。
「花宮……先生………?」
ステージに上がったリズットは、神父…もとい、花宮の名を呼んだ。
「そ。久しぶりだね、リズットくん。いろいろあったけど、思ったより早く刑期終わっちゃったから、一昨日帰ってきたんだ」
「そうだったんですね…」
花宮はリズットに微笑みかけた。
「そんなことより、愛しの花嫁をほったらかしにするのは感心しないぞ?そんなリズットくんに…はい、あっちをみてごらん」
花宮が扉に目を向けると、いつの間にかそこには、ウェディングドレスを身に纏ったパピヨンの姿がそこにあった。
「………へ?」
リズットが目を丸くしていると、冬真が「続きまして、新婦の入場です!」と高らかに告げた。
「えっ、先生…これ、何のドッキリなんですか…?」
こちらにやってくるパピヨンを横目に、リズットは花宮に問う。すると花宮は、くすくすと笑いながら答えた。
「何のって…君たちがカルカタッタで、二人だけで式をあげちゃったわけだから…そのやり直し。『結婚式なのに、お祝い事なのに、二人だけでやる式で終わるだなんて、納得行かない』って、怤藍ちゃんが。裁判とかやってたみたいだけど、あんな感じのをしないと、リズットくんは帰ってこれなさそうな気がしたらしいよ」
そういって、花宮は新郎の参列者席に座る怤藍に目を向けた。
「まぁ話したいことは後で各々話してもらって…今はこの式をやりきろう?なっ、新郎様」
花宮がにこりと微笑むと、やってきたパピヨンがリズットの隣に並んだ。二人が並んだのを確認すると、花宮が告げる。
「本日はご参列ありがとうございます。そして、誠におめでとうございます。簡単ですが、これより二人の結婚式を執り行います」
花宮の言葉に、参列者全員が頭を下げた。花宮はその後、リズットに問いかけた。
「まず新郎、リズット。貴方は健やかなる時も、病めるときも…命ある限り、妻となる彼女を愛し、敬い、守り、支え合い…己の生涯に幕を閉じる時まで、寄り添い続けることを、誓いますか?」
「えっ…えっと………はい。誓います」
リズットが答えると、花宮は満足げに頷いた。そして、今度はパピヨンに目を向けた。
「新婦、パピヨン。貴女は貴方は健やかなる時も、病めるときも…命ある限り、夫となる彼を愛し、敬い、信じ、支え合い…己の生涯に幕を閉じる時まで、幸せであり続けることを、誓いますか?」
「はい、誓います」
パピヨンが答えると、花宮は二人の肩に手を置いた。
「ここにいる皆さんが、君たち二人の証人です。二人の誓いを受け取ったので、彼らが夫婦になることを認めます!!皆さん、新郎新婦に、大きな拍手を!!」
花宮が高らかに告げると、拍手の慈雨が降り注いだ。
「おめでとう~!」
冬真「おめでとうございます!!」
わーいって両手あげて大きな声ではっきりと
「リズ、リズ……うわあああぁん!リズ、リズ、逢いたかった!!」
「えっと…びっくりするほど状況が飲み込めないけど……とにかく、ありがとうございます。無事にかえって参りました。…またお会いできて、光栄です。いや、ほんと…勝手にイギリスに帰っちゃってごめん…。もっと早くに帰ってくる予定でしたが、コ口ナには勝てませんでした…。これからは、ちゃんと『妻』の傍にいるので」
🍎「おめでとうやでぇ!!めでたいなぁ!!」
🍎「ちょっと奥さん泣かせたらあかんやろ!!!!????」
「えぇ…理不尽…」
🍎「その幻想をぶち壊す」
「そうだよ!先生が帰ってきたから、コ口ナなんてイチコロなっ!と!!」
「俺にそんなちからはないよ……」
「でもでも嬉しい!ほんと、こうしてできて嬉しい!!ありがとう、みなさん!とっても幸せよ!」
冬真「ぼく、結婚式初めて見たので感動しました!絵にしたいくらいです」
🍎「ええなぁ。せっかくやしみんなでこの結婚式の絵を描いたらええんちゃう?」
イヴァン「愛でたい時には楽しい曲を流さないとな(パイプオルガンの鍵に指を滑らせ)」
冬真「絵が描ける人多いですもんね!ぼく頑張ります!」
🍎「せやな!みんなでええもんつくろうな!!!!」
冬真「おー!」
手を高く上げる
そんな光景をみて、リズットは柔らかい笑みを浮かべた。
「あー…ははっ。…今が一番幸せだな、僕」
おめでとう、末永くお幸せに、なんて言葉もかけられた新郎と新婦は、疑いようがないくらい、幸せだっただろう。
この幸せが、いつまでも続きますようにと、誰もが祈った。
結婚式の後、全員はあの病院のホールで、立食パーティーに参加していた。
「はぁ~い皆お待たせ~!ローストビーフよぉ~♡」
フリルのエプロンを身につけた真於が、ローストビーフを手に、ホールにやってくる。その後に、全員分のシチューパイをワゴンに乗せて運んでいるリズットがやってきた。
「ごめんなさいねぇ新郎様?貴方のシチューパイは絶品って、らんちゃんから聞いてたから、つい…」
申し訳なさそうに真於が告げると、リズットは首を横にふった。
「何やら僕らの為にここまでやってくれたそうなので…その謝礼として、受け取ってください」
🍎「うーん仕事人の鏡」
そう言ってリズットと真於がテーブルの配膳をしていると、怤藍が希更と共にピアノの側に立つ。ピアノの前にはイヴァンが座り、怤藍の手には一冊の本が握られていた。
「皆~!食べながらで良いから、今からこっちにちゅーもーーく!」
怤藍の号令に、全員がピアノのほうに視線を向ける。
「今日は皆、リズットへのドッキリに手を貸してくれて、ありがとう!実は今回、あたしが前に書いた『最期の友人』って小説の、リメイク版をつくったの!友人代表の挨拶代わりに、それを今から希更ちゃんのお歌と、イヴァンさんのピアノに合わせて、朗読という形の御披露目をしちゃいます!拍手!!」
面々が拍手をたたえると、イヴァンのピアノの音に合わせて、怤藍と希更がお辞儀をした。
そして生まれ変わった物語は、歌と音色に合わせて、暖かく紡がれたのであった。
希更「(ピアノに合わせて歌い続ける)」
主人公は歌い、書き手は語り、助手はピアノを奏でた物語は、今まで貴方たちが見てきたどの小説よりも、あたたかいものだっただろう。
けれど一番最高だと思える物語の結末は、まだまだこれからのようで。
「はいはーい!皆~!ブーケトスの時間よ~~~!!」
パーティーも終わりに近づいた頃、真於が告げる。パピヨンがブーケを構え、面々がそれを受け止めようと整列する。
「はい!今から花嫁さんが、目をつむってブーケを投げるわよ!ブーケを受け取った人には、いつかとってもハッピーなことが起こるはずよ!それじゃあ、未婚の人!前のほうに集まって!」
「みんなも幸せになってもらわなきゃ困るから責任重大ね!!任せて!!」
「うまく投げれるかしら、!?変なところ投げちゃったらごめんなさいね、練習しとけばよかった!」
「大丈夫よ~、いざとなれば空を飛んでる鳥さんが捕まえてくれるだろうから~」
🍎「アヒルチャンのことあるし未婚でもええんやけどアヒルチャンにおこられそうやしな……(前に出る)」
イヴァン「こーいうのは若者の特権だよなぁ(一歩下がって傍観)」
「よし、あたしも参加しよ。先生、虫取網ある?」
「こらっ!そんなチートなことしちゃダメ!自分の手でつかみとらないと!」
一部の面々は「なんとしてもブーケを受けとるぞ」という決意に満ち溢れていた…。
「よ〜し!!投げるわよ!!みんな準備はいい!?」
「いいわよ~!」
🍎「ほ~い!」
「勿論いいよー!」
「えーーーい!!」
全員からの同意を得て、パピヨンは勢いよくブーケを投げた。
そのブーケを受け取ったのは………。
ぱさり、と音がした後、りんごの手元に色とりどりのブーケが落下した。
ブーケを受け取ったりんごをみて、他の面々は拍手を送った。
🍎「?????????????????」(起こっている状況を理解出来てない顔)
「わーー!おめでとうりんごさん!」
「おめでとうございます」
「わぁ~いいなぁ!!おめでと~!!」
「あらぁ~!おめでとう♡」
「おめでとう」
🍎「え、ええんか……主人公差し置いてとるとかワイ空気読めてへんとか無いやろな……(震え声)(動揺中)」
🍎「か、感想言わなあかんやろ!!??えーと、えとえとえーと…………採ったどーーーーーー!!!!!!!!」
イヴァン「おや、おめでとう」
希更「お!!おめでとー!!」
🍎「ぶっちゃけ中の人が取れると思ってなかったからロールに苦しんどるんや…察してくれ……」
「なかのひと…?知らないワードですね…。それはさておき、貴方も幸せになれということなのではないでしょうか?貴方も、というよりも『貴方たち』も、というか」
どうか貴方も…いいや、皆まとめて幸せに。
誰もがきっと、そう願った。
◆
幸せと隣り合わせに、苦しみはやって来る。
けれどその苦しみを越えた先に、本当の幸せがあって。
与えられるだけが幸せなのではなく、奪われて傷つけられて、けどそこで何か大切なものを知り、それを守るためなら一生懸命になれる。
これはあくまでも『僕』の個人的な見解なのですが、幸せとはつまり、そういうことなのではないでしょうか。
友人や恋人がいることが幸せなのではなく、友人や恋人と何でもない日常を共有出来ることが、幸せなのではないでしょうか。
金や才能があることよりも、人として大事なものを尊重したり、何でもないことに感謝出来るのが、幸せなのではないでしょうか。
…あぁ、すみません。せっかく『友人』が書いてくれた小説の舞台に呼ばれたというのに、こんな話をしてしまって。
皆さんは、この物語…『延命の物語と、花告げる寝台特急。』を観て、何を思われたでしょうか。
「楽しかった」と思って頂いた方もいらっしゃれば「つまらない駄作」と思われた方も、いらっしゃったかもしれません。けど、それでも構わないんです。
どんな展開、どんな結末だったとしても、僕らが出逢えたこと、僕らが生きているということには、変わりないのですから。
物語はここで終わりますが、僕らの本当の物語は、これからです。どうかどこかで見かけたら、温かく見守って下さると、大変嬉しいです。
最後になりましたが、この舞台の開演に携わって下さった花宮夫妻様。この小説を世に送り出すことを決意してくれた日嘆メイズ様…もとい、守崎怤藍様。さらに、この物語の世界で主人公に選ばれた鵠間希更様、ならびに搭乗人物の皆様がた。
この度は…『僕の夢』を叶えてくれて、ありがとうございました。
僕は今…自分は本当に幸せ者だなということを噛み締めて、これからも生きていこうと思います。
これにて、舞台挨拶のほうを終了いたします。それではまた、何処かで。
リズット・アルジャーノン。