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塗装かけ、浸水と、塩。

全体公開 3599文字
2020-04-30 12:16:43

田町めぐみ。
そんなつもりじゃない。って、こと。

もう何日かも何曜日かもわからなかった。
色んなことが洪水のようにあふれては消えてった。
記憶を思い出してると時間も何もかもぐちゃぐちゃになって、僕がどこにいるのかもわかんなくなって、探そうとしては探せなくて、ノートの書き込みも途中から見れなくなって。
僕がどこにいるのかも、僕がどうしているのかもわからなくなって。
寝ては起きてを繰り返した。たまに数日とんでった。たまに数分だけだった。
もう訳がわからない。なんもわかんなくなる。昔と今とがぐちゃぐちゃになって、話してたのが僕自身か他人かもわかんなくなって。
こんなことがずっと続くなら。と思ってしまう自分がいて。それが別の人なのかもしれないけどもうどうでもよかった。
ここにいる、ということすらあいまいで。
ぼくは、
今日、もう一回を試すことを決めた。
別に試すこと自体はそんなに難しくないって知ってる。持ってきて、切るだけなんだ。
もう準備はすぐできるし、ふくものも、そういうのも全部あって。
しかも、こういう時だけ変に動けるんだよね。
はは。
携帯に連絡はなかったし多分大丈夫だと思う。
えと。
おっきい傷は残ってて、でも、もう塞がってんだっけ。
一個あったらもう複数あってもあんまり変わんない。だから、大丈夫だろうと思った。
いつも通り、とはいかない、震える手。ふらつく頭。なんか、食べたのはいつなんだろ。ねたのはいつなんだろ。
なんもわかんない。
なんもわかんないなら、
……えへへ。
カッターを差し込む。
血が垂れる。
あー、赤い。落ち着く。落ち着いてて、心臓がバクバクして、めまいが、して。
僕がここにいて、ぼくはゆるされなくて、
よこでいいや、
横向きに、すっと、ひいて、
あ、なんか、意味ありそうな、模様?
「ふふ……
あ、いたい。考えてたこと、全部飛んでって、いたいのが、僕を、ここにいるって。
そして、そのまま、いなくなれるって。
それは、
それは、すてきなことだとおもうんだ。
はは。
……もう、わかんない、からいっそ……ぜんぶ………


ピンポーン、と、音がした。
「ぁ……
大急ぎで画面を見ると鈴城さんで。てから血が垂れて床に跡を残して。つんのめって。いたくて、倒れ込んで、息が苦しくて。立ち上がって、でももうこれ以上待たせるわけにもいかなくて、壁伝いにドアまでいって、あ、痕がのこって、隠さなきゃ、か、かくさなきゃ、かくさなきゃ、とりあえず服で拭いて、ど、どあを、あけなきゃ、って、ふわっと、して、ばたん、としてしまった。た、たって、ドアを開ける。
開けた、ところでぺたん、ってなってしまった。
開いて音がして光が差し込んで外から内側に足音がして。
……先輩がいる。
……せんぱい」
ドアの前で、驚いた顔して、止まってる。
「なっ」
崩れた僕を見てる。
……せん
駆けつけて急いでドアを閉めて僕が倒れ込もうとしたのを支えてくれて、それがあたかかくて。そのままもったところがちょうどいたくて。
「っ
僕が離そうとしたとき、先輩が持ったときに血が服に染みついて。もう逃げられなくて、隠せなくて、崩れ落ちて。いたくて、いたくて、頭の中がぐちゃぐちゃで。
なかないようにしてたのに涙は勝手に出てきて勝手に僕を流そうとしてきて、ないたらいけないのに心配させないようにしないといけないのに崩れて落ちて流れて死んで。
腕をまわされてそのまま座らせられた。
先輩が、僕の手を握ってそれを露わにする。
赤ペンのあとだ、赤い間違いだ、なおさないといけなかったのに。
……。」
みられてしまった。みられ、て、しまった。おわりだ。だめだ、
……ごめん……なさ………
うまく笑えているだろうか。
そう、口の端をあげるんだっけ、少しでも、まだ、少しでも、えと、少しでもとりかえさないと、お、おこらせた、から、
「何笑ってるんですか。」
せんぱいおこってる……あれ、わらっちゃ、だめだっけ。わかんない、えと、ごめんなさい、ごめんなさいせんぱい、ぼく、ぼく、えっと、あ、あ。ごめんなさい。ごめんなさい。
……ご、ごめ……………
シン、と静かになって。前をみた、見えない。せんぱい?こんどは、ためいきついて、ピントがあって。あれ、すごい、かなしそうな顔、してる。なんでだろう。また、ボロボロと、涙が落ちて、え、あ、きたなくなっちゃう、おこられちゃ、あ
……めぐみさん。」
……?たたかれない、なぐられ、ない。せんぱい、しゃがんでる?ぼくの、となり。なんでだろ、ぼくが、ぼくがわるいのに、?わ、わかんない、わかんない、よ。
こえがでなくて、出てくるのはなみだとへんなおとだけで。ぼ、ぼくの、そば。そばに、いっしょにすわって。すわって、しずかで。
「めぐみさん」
……。」
だせない、から、目を向け、て、わらえ、なく、て。
「手当てします。から、触りますよ?」
腕をとられそうになってびっくりして、で、でも手当てだからゆっくり、ちからをぬ、ぬいて。たちあがって、ティッシュ、水でぬらして、もってきて、ゆ、ゆっくりすわって。てをとって、うで、のばして。ぽんぽんして。反対の手で、目を擦っても、まだ涙は止まらなくて。
マキロンの中身がなくて、でも血もとまってて、赤がなんとなく濃くなってて、見つめて、とめどなくながれてるのは、かわらなくて。
大きめの絆創膏を合わせて、剥がして、ぺたんってやる大きな手が、怖くなくて。
あれは遠い昔で、もうここにはない。あれがなにかは、わからないけど。
……田町さん」
先輩の声だ。涙が止まらなくて、呼吸だけ、とりあえず抑えて、
……せん、ぱい。」
ごめんなさい、を言う前に、立ち上がって、手を差し出されて。
「とりあえず、寝ましょう。立てますか?」
てを、持たせてもらって、身体を持ち上げる。ふら、ふら、する。
支えてもらって、ゆっくり歩いて。床にクレヨンが転がって、ころん、ころんと音を立ててどっかいっちゃった。どこかにいっちゃった。
ぼくの、きおくと、友達と。
涙がずっと溢れてる。なんだかとまってる気がしてくる。きっとそんなことはない。先輩の視線がこっちに向いてて、見れなくて、ぽたぽたするのは僕も同じだ。
ふとんまでついて、先輩から離れて倒れて、倒れ込んだらもう指先も動かなくて。手が痛いはずなのに、それすらもわかんなくて、ただ、ひたすらに顔が見えない先輩をぼーっと見ていた。なんだか、すごく昔、記憶にあるお父さんに似ている気がして。
あたたかみ、と、そこにいる、おおきなひと。
……もう少し、動けますか。」
声がする、あ、ふとんのうえだから、かな。
ちょっと試して、ころ、って、動いて。
先輩は多分布団をつかんで引っ張って、僕の上にそれをもう一度かけたんだと思う。
あったかくなる。
ティッシュ、とって、渡そうとしてくれてるけど、指が動かなくて。涙もとまってないのに、呼吸は落ち着いてきてて、心臓だけ、バクバクいってる。
指先を握ったら握れた。
ティッシュ、とれるかな。
そっと、腕を動かしたら、意外と動いて、あ、とれた。ふるえて、とりあえずふけ、た、かな。まだまだ止まらないけど。
くしゃ、ってなる、ティッシュ。ごみばこ、を近くに持ってきてくれた。ぽい、ってする。
またなみだがでてくる。
ため息の音。と、隣で、ぼくが切った道具を見つけたりして、拭いたり、洗ったりして片付ける先輩。
どこか、悲しくて、どこか、嬉し?くて?ぐちゃぐちゃしてる僕は、ぬいぐるみをとって、ぎゅって、する。
赤のかわりに流れる、僕の透明。
「どうして」
先輩の声がする。しゃがんで、顔が見えた。
真剣で、怒ってるか、困ってるのか、わかんない。先輩の顔だ。
「どうして、こんなこと、するんですか。」
どうして。
怒ってるから、謝らなきゃなんだけど、僕はきっと直せる気がしなくて、ぽろぽろ、くちからも、ことばがでてきて。
わかんな……
あふれて。こえが、でなくて。
「わか………ない…………………なんで……ご、……ごめんな
止まらなくなって、声が、おかしくなって。ぐちゃぐちゃな僕を、見てて、また、力が入らなくなって、僕の声が遠くに聞こえて、呼吸がしにくい。
「ち、違います!責めてるんじゃなくて。えっと……すみません。」
先輩の声が変わって。
ちがう。このひとは違うんだと思った。
先輩は僕を怒りたいわけではなくて。
僕はこの人を悲しませたいわけではなくて。
「せんぱい、」
僕は誰かを悲しませたいんじゃなくて。
目を瞑って。
そこにいる。先輩がそこにいて。
ぼくは。
「けんきゅうじょ、ど、ですか。みんな、げんき、ですか。」
うまく、笑えた、かな。


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