ワンライお題「精霊のピアス」
@tomo27vt
ハイポーションを手渡すと、エアリスは笑顔で礼を言いながら受け取った。黄色い球体が音を立てて割れると同時に、癒しの力が発動して、緑色の光がエアリスを包み込む。
ため息をつきながら笑顔で伸びをするその姿に、彼女の活力が戻ったのは見て取れたが、クラウドの心は晴れない。
教会から伍番街スラムまでの道中、裏道を通っていた時から感じていたが、襲い来るモンスターは明らかにエアリスを狙っていた。
いくらスラム育ちとはいえ、ソルジャーとして戦闘に長けたクラウドよりも、エアリスはどうしても動きが鈍い。野生のモンスターはそういった違いに敏感だ。一般人として見れば随分と慣れた動きをしているが、それでも攻撃を集中的に受けがちであり、先程もあわや戦闘不能になりそうなほどになっていたのだ。
お荷物かと言えばそうではなく、むしろ彼女の補助で助かっている場面も多々あった。次にこなす予定の依頼も、魔法の扱いに長けた彼女の補助は欠かせないだろう。カバーしきれない自分の至らなさに苛立ちや焦りが募る気持ちのほうが大きく、依頼人への報告の道すがら、解決策をずっと思案していたほどだ。
「エアリス」
「なぁに?クラウド」
「これをつけてくれないか」
それをエアリスの目の前に差し出すと、彼女は首を傾げて、クラウドの手の中を覗き込む。
差し出した手の中にあるのは、先程ポーションの補充に立ち寄った道具屋で見つけた物だ。
青い宝石を金色の籠で包み込むという、洒落た装飾品は名を、“精霊のピアス”という。
「ピアス?」
「あんたに攻撃が集中しがちだ。できるだけ守るが、これをつけていれば保険にはなると思う」
効果は、戦闘不能になるほどのダメージを受けた際、宝石に込めた魔法で回復させる、とのことだ。
一度限りの効果だが、倒れ伏す彼女を見るよりはマシだろうという苦肉の策である。
そうして差し出したピアスだったが、エアリスは受け取らず、代わりに手を合わせた。
「ごめん、クラウド。わたし、ピアスの穴、あけてないの」
言われて、ハタ、と気づく。巻かれた髪で気づきにくいものの、彼女の耳にはピアスの穴がないことに。
自分が開けていたので考えていなかったが、ピアスは穴がなければつけられない。
初歩的なミスに二の句が告げられず黙り込むクラウドに、エアリスは軽く手を叩くと明るく声を上げた。
「わたし、一旦家、戻るね。安全ピン、あると思うから」
「お、おい、待て。そんな物で開けようとするな」
名案とばかりに家路につこうとするエアリスを、クラウドは止める。
安全ピンで穴を開ける手法は知っているし、相応に流通してはいるが、消毒等の処置が不十分になりがちで後々化膿してしまう恐れが強い。不衛生なスラムでは猶のこと、危険だろう。エアリスの家とその周辺は緑に溢れて清潔感に満ちた空間だが、そもそも素人が簡単に手を出していい方法ではない。
止めるクラウドに、エアリスは少しばかり眉間に皺を寄せて不満げに頬を膨らませる。
「クラウドだって、あけてるよ」
「俺は、専用の器具で開けた。消毒も必要だ。おざなりにして良いことじゃない」
「でも……」
「保険だって言っただろう。俺が守るから、必要にはさせない」
保険程度のことで、危ない橋を渡ることはない。
目を丸くしたエアリスは、ひとつ頷くと歩みを止める。クラウドを見やる顔がきょとんとしているように見えるのは少々気にかかるが、不満げでないというのはすなわち、制止を受け入れてくれたということだ。
安堵するクラウドを見つめるエアリスは、瞬きを繰り返していた。
「まあ、要は身に付ければ済む話だ。別に持っているだけでも問題はないと思うが……」
「……」
「エアリス?どうかしたか」
「、ううん、なんでもないよ。そだね、ペンダントみたいにしてみてもいけるかな」
ピアスを覗き込むエアリスは普段と変わらぬ調子に見える。少しばかり頬が赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか。ふと目に入った空が赤く染まり始めており、その影響かもしれないとまで考えて、随分とエアリスを連れ回していたことに気づく。早々に依頼を終わらせようと、クラウドは背中の大剣を背負い直した。
FF7R・8章 五番街のクラエア
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