けもみみほーずき様のはなし

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2015-01-18 19:21:21
Posted by @Greas087


「ほ、ほーずき様どうしたんですか、それ!」
……ただの嫌がらせですよ」
 同じテレビ局だったのでご挨拶に伺いました、といつものように楽屋に現れた鬼神を見てげんなりとするマキだったが、いつもとは違う鬼灯の姿にマキは一気に目を輝かせた。
 鬼灯の頭には髪と同じ漆黒の犬耳が、そして腰から尻に変わる辺りからその色の尻尾が生えていた。元の耳は犬耳があるお陰で消えている。
「とある白豚に変な薬を飲まされました。獣の尾と耳が生える阿呆みたいな薬です。EUのパーティ用の薬らしいので少し経てば戻るそうなんですが、これでは報マの収録すら出来ないので戻るまでこちらに……ってマキさん聞いてますか」
「しっぽ……! 耳……! おお……
 全く聞いてない。
 可愛い物を見るように自分から生えた耳と尾を嬉しそうに見ていたマキに鬼灯は息を吐く。そんな様子が暫く続いたので見兼ねた鬼灯はぼそりと言った。
「触りたいんですか」
「触りたいです!」
 それは聞こえているのか。
 鬼灯は撫でやすい様にマキの前に跪く。マキは軽く膝を床に着けると恐る恐る耳に触れた。
「ふおお凄くふさふさしてますね」
「私はごく普通に耳を触られている感覚でむずむずします」
「えへへそうなんですかあ」
 猫又とは違う毛並みにマキは犬耳をちょこちょこと指の腹で軽く撫でた。犬なんて滅多に触らないマキにとっては、至福な時間だ。
 そんなマキに撫でられながら、鬼灯は間近で彼女の笑顔を見て尾が揺れる速度が上がった。アイドルスマイルでも何でも無いマキの笑顔はなかなか見れない。
 尾を見て驚いたマキは調子に乗って頭を優しく撫でる。
「ほーずき様今嬉しいんですか!? どうなんですか!?」
「まあ世間で人気なアイドルに頭撫でられて嬉しくない男なんかいませんよね」
「ソ、ソーデスカ」
「でも悪く無いでしょう、『閻魔の犬』も」
「まだ根に持っているんですかそれ!」
 そもそもこんな狂犬願い下げだ。とは口が裂けても言えない。
「私は『金魚草大使』に飼われるのであれば大歓迎ですよ」
「遠慮しときますう……
 鬼灯はマキの手つきに気持ちよくなり、無意識にマキの背中に腕を回し体を密着させると頬をマキのそれにすりすりと軽く摩擦させる。
「うおっ、どーしました? まさか副作用とかいうやつですか?」
「いや、マキさんの撫で方が気持ちが良くて。上手ですね。その所為で犬独特の本能が反応したのでしょう。この薬少し犬ホルモンも入っているらしいです」
 犬ホルモンとはなんぞやとマキは顔をげんなりとさせるが、撫で方を評価され思わず得意気になる。
「小判の奴を撫でていたからかなあ、小判だったらたった2秒でゴロゴロ言わせられますよ!」
 なにそれ羨ましい。
 鬼灯はだんだんと耳がかゆくなり戻ってきているのだろうと察してマキから体を離そうとすればマキとの顔が近かくて思わず身を固くした。目の前に自分が選んだ金魚草大使がお互いの息がかかる程近くにいる。
 愛しい、自分だけのモノにしたい。
 そう思う程鬼灯に科学的に付いた尾はぶんぶんと速度を上げて振る。そして鼻にかかる甘い吐息と自分の髪を指で梳かす様に頭を撫でられていると言う事、いつもであれば絶対目が合えば逸らす大きな瞳も今は真っ直ぐ自分を見ている事に酷く興奮し鬼灯の息が上がるばかりだ。
 一方のマキも普段こんなに近くで鬼神の顔を見れば絶対に泣き叫ぶ所だっただろうが、微かに見える激しく振られる尾が見え自然と恐怖心はなかった。鋭く熱い目線も何故か逸らす事も出来ずただ頭を撫でる事しか出来ない。
 瞳に吸い込まれるかの如く互いは顔を近付けさせたが、マキは鬼灯の耳が変化していくのが見えた。
「あっ! ほーずき様の耳の位置が元に戻りましたよ! よかったですね!」
……そうですね」
 今までの空気が嘘の様にいつもの柔らかいものに戻り鬼灯は思わず舌打ちをした。良い機会だったのに。鬼灯はそう思いながら、マキに挨拶をするとさっさと楽屋を後にした。


 あのままほーずき様の耳が戻っていなかったら今頃どうなっていたんだろう。
 機嫌悪そうに帰って行った鬼灯の背中を見てマキはごくりと唾を飲む。
 犬がぶんぶんと尾を振り回すのは嬉しいという事なんだよね、だからほーずき様はあたしの事は嫌いじゃないって事だよね。
 でもなんだったんだろ、今すぐ食われてしまいそうだった。あの目付きは。
 マキは触れていた耳の感触を忘れない様に手を軽く握った。


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