ワンライお題「手揉み屋」
@tomo27vt
ミッドガルからの脱出は致し方なかったとは言え、予期も予定もしていなかったことだ。
野宿の準備すらゼロに等しく、荒野を歩き始めた当初は一行全員の心に不安が募ったものだが、ミッドガルの外にも人々の生活はある。程なく行商人を見つけることに成功し、近辺の地図の入手や当面の物資の補給が出来たのだった。
当面の目的地であるカームまではまだ距離があるが、各々が自分の得意分野を上手く発揮させることで、大きな問題も起きず、今もまた何度目かの野宿の準備をしている。
「ウォールマーケットの手揉み屋さん、行ったこと、ある?」
「手揉み屋……?ああ、マダム・マム、だっけ」
「そう!」
野草を両手に抱えたエアリスの言葉に、獣を捌いていたティファは一旦首を傾げるも、得心がいったように声を上げた。ウォールマーケットの権力者の一人である手揉み屋は、七番街にも名が知られており、セブンスヘブンの客からその腕を絶賛する声を聞いた覚えがある。
「行ったことないんだ。エアリスは……あるんだっけ」
「うん。コルネオの所行く時、お世話になったの。ドレス、仕立ててくれたんだよ」
「あの赤いドレス?エアリス、すごく綺麗だった」
近くで火を起こす準備をしていたクラウドは少しだけ眉間に皺を寄せた。薪を割っているバレットが興味ありげに二人の会話に聞き耳を立てているが、薪を催促することで何とか打ち切らせる。割られた薪を咥えるレッド13が特に興味を示していなさそうなのは救いだ。コルネオの花嫁選びにまつわる出来事はバレットやレッド13の耳に入れたくなかった。特にバレットが“クラウドの潜入方法”について知れば、揶揄われるのは必至だ。
「ありがと。でね、仕立ててもらう時、ちょっとだけ手揉み、してもらったんだ。
すっごく、気持ちよかったよ」
「へぇ……痛くなかった?」
「うん。クラウドもしてもらったよね」
「あ、ああ……まあ、よかったな」
思いがけず声をかけられ、動揺でファイアの火力を誤りそうになる。手揉み屋の店主の腕前は一目置かれるべきもので、むしろ“良過ぎた”位だ。情けない声まで上げてしまった記憶が蘇り、振り払うようにクラウドは首を振るう。この話題も早々に終わってほしい。
「そうなんだ……そんなに良いなら、一回くらい行けばよかったな」
「今度行こ。手だけ、だけど、身体、すっごく温まって、気持ちよかったんだ」
「エアリス、ちょっと冷え症だものね」
受け取った薪を放る手が一旦止まる。
ティファは何でもないことのように言ったが、エアリスが冷え症というのは本当だろうか。
ハイタッチをしたり手を握ったり、触れる機会は何度かあったが、温かい印象しかなかった。手袋越しだった所為で、正確に感じ取れなかったのだろうか。
「そんなに、かな」
「ちょっと指先が冷たいなって思ってたの。末端冷え症かな」
「確かに……冬場、よく凍えちゃう」
悩みを吐露するあたり、本当だったらしい。スラムの冬をまだ経験したことはないが、暖房設備が整っているとは思えない場所は、元々冷え症を抱えた身には厳しそうだ。
訝し気なレッド13の視線に気付き、止まっていた手を動かす。火種が上手く燃えており、火の加減は申し分ないと言えよう。
「マッサージは得意じゃないけど、軽いストレッチを一緒にするのはどう?
それだけでも結構変わるよ」
「いいの?」
野宿生活が続く中でもティファが鍛錬に勤しむ姿はよく目撃している。格闘家として自分のスキルを磨き続けるストイックな様は見習うべきものだと常々感じていた。ストレッチもそのメニューの中にあるのだろう。冷えは新陳代謝等の身体の中の不調が影響しているので、ストレッチをすることで活性化させれば確かに改善に向かう可能性は大いにある。
「勿論。一人だとし辛くてやってなかったストレッチ、あるんだ。一緒だと助かるよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて……よろしくお願いします」
「こちらこそ」
二人で笑い合う姿は仲睦まじく微笑ましい。同年代の同性同士だからだろうか、ティファとエアリスはクラウドが手を揉むような課題も互いの働きかけでもって解決してしまう。
今回の問題は改善に向かうだろうが、それでもひとつ、心に引っかかるものがあった。
この点を改善させるのは、戦闘関連の指揮を一手に引き受けるクラウドしかいない。
考え込むクラウドに、薪を一通り割り終えたバレットが声をかける。
「おーい、ボーっとしてどうした」
「いや……冷え症らしいな」
「ぁ?あー……まあ、冷えは良くねぇけど、女はよく悩まされてるみてぇだなぁ」
「冷気のマテリアは持たせないほうがいいんだろうか」
「あん?」
エアリスは魔法の力を引き出す力が誰よりも強い。
一行の中でもどうしても動きが遅めということもあり、攻撃手段として魔法のマテリアを持たせることがままあるが、“冷気”は控えたほうがいいだろうか。
悶々と悩み始めるクラウドに、呆れたような目を向けるバレットが口を開く前に、レッド13が声を上げた。
「問題ないだろう」
「ん?」
「冷気のマテリアそのものが氷のように冷たいわけではない。魔法の使用者に影響はないし、属性で組み合わせた時も我々が凍えてもいない。
だから、冷気のマテリアをエアリスが持つのは何の問題もないだろう」
「そうか、確かにそうだな」
納得したように頷くクラウドに、レッド13はふんと鼻を鳴らす。バレットは開きかけた口を閉じるも、代わりにげんなりと顔をゆがめて、ため息をつきながら頭を掻いた。
冷えは大敵
(FF7R・クラエア:ミッドガル脱出後)
@tomo27vt