ワンライお題「狼狽える」
@tomo27vt
**ゴンガガでのザックス両親イベントでのクラエア
砂漠を越えた先にあったのは、木々が鬱蒼と生い茂るジャングル地帯。
茹だるような暑さからは解放されたが、身体に纏わりつくようなジメジメとした暑さだ。
森の中でひっそりと佇む小さな村は魔晄を利用していないが、住宅の作りや小物による工夫で暑さを凌いでいるらしい。実際、宿屋の中は風通しがよく、心地よい涼しさで満たされていた。
ベッドに腰掛けながら、エアリスはひとつ、ため息をつく。
他のメンバーは買い出しや周囲の偵察に出ており、宿屋にいるのはエアリス一人だ。
一緒に行こうとしたのだが、顔色が悪いから休んでいるようにとクラウドに諭されてしまった。
(気、遣わせちゃった)
確かに疲労はあるが、それは他の面々も同じだろう。大丈夫だと押し切ろうとしたが、ティファにまで無理をするなと制されれば大人しくせざるを得ない。
エアリス自身は、自身に纏わりつく疲労感の原因を精神的なものと感じているので、後ろめたくもあった。ベッドに横にはならず、腰かけるまでにとどめているのもそれが故だ。
精神的。そう、あの名前を聞いたことによる、衝撃からのもの。
(ザックス)
その名前を音で聞いたのは、いつ以来だろうか。
“彼”のことを知るのはエアリスだけでなく、神羅のタークスの面々も知っている。
ただ、知っているからこそ、だろうか。いつしか誰もその名前を口にすることはなくなった。
ミッドガルから遠く、大陸まで越えた先でまた聞くことになるとは思ってもみなかった。
驚きで満ちた心は気づかぬ内に、口からその名前を零れ落ちさせる。
彼の両親だという人は彼の消息について問うてきたが、エアリスの方こそ知りたかった。
そう、“知りたかった”のだ。
(久しぶり……そう、久しぶり、だった)
遠い地で思わぬ縁にあったことよりも衝撃的なこと。
知りたかったことを思い出した。思い出す、という存在になったことこそ、衝撃だった。
ミッドガルにいた頃は間違いなく、心の深い場所に“彼”がいた。
諦めを感じながら、行方を追う行動を起こす勇気も持てぬまま、それでも“彼”はいたのだ。
当たり前のように感じていた存在を気付けば、“久しぶり”と思うまでになるとは。
忘れた、とはまた違う。 “彼”は大切な人に変わりはなく、“彼”の行方は知りたい。
「エアリス」
物思いに更けるエアリスに、声がかかる。
空を思わせる溌剌とした“彼”とは違う、落ち着きがあって少し控えめにも感じる声。
顔を上げれば、いつの間にか戻ってきていたクラウドが眉間に皺を寄せていた。
ともすれば不機嫌に見える顔だが、実際は心配から顔を歪ませてしまっているだけだ。
“彼”の名前を聞いた衝撃で呆けた姿を見せてしまってから、クラウドはずっと気遣わし気に見てくれている。少しでも心配を打ち消せればと、にっこりと笑顔で出迎えた。
「クラウド。おかえりなさい」
「休んでいないのか」
「座ってるだけでも、楽だよ」
「そうじゃなくて……」
「だいじょぶ、だから、ね」
念を押すように告げると、クラウドは押し黙る。ただ、眉間の皺が更に深くなり、こちらを見る目も細くなっているので、恐らく納得していないのだろう。疲れているのは本当なので、早めに休んで許してもらうことにする。
気遣われるのは申し訳なさが先立つが、言葉で上手くそれを言い表せないクラウドの不器用さは愛おしくて、自然と笑みが零れそうになる。
表情だけでなく、最近ではクラウド自身に触れるたびに、心の中があたたかくなるような感覚で満たされるのだ。出会った当初は、“彼”との共通項ばかりに目がいっていたはずなのに。
「クラウド。ありがと」
「……何もしていないが」
「そんなこと、ないよ」
ふん、とそっぽを向きながら、無理はするなよ、と声をかけてくれる。それにまた心が充足感であたたかくなって、同時にまとわりついていた筈の疲労感が少しだけ軽くなるのを感じた。
だいすきなひと。
(FF7:クラエア)
2020/6/6