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[大吾P♀]香水

全体公開 1 1766文字
2020-06-09 00:40:06

「なにかあったんかのぉ?」
香水をつけてきた大吾くんとPさんのお話です。

Posted by @toasdm

 色気づいてきた、という表現を、嫌味などの否定的な意味ではなく年相応に大人びてきた、という意味で、彼女は使おうかどうか迷ってやめた。石鹸か、干した洗濯物やお日様のような香りがするものだとばかり思っていた大吾から、ふわりと漂ってきたウッディシトラスの香りに、彼女は色気づいてきたな、と思ったのだ。
「よお、ボス! 今日もはなまる笑顔じゃのぉ!」
 パッと弾ける笑顔も、伸びしろを感じる背丈も、普段の大吾と何ら変わりがないというのに、その香水の漂う香り一つだけで、随分と大人びたような印象を受ける。不思議だな、と、しばらくぽかんと見惚れていたせいか、気がついた時には大吾は彼女の顔を下から覗き込んで心配そうな顔をしていた。
「わ」
「なにかあったんかのぉ?」
「な、なんでも、ないよ?」
「そうか……?」
 納得していない大吾の顔が近づいてきて、香りも一段階濃くなったように感じられて、正直に言うと少しどきりとした。急に大人にならないで、と焦る内心を内側に隠したまま、彼女はふっ、と短く息を吐いた。
「大吾くん、香水つけてるの?」
「おっ、気ぃついてくれたんか!」
 ちぃーと嬉しいのぉ、と歯を見せて笑うヘルシーな印象に、ほんの少しセクシーさを感じるような気がして落ち着かない。アイドルじゃけぇ、身だしなみにも気ぃ使わんとのぉ、とからから景気よく笑って、大吾は携帯用のアトマイザーをポケットから取り出した。
「先生に聞いてのぉ、ワシくらいの年頃でもつけてておかしくないのを選んでもらったんじゃ」
「え、九十九さんが……?」
 九十九さん、そういうの得意なんだ、と意外なところで意外な人の、意外なことを知った驚きで彼女は目を丸くする。先生は何でも知っとるけぇの、と信頼を喜ぶ大吾はニコニコと笑いながら、そのアトマイザーを彼女に手渡した。すん、と鼻を近づけてみると、フレッシュな香りと落ち着いた香りが同居していて、不思議な気がする。
「レモンの匂いと、ちぃっと落ち着いた森の匂いがするじゃろ?」
「ん……あ、ほんとだ、これレモンだ」
 ワシの地元はレモンが有名でのぉ、と嬉しそうにする大吾が、彼女の手からアトマイザーを回収する。最初に頭を出したレモンの香りが落ち着けば、ふわ、と残り香は、確かに森のような落ち着いた香りだった。大吾が急に大人びて見えた理由はこの残り香のせいか、と彼女は改めて大吾を見た。
「香水のつけ方も教わってのぉ、手首につけるよりはこの」
「?!」
 それは、突然の肌色だった
 大吾はおもむろにシャツの裾を掴んでぺらりと捲りあげ、きゅ、と引き締まったウエストラインをちょんちょんと指差して言う。
「ウエスト辺りにつけるといいらしくてのぉ」
「そ、そうなんだ」
 目に焼き付いたその、あまりにも健康的な光景に、胸が高鳴る理由がよくわからない。少なくともその仕草にときめいたのは、香水のせいではないような気がする。
「ボス?」
「わ」
 またぼんやりと考えていて、彼女は再度、大吾に顔を覗き込まれる。しかし、なんかあったんかのぅ、と尋ねてくる顔は、先程の心配そうな顔ではなく、なにか企んでいるような、にやにやとした顔に見える。たじろぐ彼女の前、大吾は姿勢を正してアトマイザーをポケットに戻した。
「もしもボスが」
 ウエストあたりの香水を漂わせるように、大吾はそこをひと撫でする。

「ワシにときめいてくれたんなら、香水もいいものかもしれんのぅ」

 あ、これ狙ってたんだ、とわかってしまえば、あとはすとんと納得がいく。アイドルだから身だしなみにも気を使わなければならない、というのも本心なら、年下の自分が彼女のことを、ちょっと惑わせてみたいと思うのもまた、十四歳の大吾の本心なのだろう。悪からず思ってくれていて、そういうことは大人になるまでお預けじゃ、と宣言までされている自分と大吾の間の未来への約束と、香水というアイテムに託した大吾の無理のない背伸びとが、彼女の胸をきゅっと上手に締め付ける。
「ときめきましたよ……
「そうか!」
 やっぱり香水っちゅーもんはいいもんじゃのぅ!と上機嫌の大吾はにししと笑い、その日から大吾の香りが少し変わった。

 変わったのは香りだけではないことを、知っているのは彼女だけだった。


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