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救救8.6 藪彦

全体公開 6625文字
2020-06-24 18:30:32
Posted by @alkalion18

Stage 1 これぞ(意思)高速化社会
 柯北四丁目


藪彦「千里の家に着くまでが第一ミッション……と思っていたんだが」

藪彦「マジで皆に異変が起きてんだな。ここまでだと隠すほうがおかしいか」

藪彦「一体どんな異変なんだよ、これ」

???「あっ」



史美「おはようございます、椎名さん」

藪彦「おう。えっと、夏休みの時に会った……

史美「はい、八津原です」

史美「あれからよく柯北に出向いて調査をしているんです。壱道さんにはちゃんと許可をもらいました」

藪彦「どこぞの不法建築人よりまともで何より。ところで、さっきから気になっているんだが」

史美「この足のことですよね? 朝起きたらこんな感じになってて……椎名さんも、なんというか」

史美「おいしそうですね!」

藪彦「なぜその感想になったのか」

史美「今日は珍しく勇ましい気分なんです。さあ、弱肉強食ですよ!」

藪彦「言っている意味がわからん、って勝負するのかよ!」


(撃破)


藪彦「ステイ」

史美「ぐるる……大変失礼しました……

藪彦「まさかその動物の性質に寄ってんのか? 確かに俺も、時間のわりに眠くなかったが」

史美「こういう現象は他でも起こっているらしいですよ」

史美「体の一部が動物になって体調がおかしい、変だ、ってツブヤイターの投稿が多くて」

藪彦「地味に厄介な異変だな……



Stage 2 星も空から落ちる
 平行世界、森


藪彦「……予想はしていたが、すっかり被写体にされたぞ」

藪彦「それはさておき。妖精の様子がおかしかったし、異変が起こっている可能性は高いな」

藪彦「問題は、原因がどこにいるかだが」

???「そこの怪しいやつー!」



ルナ「くたばったうえで果物を寄越せぇーッ!!」

藪彦「うおっ、何か突っ込んできた!?」

ルナ「私は流星の魔法使いとか名乗るのも面倒だ! こちとら腹が減ってしょうがないんだよ!」

ルナ「食べ物を……さすれば果物を……!」

藪彦「食欲が凄まじい奴が来たな。生憎、食べ物なんて持っていないんだが」

ルナ「…………お前って焼いたら美味いかな?」

藪彦「皆して鶏だからって、すぐ食う対象にするのやめろよ」


(撃破)


ルナ「すばしっこいなお前……さすがチキン? ダック?」

藪彦「本当は人間なんだけどな。お前も最高に当てにくかった」

ルナ「今日は散々だ……家は動物に荒らされるわ、おかげで飯は無いわ、腹が減るわで」

ルナ「おまけにお菓子を食べても、果物じゃないと駄目だって思っちゃって」

藪彦「最終的には鶏食おうとしてたけどな」

ルナ「チキンにかぶりつくの良いよな……そういえば、お前妖怪じゃないの? てっきりそうだとばかり」

藪彦「そういう異変なんだとさ。尻尾が生えているところを見ると、お前もだろ」

ルナ「尻尾? ……うきゃあッ! ホントだ!?」

藪彦(気が付いてなかったのか)



Stage 3 羽と情報のバーゲンセール
 平行世界、どこかの上空


藪彦「平行世界の奴らも同じ現象に遭ってんのか。妖精たちも、よく見たら耳生えてるし」

藪彦「二つの世界、どちらにも同じ現象を引き起こす異変、か」

藪彦「しょうもない異変だと思っていたが、これは……

???「おや?」



レオナ「もしやいつぞやの、空飛ぶ人間──かと思ったんですが」

レオナ「よく似た同族でしょうか?」

藪彦「あー、空飛ぶ人間で合ってます。今日だけ特別なんで、これ」

レオナ「やはりそうでしたか! この現象、人間も妖怪も等しく影響を受けていますね」

藪彦「うん……あんたも心なしか、前より羽の量が増えているような気が。もしかしてそれも?」

レオナ「ええ、私もしっかり異変に巻き込まれました。重たくて仕方がありませんよ……

レオナ「それもそのはず、世界中で体の一部が別の生命体になってしまう現象が起きているようなのです」

藪彦「やっぱりかー」

レオナ「ところで。これは耳寄りな情報なのですが、私はこの異変に関する情報を握っています」

レオナ「空飛ぶ人間の行くところ異変あり! ここは戦って情報を得るポイントですよ!」

藪彦「し、親切にどうも。面倒だが、情報が欲しいのは確かだし……

レオナ「そうと決まれば、かかってきなさい!」


(撃破)


藪彦「やられるのわかってましたよね?」

レオナ「そもそも前回も勝てていませんからね……では、私が持っている情報をお伝えしましょう」

藪彦「お願いします」

レオナ「この現象の兆候らしきものが目撃されていたのです。私の仲間も見た、と言うので確かでしょう」

レオナ「それは黒いもやです。これが目撃された後、変化が起こったそうな」

藪彦「黒いもや? どこから湧いたとか、そういう証言はないんですか」

レオナ「そこまではわかっていません。が、これに関してある協会が動きを見せています」

レオナ「かなり古い封術協会なんですよ。そこへ向かえば、おそらく手がかりがあるはずです!」

藪彦「これでかなり近付いたな……ありがとうございます」

レオナ「いえいえ♪ こちらも思う存分取材させていただいたのでー」

藪彦「随分うまい話だと思ったら、そういうことか」

レオナ「新聞、楽しみにしていてくださいね!」



Stage 4 いざ、異変の膝元へ
 封術協会


<道中>


???「ちょっとそこの人! 今建物に入るのはやめてください!」



蓮「これから大きな術を使うので、危険ですよ!」


(撃破)




藪彦「見覚えのある人だったな。大きな術を使うとか言っていたけど」

藪彦「あの新聞記者が言っていたことに間違いはなさそうだ」

蓮「ま、待ってくださいー!」

藪彦「追いかけてきたんですね。すいません、急に押しかけて」

蓮「謝るなら入らないでくださいよ……先ほども言いましたが、この先は危険です。早く戻って──」

???「そう。これから始まるのは、世界の狭間へ続く扉の開放なのである」



???「かの存在を再び眠りへと誘うのだ。君にその覚悟はあるか……的な」

藪彦「世界の狭間……そこに今回の異変の原因が?」

???「うん」

蓮「にいさんんんんんんん!!」

蓮「関係のない人の前でべらべらと機密事項を話すもんじゃありません! しかも何ですかその登場の仕方!」

霖「ノるよね」

藪彦「俺に同意を求めないでください」

蓮「僕の兄がすいません……

藪彦「それで、世界の狭間へ続く扉を開けるイコール、大きな術を使うことなんですね?」

霖「いえす。まあそれは前段階でしかないけど」

霖「そこにいるであろう原因を突き止めて、必要であれば封印の綻びを直すこと。それが僕らのミッションなんだ」

藪彦「原因の正体は、あらかた予想が付いているんですか」

霖「ご先祖様が封印した、かつて人々を脅かした存在だと踏んでいるよ。それが現れる時は黒いもやが出るんだって」

蓮「ああもう全部言っちゃった」

藪彦「……それって、同行することはできますか」

蓮「!? な、何を言っているんですか」

霖「定員は一人なんだよね。まして協会が危惧していて、今まで相手にしようとしなかった存在だ、危険だよ」

霖「でもそこまで真っ直ぐな目で見られたら。君にそれだけの力があるかどうか、見せてもらおうかな」


(撃破)


霖「うん、まあ良いんでない?」

藪彦「そんな緩くて良いんですか」

霖「僕、これでも協会では高いところにいるんだよね。つまり強いってこと」

霖「そんな僕に勝ったわけだし、文句なし。ぶっちゃけ行きたくなかったしさー」

藪彦「文句ありそうな人が後ろで震えてますけど」

蓮「全部終わったら覚悟してくださいよォ……

霖「今日の晩御飯がハンバーグじゃなくなるのだけはっ」

蓮「そうじゃありませんし! ハンバーグくらい作りますッ!!」

藪彦「……これから元凶のところに行く雰囲気じゃねぇなあ」

霖「そうそう。扉は一回閉めるけど、滞在限界の時間が来たらもう一度開けるからね。その時戻ってきて」

藪彦「ああ、了解です」

蓮「兄さんのペースに呑まれないところ、あなたも大概ですね……健闘を祈りますよ!」



Stage Final 汝は我を知る者なりや
 世界の狭間


藪彦「く、暗い……

藪彦(さっきまで目が痛いくらい鮮やかだったのにな。薄ら寒くなってきたぞ)

藪彦(ここに一人でいたら気が狂いそうだ)

「ひょおう……

藪彦「えっ?」

「ひょおおぉぉう」

藪彦「だ、誰かいるのか! あんたの声、なのかわからないけど、聞こえてるぞ!」

???「…………うん?」

???「まさか。まさか本当に、辿り着いた者がいると?」

藪彦「おう、辿り着いたぜ」

???「おぉ……おぉ!」



???「愛しき来訪者よ! 遥々遠いところ、よくここまで辿り着いたな!」

藪彦「か、歓迎されてるのか? 人々を脅かした存在っていうから、てっきり恐ろしいものだと……うわ!?」

???「ああ、愛しいなあ、可愛らしいなぁ! もっとよく顔を見せておくれ!」

藪彦「いやそれあんたが抱き締めているから見えにくいだけだろ! いでででで」

???「おおっと、すまなんだ。我以外の存在に会えたことが嬉しくてつい」

藪彦「今までにないパターンでどうしたらいいかわかんねぇ」

藪彦「ええっと。あんたが今回の異変を起こした元凶なんだよな」

???「異変とな? 確かにちょいと力は使ったが、そんなに大事(おおごと)になっているのか」

藪彦「ちょっと……? マジかよ、どっちの世界も影響受けてんだぞ……

???「我にそれだけの力があったとは! いやあ、これでは記憶通りの──ふむ」

???「なあ。お前は我を知っているか?」

藪彦「え、何だよ急に」

???「我には”討たれた”という記憶しか残っていない。我が何をしたのか、なぜ封印されるに至ったか」

???「わからん、わからんのだ。そして己が名前すら、思い出せない」

???「ならば外の生きものたちが教えてくれるのでは、と考えたわけよ。まったく、おかしな話だがなあ!」

藪彦「まさか、それで今回の異変を?」

???「ほとんど賭けだったがな。しかし、訪れてくれた者はここにいる」

藪彦「あんたが何者か…………悪い、今すぐには出てこないと思う」

???「良い良い。希望が残っているということはわかったのだから」

藪彦「……

???「では、今のお前にできることを教えてやろう。すなわち、我と遊ぶことだ!」

藪彦「は。唐突なのはいつも通りだよなぁ」

???「数百年と眠っていたから体は鈍っているが……せっかくこうして会えたのだ」

???「退屈しのぎに付き合っておくれ、我が同胞と化した人間よ!」

藪彦「……今の俺にできるのはそれくらいか。わかった、付き合う」

???「うはははは! 快諾感謝するぞ。これは敬意を示さねばなるまい」

???「いざ勝負!!」




(撃破)

EDへ




???「うむ! 良い戦いだったぞ人間!」

 藪彦は”それ”との勝負に勝った。しかし、どれだけ考えようとも、その存在についての知識が降ってくることはない。

藪彦「とりあえず力は収めてくれよ。それで、本当はあんたのこともわかればよかったんだが……
???「気にするな。先ほども言ったが、外ではお前のような存在が溢れているのだろう? 希望が消えたわけではない」

 また異変とやらを起こして、この場所に呼び寄せればいいのだからな! ”それ”はからからと笑うと、浮かんだまま胡坐をかいて藪彦を見上げた。

藪彦「……次こそは、あんたの手がかりを見つけてくる」
???「ほう。では次も、お前が止めに来てくれるのか」
藪彦「誰のせいで起きていた異変かわかったからな。二度もへまはしない、と思う」
???「そこは言い切れよ! さあ、ならば期待していようではないか。お前の名は?」
藪彦「藪彦だ。あ、でも数十年後とかは勘弁な」
???「我、忘れっぽいからなぁー。この名を覚えているうちにしよう。な、ヤブヒコ」

 お前も我を忘れるなよ。藪彦はその言葉に強く頷いた。大事だと思ったことを覚えるのは得意だ。
 その時。波が立つような大きくて低い音が轟いた。空間が揺らいでいるところを見ると、術が発動したのだろう。狭間に滞在する限界が来てしまったのだ。

藪彦「また、な」
???「おう、気をつけて帰れよー」

 ”それ”は外に出る気はないのか、こちらに緩く手を振るだけだった。

 封術協会に戻った藪彦は、同じような異変がまた起きるかもしれないと伝えた。そして「その時はまた行くから」と霖に念を押すと、霖は驚いて頷く。

霖「僕はいいけど。なんか楽しそうだねー?」

 異変は解決するものではあるが、今回は特殊だ。元凶ともう一度会う約束をするなんて、とんでもないことをしてしまった。藪彦は不安に駆られながら、けれど約束は果たさなければならないと思い直す。

藪彦「次こそ……な」



NORMAL ENDING また出会うその日まで
 ──再びその異変が来ることを信じて。って、それは主人公としてどうなの?




???「はは! 良い戦いであった!」
藪彦「つ、強いな……

 世界に恐れられた存在と言われるだけあって、その力は半端なものではなかった。もし本気を出したなら、声をあげることすらままならない──いやそれ以上だろう。

藪彦「昔の人が恐れた理由が、なんとなくわかった気がするぜ」
???「そうか! やはり我はそういった存在だったのだなぁ……む?」

 その時。空間が揺らいだかと思うと、いくつもの紙片が藪彦たちを取り巻いた。目を凝らすと、紙には文字らしきものが書いてある。まるで双見先生が使っている札のようだ、と考えを巡らせていると、不意に突き飛ばされた。バランスを崩して後退った藪彦は、勢いよく”それ”に向かっていく紙片を捉える。

???「……また眠れと言うのだな。せっかく目を覚ましたというのにー」
藪彦「あ、あんた、大丈夫か!?」
???「なんだ、心配してくれるのか? 優しい奴だのう」

 藪彦を突き飛ばしたのは、紛れもなく”それ”だった。最早体というものはない、大きな球体と化した”それ”は紙片に包まれて、少しずつ萎んでいく。

???「楽しかったよ、人間。我はまた数百年の眠りにつくのだろう」
藪彦「……でも、また眠ったら、今度こそ思い出せなくなるんじゃ」
???「その時はその時よ。我は忘れ去られる存在であった。それだけのこと」
藪彦「…………
???「なんだ、この我を楽しませたのだぞ? 誇りに思え、そして笑え。まあ、我はもうお前の顔が見えぬのだがな!」

 最後まで明るい奴だな。藪彦が”それ”だったものに投げかければ、笑い声が返ってくる。

???「さらばだ人間よ! あわよくば、我を記憶の片隅に置いたまま死んでくれよ! うはははは……!!」

 そうして残ったのは、静寂と暗闇だった。藪彦は少しの間、球体が浮かんでいた場所を眺めていたが、揺らめく空間に背を押されるようにして、扉へと歩き始めた。



BAD ENDING 世界は移ろいゆく
 ──ちょっと寂しいエンディングになってしまいました。


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