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[雨P♀]キスと狐

全体公開 1753文字
2020-07-01 13:58:03

「こんなでかい狐もいないだろうさ」
狐っぽいようなそうでもないような雨彦さんとPさんがじゃれじゃれしてるお話です。

Posted by @toasdm

 仕事で一度そういうモチーフを取り扱ったことはあるものの、彼女は雨彦のことを狐っぽいな、と思うことはそこまでなかった。
 言われてみれば確かに、すっと切れ長の目元や飄々としているところなんかは、万人がぱっと思いつく狐らしいイメージと重なる部分もあるような気がしたが、今のところ彼女だけが知っている雨彦の人間らしい部分を無視することは難しく、彼女はいつも、狐かなぁ?という結論に落ち着く。
……
 まじまじと、ソファで隣に腰掛ける雨彦の横顔を見て、それからテレビをちらりと見る。ニュース番組ではどこかの観光牧場で小狐の出産ラッシュだと報じていて、まだよちよち歩きのやんちゃな小狐たちがじゃれ合っていて、なんかいいなぁ、可愛いなぁ、の平和な空気をお茶の間に届けていた。
「なんだい?」
「へ……?!」
「俺の顔に何かついてるかい?」
 雨彦の横顔とテレビとを何往復かしたあたりで、横顔は正面顔になった。いえ、なんでもないですよ、と慌てて言ってみたが、雨彦はにんまりと、目を細めて口角を上げていた。
「え、ええと……
「狐っぽく見えるのかい?」
「えっ! あ、いえ、見えない、んです、けど」
「そうかい」
 苦笑しながら雨彦は、右手で狐の形を作りコンコン、と二度三度動かして彼女の鼻先にちょんと触れる。こういういたずらっぽいところは狐っぽいかもしれないですけど、と喉元まで出かかった言葉を上手に飲み込んで、彼女はくすくすと笑った。
「ふふふ、もう、雨彦さんってば」
「こんなでかい狐もいないだろうさ」
「きゃあっ」
 そのままソファで彼女に抱きついて、雨彦はすりすりと頬を擦り寄せる。くすぐったいですって、と笑う彼女と、たまにはいいだろう、とからかう雨彦、二人はソファの上でニュースの小狐よろしくじゃれ合いを始めた。
「っははは」
「もっ、ちょ、雨彦さんっ!」
「お前さん小さいなぁ」
「もぉぉぉ! 雨彦さんがおっきいんですって、な、ちょっ、こらっ」
 くすぐり、じゃれつき、頬を寄せて抱き寄せて、ニュースで見たじゃれ合いとはまた別次元の、百九十一センチのダイナミックないちゃいちゃに彼女はとうとう音を上げる。
「はぁ、はぁ……
「ふぅ……
 気がつけば彼女は雨彦に、ソファに押し倒される形で息を上げていた。
「お前さん」
「っ……
 大きな手が、彼女の頬を包む。触れたところからじわりと体温が上がる気がして、身動ぎできない体の熱の逃し方が、彼女にはわからなくなってしまう。
「お前さんとこうしてると」
 ふわ、と指先が頬にかかった毛先を払い除けて、するりと頬の輪郭をなぞっていく。嫌悪感ではないぞわぞわが背筋を駆け上がり、は、と吐き出した息は随分、熱いような気がした。
「俺は、複雑な気分になっちまうよ」
 じぃ、と射抜くような視線の圧に、思わずそむけた顔を自分の方へと向けさせるように、雨彦の指が彼女の顎を捉えてクイ、と正面に戻す。
「なあ」
 熱っぽい視線、熱っぽい言葉、こころなしか潤んでいる雨彦の瞳に映り込む自分の顔がやけにとろんととろけているように見えて、心臓はばくばくと、早鐘を打った。
「んっ……
 親指が唇を愛しげになぞり、なぞられたそこから力が一気に抜けていく。ぁ、と小さく息を漏らした彼女を見下ろして、雨彦は真剣な表情のまま、言葉を紡ぐ。

「キスしても、いいかい?」

 いつもそんなこと聞かないくせに、どうして今になってそんなことを、とそのなんともいえないいたたまれなさに自然と閉じた瞼の上に、ちゅ、と雨彦の唇が触れる。ん、ふ、と音と声との間のようなキスの吐息が次から次へと降ってきて、最後に唇に触れたのは、とびきり甘いキスだった。
「はぁ……
 愛情で満たされたため息と共にのしかかってきた雨彦の体重と体温とは、あのふわふわでもこもこの小狐とはきっと、別のものだろう。キスしちまったな、とわざといたずらっぽく言うところは確かに、人を化かしてからかう狐のようだと言えなくもなかっただろうが、それでもやはり、彼女にはどうしても、雨彦が狐のようだとは思えなかった。
 甘いキスを繰り返す二人の世界の片隅で、忘れ去られたテレビはずっと、ニュース番組をただ淡々と垂れ流していた。


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