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「乙女のキッスに関するあれそれ」(FF7無印:クラエア)

全体公開 FF7(クラエア) 1 2192文字
2020-07-04 23:21:58

ワンライお題「乙女のキッス」

Posted by @tomo27vt


それは、旅の最中の道具屋での補充を、クラウドとエアリスが担当していたある日のこと。
棚からあるアイテムを手に取ったエアリスが、それをまじまじと見ながらポツリと呟いた。

「“乙女のキッス”、ちょっと持ちにくいね」

“乙女のキッス”とは、敵の攻撃などによりカエルになってしまった際の回復アイテムである。
常備品の一つとしてある程度の数は持つようにしているのだが、確かに他の常備アイテムとは趣が異なる外見だ。
大方道具屋で購入できるような回復アイテムは瓶に詰められており、その他も“ポーション類”は小さな球体、“フェニックスの尾”は束になった尾羽根といった、比較的場所を取らないような形なのだが、“乙女のキッス”は違う。
金色の輝く髪飾りをつけた、女性の胸像を模っているのである。一応片手で持てる程度のサイズだが、如何せん、他のアイテムがそれほど凝った外装をしていないので、悪目立ちしていた。

「小さいが、胸像だからな」
「ね。お伽話、知ってるけど、ポーションみたいな形がよかったな」

元になったお伽話はクラウドも知っていた。確か、カエルに変えられた王子の呪いを王女がキスで解いてしまうという筋書きだったはずだ。ポピュラーな題材から着想を得るのは良いが、使い勝手を考えてほしいという意見には同意する。
籠に入れようとするも、小さい割にハッキリとしたデコボコが邪魔をして、籠に収まりきらない。唸るエアリスからクラウドはそっと受け取ると、少し方向を変えて収めた。少々コツがいるのだ。

「クラウド、すごい!」
「コツさえわかれば、出来るようになるさ」
「次、頑張る」
「期待しておこう」

次の機会はすぐ訪れる。近くの棚にある“うちでのこづち”だ。こちらも小人になる呪いをかけられた男の童話をモチーフにしており、小さな木槌の形をしていた。
これは上手く籠に収められることができ、エアリスは得意げに微笑んでくる。あまりにまっすぐなそれに、クラウドは噴き出しそうになるが堪えて頷く。それでも笑いそうになる気持ちを払う意味も込め、ひとつ咳払いをして、頭に浮かんだ話題をそのまま声に出した。

「“うちでのこづち”は……持ちづらいわけではないが、収納し辛くないか」
「デコボコしてるよね。でも、“乙女のキッス”の方が収納、しにくいかな。
道具袋から見えた時、変な感じするんだよね。ちょっと、怖い」
「まあ……目が合う感じは、するな」
「でしょ。ドキッてしちゃう」

必要な物は粗方揃ったため、会計をするためにレジ前の行列に並ぶ。それほど多いわけではないが、店員が一人で対応しているため、今少しかかりそうだ。
クラウドが抱える籠は満杯になっており、複数購入した“乙女のキッス”のひとつが丁度外側を向いていた。小型とは言え、この胸像は細部まできちんと作られている。道具袋を半端に開いた状態、すなわち暗がりの中でそれを見るとゾッとする気持ちはよくわかった。胸像は黒目の部分が彫られていないが、他が細かい部分まで作られているのに黒目がないこともまた、不気味さを際立たせてもいる。
考えれば理解できる忌避感だったが、裏を返せば、よく考えなければ気づかなかったことだ。
クラウド自身は、この道具が凝った形をしている認識はあってもそれ以上の感情はなかった。

「わからないでもないが……
それを使えばカエルから元に戻れることを思えば、それほど気にならないな」
「クラウド、カエルになるの嫌いだもんね」
「あんたも良い気分じゃないだろう」

自由の利かない小さな身体。発声方法も変わるのか、人間の言葉を話すこともままならなくなる。そもそも、滑り気を帯びた両生類の体そのものを好ましく思っていないのに、自分自身がそれに変化してしまうのだ。
カエル状態に百害あって一利なしという認識だが、苦笑気味に微笑むエアリスはそうではないらしい。

「カエルの時の見える景色、新鮮だから、そんなに、かな」
……ミニマムの時と似たような景色だろう」
「サイズは似てるね」

カエルの跳躍力がある分、ミニマムよりも視界は開けるかもしれない。ただ、どうしても不快感は拭えず、クラウドは自然と眉間の皺を濃くしてしまう。ふふ、と隣でエアリスが小さく笑う声が聞こえるが、どうしようもない。嫌いなものは嫌いなのだから。

「でも、言葉伝わらないから、それはイヤ」
「だろう」
「もどかしくなっちゃう。傍にいるのに、って」

こちらを見やる目が、どうにも遠くを見ているように感じて、クラウドは心がざわつく。
コスモキャニオンでも似たような感覚を覚えたが、エアリスは時折、そんな目をすることがある。すぐ目の前にいるはずなのに、手も届かないような遠くにいるような錯覚を覚えるような目を。
セトラとして他の人よりも多く様々なものを知覚できるからだろうか。
“傍にいるのに”はこちらの台詞だと言いたい気持ちにもなった。

「たいした問題じゃない」
「えっ」
「すぐ戻すから、大丈夫だ」
……そう、だね」

直後、店員が呼ぶ声が聞こえたので、エアリスがどんな表情をしていたのか定かではない。
ただ、声音は穏やかで少し笑みも含んでおり、先程の遠い感覚は薄れていた。


「乙女のキッスに関するあれそれ」(FF7無印:クラエア)
2020/7/4


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