@toasdm
どうしてわかるんですか、と昔聞いてきたのは誰だったか、と記憶を手繰り寄せようとして彼女は諦める。
「こら」
「ケチやね」
返事の雑さからわかるほど、今自分の膝の上に転がる荘一郎が眠たいことを、彼女はいつの頃からか、なんとなくわかるようになってしまっていた。
荘一郎の方から言われることもあったが、今日は彼女の方からの提案だった。少し休みますか?と隣で舟でも漕ぎそうな荘一郎を見るに見かねて、彼女はぽんぽん、と自分の膝を叩いた。
「せやね」
まだ寝るには早い時間、日頃の疲れを癒やすのにほんの一時間ばかりの昼寝をするのを、咎めるものは誰もいなかった。ほな失礼します、と座る位置をずらして彼女の太ももに頭を乗せると、荘一郎は、ふーーーー、と長めの息を吐いた。
「ふふふ……よし、よし……」
「子供ちゃいますよ」
頭を優しく撫でられて、ちゃんと大人です、と適当なことを言うあたり、本当に眠たかったのだろう。晩御飯までまだ時間はあるし、せっかくの二人きりのオフの時間を、こんな風に過ごすのは悪くない、と思える程度には、彼女は荘一郎のそばにいられることを喜んでいた。
「やわこい」
「んっ……そう、ですか」
すりすりと太ももに頬を押し付けすりつけ、荘一郎は彼女の柔らかさを堪能する。男と違って柔らかく、肌触りの良い彼女の感触が好きなのだ、と荘一郎は常日頃言っていた。それは、膝枕でも同じなのだろう。彼女のお腹に後頭部をくっつけて、時折すりすりと頬をすりよせてはやわいやわいと、感じたことをそのまま口にしながら、荘一郎はまどろみはじめる。
「んん……」
ごろん、と寝返りをうち、なにやら幸せそうな顔が彼女の方を向く。そっちで苦しくないんですか、と下りてきた柔らかな前髪を払い除けてやれば、もにゃ、だか、むにゃ、だかわからない音のような声をあげ、荘一郎は返事未満の返事をする。
「何分で起こします?」
「六十分コースでお願いします」
コース、とつくだけでそこはかとなくいかがわしい雰囲気になるのはなぜだろうか。はいはい、と荘一郎を撫でながら、彼女はぼんやりと、テレビを見ていた。
「……んっ!?」
ぷに、と突然、それは訪れた。
「なっ、ちょっと、荘一郎さんっ」
「ねぼけてるんですわ」
そんなはっきり寝ぼける人はいません、と彼女はつままれた下腹から荘一郎の悪戯おててを払いのける。やわくてええやないの、と不貞腐れてまたもにょもにゃふにゃと寝ぐずる荘一郎は、半分ほど眠っているようだ。
「もう……」
ほんとに疲れてるのかな、眠たそう、と規則正しい呼吸で動く荘一郎の広い肩をぽんぽんと叩いて、彼女は悪戯っ子をとっとと寝かしつけようとする。が。
「こら」
「ケチやね」
「誰のせいですか」
荘一郎の手は性懲りもなく、また彼女の柔らかな下腹をつまんだ。荘一郎のケーキで甘やかされたそこの柔らかさを堪能しながら、自給自足、と呟いて、荘一郎はそれがツボったのか急に笑い出す。
「んふっ……ふふ、自給自足くらいさせてくれてもええのんちゃう?」
「自己完結してください! あと甘やかさないで!」
「はぁ……ケチやね……」
言うてケーキ目の前に出したら秒でぺろりやないの、を最後に、荘一郎はとうとう眠気に屈した。穏やかに、すぅすぅと、自分の膝の上で寝息を立てる荘一郎の柔らかな髪を撫でながら、そんなに眠かったんだったらいたずらしてないでとっとと寝たらよかったんですよ、と苦笑して、ふと、思い出す。
「あ、そういえば」
どうしてわかるんですか、と昔聞いてきたのは、遠慮がちに膝枕を要求してきた荘一郎本人だった、と彼女は記憶を手繰り寄せて、くすりと笑う。好きだからですよ、と眠る荘一郎に囁いて、彼女はテレビのボリュームを少し絞った。