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【とうらぶ:SS】月が降りる晩に

全体公開 2843文字
2015-02-01 23:36:53




【月が降りる晩に】

時間の流れと言うものは不思議なもので、ただの憑神であった頃と今現在では大きな違いを感じざるを得ないのが現状だ。
一昔前であれば夜と言えば暗く、明かりのない世界であったというのに。
否、それもある意味違うといえよう。何せその暗い世界に至る前までは確かにその光景を見たのだから。

今日は三日月か」

ふとそんな事を呟きながら茶を啜る。白い寝巻き姿で窓辺に座り空を見上げながら、鶴丸国永はそんな事を呟いた。

「あの刀剣いや。あの人はいったいどこをほっつき歩いているのやら」

見上げた先にある三日月。それと同じ名を持つ刀剣。
自分を造り上げた刀工の師が作ったという天下に名を知られる美しい刀剣。
生まれこそ自身より後であったが、その刀剣が生まれながらにして成人姿の憑神であったことは鶴丸はよく覚えていた。
小さいはずの自分が年上で、大きいはずの相手が年下であるという感覚が当時は酷く落ち着かないものだった。ついでに言えば、相手は自分と比べてずっと大人らしかったし、自身の美しさにかこつけて傲慢であるというわけでもなかった。器が広く、何者をも包み込む。そんな人であった。

「そろそろ、ではあるんだろうけどなぁ」

瞼を閉じれば、主である男の打ちひしがれた様が浮かんでくる。
どれほど資材をつぎ込んでも姿を現さない、配分を変えても出てこない。ましてや、まだ彼が姿を現すという場所まで進んでいない。
それでも現在唯一の手段に一縷の望みを託して主は彼を探し続けている。
聞けば、主は彼を手にするために審神者になったという。

「本当に、罪作りな男だ」

再び茶を啜る。こんな時間に、と主に言われた事は記憶に新しい。

彼が来れば、この部屋も少しは寂しくなくなるかな」

初めてこの屋敷に足を踏み入れた時に与えられた一室。
主が言うには、「ここにはお前ともう一人が入るんだ」との事だった。
初めこそ誰が相部屋になるのだろうとそわそわしたものだが、今ではそれとなく察しが付くほどには待たされた。

「まったく。退屈で死んでしまいそうだ」

話し相手がいないのにただ過ぎていく夜ほど退屈なものはない。
この独り言だって誰にも聞かれていない。

「あぁ、退屈だ」

そう言って茶を啜ろうとすれば、既に湯飲みの中は空になっていた。
肩を落としてそれを机の上に置く。そしてようやく床に就いた。



あぁ、本当につまらない。
そう言葉にすることもなく鶴丸は眠りの底へと落ちていった。

*****

毎夜のごとく月を眺めながら茶を啜っている気がする。
今日もあの人は来なかった。

はぁ」

今日の月は半月だ。あの人と同じ名前になるまでまだまだかかる。

「本当に、いつになったら来てくれるのやら」

屋敷も大分賑わいを見せてきていて、他の部屋は殆ど埋まってきている。
一応全員相部屋なので、予定通りに入るなら部屋は埋まる。
しかし現状はこの通り未だ、一人部屋状態の者もいる。
布団も用意してあるし、湯飲みも用意してある。後は来るだけ。
そういって空いたままの部屋が後数部屋ある。

「はやくこないかね」

そういって茶を啜る。あぁ、また中身がなくなっている。

「今夜はもう一杯いや、辞めておこう」

明日の朝も早くから戦場に立たなければならない。
これ以上月見をしている暇はないのだ。

「寝よう」

湯飲みを置いて布団にもぐりこむ。

………?」

潜り込んで早数分。
鶴丸はどこか違和感を感じて起き上がった。

「なんだろうな、この感じは」

良くわからない感覚が胸中に広がる。気がつけば体は勝手に部屋を抜け出し、中庭へと歩を進めていた。

(俺はどこへ行きたいんだ?)

己の求めるまま歩き続ければ、その先には庭にある小さな池にたどり着いた。
そしてその近く、木の下に置かれている長いすの上に誰かが座っているのが見えた。

「ぁ」

その姿を視認したとき、鶴丸は驚かされた。
何せ、その男は酷く綺麗に笑みを浮かべたのだから。

「む、その気配は鶴丸か?」
「そうだが、アンタは

鶴丸は男に近づきながら問いかける。何故彼は自分の名を知っている?
だが男は答えずにマイペースに告げた。

「あぁやはりそうか。懐かしいにおいがすると思ったら

そう言ってにこにこと笑う男。そのすぐ目の前に来て、ようやく鶴丸は相手の姿に懐かしさを覚えた。
大昔、何処かで出会ったような

「うむ。この姿では初めて出会うし、お前は俺より先に生まれたのに、あの頃は幼かったからな。子供の記憶力とはそんなものだろう」
「っ!」

彼は幼い自分を知っている。そんな相手は多くは思い当たらない。

「まさか、アンタ三日月宗近、か?」

震える声でそう問いかければ男は静かに頷いた。

「如何にも。なんだ、覚えてるじゃないか?」
「っ!」

鶴丸は思わず男に、三日月に抱きついた。

「アンタ、いままで何処ほっつき歩いてたんだよ
「む?色々な場所を巡っていたが、何か問題でもあるのか?」
「大有りだ!主はずっとアンタの事探してたし、俺だって、俺だってなぁ」

自然と目頭が熱くなり涙が零れ落ちる。ずっと探していた存在がそこにある。
ただそれだけの事なのにどうしてこれほどまでに落ち着かないのだろう。
それが分からず、ただただ涙が流れてくる。
そんな鶴丸をあやすように三日月は頭を撫でた。

「すまないな。寂しい思いをさせていたようだな」
「あぁ本当にな!アンタがいなくて退屈で死にそうだった!」
「むぅ、それは困るな。来たばかりで死なれてはなぁ」
「と、とにかく!主のところに行こう!な!」
「あいわかっお、おい。そんなに引っ張るんじゃない」

これ以上泣いている顔を見られたくなくて鶴丸は三日月の袖を引っ張って歩き出した。

(あぁもう絶対今目が赤く腫れてるな。あの主の事だ。絶対鶴っぽくなったなぁとか言って)
「鶴丸」
「なんだよ」

足を止めずに鶴丸は反応する。

「お前は今、眼を赤く腫らしているな」
「アンタのせいでな!」
「うんうん。白に赤で鶴らしいなぁとおもってな」
「ハァ?!」

三日月の言葉に更に顔が赤くなるのを感じる。それで三日月の方を向けばまちがいなく弄られるので絶対に顔は向けない。

もう、ほんとうにアンタには驚かされるな」
「はっはっは。退屈しなくていいだろう?」
「ホント、そうだな」

やけになりながら先へと進める。ふと空へ視線を移せば。

(綺麗な半月だ。三日月じゃないって所がアレだが、これはこれでいいか)

どうせ三日月は後ろにいるのだから。
そう思いながら鶴丸は就寝中であろう主の下へ三日月を連れて行った。

その晩、本丸に主の絶叫が響いたとか響かなかったとか。

<END>


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