ワンライお題「食事する」
@tomo27vt
「このスープ、美味しいね」
「確かに、美味かったな」
「ね。お野菜のやさしい味、好きだな」
エアリスは微笑みながらスプーンで掬ったスープを啜ると、またにっこりと微笑む。同じスープをクラウド自身も食べたはずだが、エアリスの満足気な姿を見ていると別なものを食べたような気になる。嫌ではなく、むしろ温かい気持ちを覚えるものだが、どうにも不思議ではあった。
これは今日に限った話ではなく、野宿での保存食ばかりの食事でも、今日のような小さな村の宿の食事でも、エアリスは何かと満足気に微笑みながら食事を取っていた。そして、美味しいねと感想を言ったり、時には分かち合おうとしたりさえするのだ。
「もしかして、待ってる?」
「いや、そういうわけじゃない。今日は少し疲れたからな……」
「結構、しんどかったね」
食後のコーヒーを一口飲んで、ひとつ溜息をつく。いつもであれば、食事を早々に済ませて情報収集なり何なりで外に赴くが、体中に纏わりつく疲労に足止めされている。
山の麓に村がある情報だけは行商人から入手しており、野宿続きだったこともあって、麓が近いことがわかってから目的地として突き進んでいたのだが、思いのほか道のりは遠かった。何せ村に着いたのは日が暮れてからだ。常なら、ある程度の情報収集を先に済ませるが、今回ばかりは宿屋探しを何より優先した。一緒のパーティにいたユフィは夕食を早々に済ませて、先に部屋に戻っている。マテリアハンターを自負し、行く先々でマテリアを物色する彼女が寝室へ一直線に向かう辺り、疲労度が伺えようものだ。
「あんたは疲れていないか」
「ちょっと、疲れちゃった」
「悪かったな。もう少し、近いと思っていた」
「だいじょぶ。美味しいご飯、食べれたし」
パンをちぎりながら、エアリスは微笑む。胡桃のパンは焼き加減と風味が絶妙で、美味かった。ちぎったパンを頬張ったエアリスが、これも美味しいね、とまた笑う。
「胡桃の風味が良かった」
「だよね。保存食、美味しいけど、あったかいご飯は格別」
「あんたはいつも美味そうに食べる」
「だって、美味しいもの」
何でもないことのようにエアリスは笑って流すが、エアリスの食事をする姿が他人と比べても美味しそうに感じているのは、自分だけでないことをクラウドは知っている。
店を切り盛りするほどの腕前からよく食事を作る担当になるティファが、エアリスの姿でよりやる気になるのだと漏らしているのを聞いたことがあるし、出店で買い食いをすれば美味そうに食ってくれたからとオマケを貰っているのを何度か見たこともある。単純な愛想の問題ではなく、味わって食べているのを感じるからこそ受けられる恩恵だろう。
「あんたが食べると、俺が食べたものと別なものに見えるな」
「別?」
「随分なご馳走を食べているようだ」
「んー……よ~く噛んで、食べてみる、とか?」
「何だそれは」
「だってクラウド、食べるの早いもの」
そっと手を合わせるエアリスは今やっと夕食を終えた。対するクラウドは食後のコーヒーすら一口二口で飲み干せるほどだ。今日は特別ゆっくりと過ごしている方であり、いつもであれば、とっくに飲み干して席を外している。
「よく噛むと、食べ物の味が口の中、じわっと広がって、すっごく美味しくなるよ」
「だから、あんたが食べるのはゆっくりなのか」
「だって、勿体ないもの」
一行の中でもクラウドは食事のスピードが速いが、それは兵役についていた経験からだろう。隊の規律が何よりも重んじられ、食事を始めとする個人の自由は最小限に狭められていた世界だ。ソルジャーになったからと言ってそこが変わった記憶もない。組織の一員であることに変わりないのだから当然ともいえる。
兵役から離れて久しいはずだが、食事を早々に済ませることは利便性もあって特に意識もしていなかった。別段直す必要性も感じないのだが、食事の度に幸せそうに笑うエアリスを見ると、必要ないからと切り捨てる気にもなれない。
「検討しておく」
「オススメだよ」
食後の紅茶に添えられたクッキーを一口口に入れると、エアリスはまた満面の笑みを浮かべる。ただ食事を取るだけなのに幸せそうな顔ができるものだと感心しながら、彼女を見るクラウドの顔は知らず、穏やかに目を細められ、口元は緩やかな弧を描いてすらいた。
美味しそうに食べるキミ。
(FF7無印:クラエア)
2020/7/18