X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

[雨P♀]ミニドライブスルーデート

全体公開 1 1781文字
2020-07-20 12:01:29

「えっ、こんな夜中に?!」
「小腹が空いてな」
夜中にジャンクフードがっつりきめちゃう雨彦さんのお話です。

Posted by @toasdm

 小腹が空いた、というからてっきりカップスープかなんかでお茶を濁すのかと思っていた彼女は目を丸くした。すっかりメイクも落としてルームウェアに着替えてしまった彼女は、車のキーをチャラ、と鳴らして見せる雨彦に、いってらっしゃい、と手を振るつもり満々だったのだが、雨彦の方はどうやら、彼女を乗せる気満々のようだ。
「え、でも、化粧とか」
「そのままでも十分きれいだぜ?」
 そういう問題じゃないんですってば、と渋る彼女に、最低限の身支度を整えさせて、雨彦は彼女を助手席にご招待した。
「♪~……
 深夜放送のカーラジオから流れてくる少し流行りを過ぎた歌を、ハンドルを握った雨彦が鼻歌で口ずさむ。耳馴染みのよい音楽を、耳慣れた声が紡ぐゆったりとした午前二時、雨彦の運転する車は夜を駆けた。
「あれ、コンビニ――
「寄りたいのかい?」
 コンビニで何か軽くつまめるものでも買うんじゃなかったの、ときょとんとした彼女と、お前さんその格好で店入るの嫌だろ?と彼女を気遣う雨彦とを乗せた車は、コンビニの前をスルーして、その先にある角を曲がって大通りへと出る。ぽつぽつと点在する他のコンビニの前もいくつか通り過ぎ、雨彦がハンドルを切ったのは大手ファストフードチェーンの二十四時間営業店だった。
「は!?」
「ん?」
「えっ、こんな夜中に?!」
「小腹が空いてな」
 ウィンクをする雨彦は、ドライブスルーのレーンへと車をゆっくり進入させる。煌々と明かりの灯るメニュー看板のスピーカーから、深夜帯にしてはやけに元気のいい店員の、いらっしゃいませこんばんは、が聞こえてくる。雨彦は窓を開けた。
「倍ダブルチーズバーガーのセット、ポテトはLサイズにあげてくれ」
 うそでしょ、今何時だと想ってるの!?と若干引き気味の彼女の前で、窓の外へ向かって雨彦はさらに注文を続けた。
「ドリンクはコーラLサイズ、それと単品で倍テリヤキチキンバーガーに、ナゲット十ピースもつけてくれ、それと――
 まだいくの!?と白目をむいた彼女の方へ向き直り、雨彦は小声で尋ねる。
「お前さんは?」
「えっ」
 いや、こんな夜中に、と先ほどと同じことを繰り返した彼女にメニューが見えるように、雨彦は少し身体を後ろへ反らせる。メニューの液晶にでかでかと表示されているハンバーガー類は、彼女には(もちろん彼女以外の一般的な人間にとってもそうだとは思うが)あまりにも重たすぎる。オレンジジュースで、と小さくつぶやいた彼女に、それで足りるのかい?とからかうように笑って、雨彦は再び、窓の外へと向かった。

「それと、オレンジMサイズ、とびきりうまいのを頼むよ」

 窓の外、スピーカーから、一瞬笑ったような声がした。なんだか気が抜けてしまったのと、気遣われたような感覚、それと、まるで思春期の少年のように企み笑いをみせる雨彦とがおかしくて愛しくて、彼女は助手席でくすくすと声を殺して笑っていた。
『お待たせいたしました、セット倍ダブルチーズバーガーポテトL、コーラL、単品倍テリヤキチキンバーガーと十ピースナゲット、単品とびきりおいしいオレンジジュースです』
「ありがとよ」
……っふふふ」
 堪えきれない彼女の笑いと、受け渡し口から身を乗り出した店員の笑いとがリンクする。その間に挟まれた雨彦は、なぜかドヤ顔をしていた。
「はぁ……雨彦さん、そういうとこですよ」
「そうかい」
 くつくつと笑う雨彦に、彼女はふと思ったままを尋ねてみる。
「そういえば雨彦さん、どうしてデリバリーサービス使わなかったんですか?」
「ん?」
 信号待ちの間、雨彦はハンドルにトントンと、人差し指でリズムをとりながら前を見てぽつりとつぶやく。
……お前さんと、夜のドライブデートがしたかったのさ」
 なんてな、とすぐに誤魔化した雨彦のずるさは、そんなことを言われても許してしまいそうになってしまうからだと、彼女は十分理解している。それでも言わざるを得ない。
「雨彦さん、ずるいなぁ……
「はは、そうかい」
 車の中に立ち込めるジャンクフードの罪の香りを引き連れて、往復十五分のミニドライブデートは終点自宅に到着した。

 大きな口でぱくぱくと、おいしそうに食べる雨彦と一緒に飲んだオレンジジュースは、なぜかとびきりうまい気がした。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.