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「そんなに緊張しなくても」(FF7R:クラエア)

全体公開 FF7(クラエア) 2508文字
2020-07-25 23:46:14

ワンライお題「泥んこになる」

Posted by @tomo27vt

「さいあく~」

ため息交じりに不平を零しながら、エアリスは音を立ててスカートを叩いていた。クラウドも大剣を背負い直してから、服についてしまった泥を少しでも落とすために叩く。
伍番街スラムの裏道はゴミの廃棄場所として神羅から指定を受けており、人通りも少ないせいか、道の整備はロクにされていない。機械類の破片なども散乱しており、お世辞にも綺麗とは言い難い場所だ。生ゴミが見当たらないのは不幸中の幸いだが、壊れた兵器が徘徊していたりモンスターがそこかしこに潜んでいたりするので、良いとも言い切れない。
こうした荒れた場所でよく見かけるモンスターのひとつがウェアラットである。ネズミが変異して狂暴化した種で、群れを成すタイプのモンスターだが、大した強さではない。クラウドであれば一太刀で一掃できる程度だ。ただ、このモンスターが繰り出す技の一つに、“どろんこ”と称されるものがある。後ろ足で地面を蹴り上げることで土煙を巻き上げるという、目眩ましの攻撃だが、これが地味に痛い。攻撃の威力の問題ではなく、巻き上げられた土が身体を汚すのだ。裏道は水捌けが良くないせいか、ふりかかる土も水を含んだ泥になっており、服や身体に着いた汚れが余計に落ちにくくなってしまっている。

「クラウド、だいじょぶ?」
「怪我は負っていない。あんたこそ大丈夫か」
「わたしも、平気。そうじゃなくて、服。お天気良いから、すぐ乾くと思うけど……

見上げてもプレートに阻まれて空の雲行きを探ることは叶わないが、“スラムの太陽”に陰りは見えない。七番街スラムは乾燥気候だったが、土壌や肌に触れる空気から察するに、伍番街もそう変わらないだろう。図らずも、エアリス宅に今夜一晩泊めてもらう約束を交わしている。軽く洗うだけならば一晩あれば乾くはずだ、と結論を出したクラウドは伍番街スラムに服屋がなかったかを頭の中で思い起こした。母娘二人暮らしの家に、間に合わせ程度とは言え、成人男性も着られる服があると思えない。

「あ、クラウド。待って」
「どうした」
「泥。広がっちゃってる」

エアリスはそっと、クラウドの顔を指さす。先程かけられた泥は服だけでなく顔にも及んでいた認識はあった。考えに耽るうちに、無造作に拭おうとしていたらしい。先に服の泥を叩いていたグローブで拭えば当然泥は広がる。ただ、わざわざグローブを外すのも手間だった。面倒臭さで自然とクラウドの眉間に皺が寄る。

「ちょっと、動かないでね」
「お、おい」
「鏡、ないから拭いちゃうね」

いつの間にかハンカチを手にしていたエアリスが近寄ってくる。思わぬ至近距離に顔を後ろに仰け反りそうになるが、揶揄うでもなく何でもない様子でハンカチを持つ彼女の行動が純粋な厚意によることは明白だった。動揺を何とか抑え込むと、「悪い」とだけ伝える。

「っ」
「痛い?ごめんね」
「、平気だ。気にするな」

顔の汚れを拭うために近くなった距離は、吐息までは感じられずとも、纏う匂いが意識せずとも鼻腔に届く。エアリスからふわりと香る爽やかな香りは、教会やエアリス宅の花畑で感じた匂いに近い。近いだけで違うのは、彼女自身の匂いと混ざっているからだろう。花畑もどこか安堵感を覚えたが、この匂いの方が心地好くて好ましいような気がする。
とりとめもない考えが自分でもよくわからない方向に進んでいることに気恥ずかしさを覚えて、クラウドは息を詰めた。痛みによるものと勘違いされてしまうが、顔を逸らせない以上、対処法が他に思いつかない。

「できたよ」
「すまない、手間をかけた」
「いいえ、どういたしまして」

そっと距離が離れる。詰めた息を解いて、微笑むエアリスを見ると、右の頬に泥が滲んでいた。他人に気を配るあまりに自分が疎かになるのは、お人好しの人間にしばしば見られる傾向だが、彼女もそれに当てはまるようだ。

「俺のことばかりじゃなく、自分のことを気にした方がいい」
「え?」
「あんたも顔に泥がついているぞ」
「あちゃ~……避けれたと思ったんだけどなぁ」

ハンカチを顔に添えながらエアリスが「ここ?」と問いかけてくるも、微妙に位置がずれている。口頭で伝えるか一瞬迷うが、上手く伝えられずに顔の泥が広がってしまう方が良くないように思う。手を差し出すと、エアリスは眉根を寄せて首を傾げた。

「俺が拭くから貸してくれ」
「え、でも……
「さっきの礼だ」

成り行きとは言え、何かと助けられている身だ。返せるものは少しでも返しておきたい。
エアリスはクラウドとハンカチを目線だけ一巡させると、「よろしくお願いします」とにっこり笑ってハンカチを手渡した。

「痛かったら、言ってくれ」
「は~い」

上向きに上がった顔は、目が閉じられている。無防備な様はどうにも落ち着かない。
薄く桃色に染まる白い頬に、黒い泥が小さく飛び散っている。左手で顔の位置を固定させようか迷うが、泥はそれほど濃くはないのでそこまでする必要はないだろう。
恐る恐るハンカチで拭うと、布越しに感じる柔らかな頬にぎょっとした。想像以上に、柔らかい。柔らかすぎて、力を込めればひしゃげてしまわないか心配になるほどだ。
スラム育ちゆえか言動に逞しさを感じることが多いエアリスだが、特に鍛えていないほっそりとした体躯にクラウドは内心危なっかしさを覚えていた。ロッドを振るう腕は慣れを感じるが、苛烈な攻撃を受けている時は折れてしまわないか心配になることもある。
人間の身体はそうそう簡単に壊れないと知っている。同様に、壊れる時は呆気ないほどあっさりと壊れてしまうことも。慎重にならねばならないと、クラウドは自然と身を正した。

「クラウド?」
「いや、なんでも、ない。痛くはないか」
「だいじょぶ。ありがと、クラウド」

自分から言い出したこととはいえ、難易度の高いミッションを引き受けてしまった。
クラウドの緊張を知ってか知らずか、エアリスは目を閉じたまま、柔らかに微笑んでいた。


「そんなに緊張しなくても」
(FF7R:クラエア)
2020/7/25


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