@chronogd960
海を行く。
未知の海を征く。
兼ねてからの憧れだった、探求。
未知の探索、冒険とは、これほどまでに心躍る。
「こういう"ステージ"、間違いなくあったんだよなぁ」
切り拓くガレオン船の甲板で、潮風と共に"海賊"は独り言ちた。
今となっては開拓の"段階"は「宇宙」へと進んだ今でも。
未知としての広大な海を切り拓いた冒険は、自らが世界に及ぶずっと前。
その時から、常にあった「世界の探求」という意志。
――今は、未知の世界のそれを自らが担っている。
そのことを思い、彼女の顔は少し綻んだ。
*
「っほーーーー……!!!!」
埠頭から、大海原――水平線まで見えるそれを眺め感嘆を漏らす。
興味深く輝いた目を隠しもせず、桜色の髪を揺らし上機嫌にうずうずとしている。
す、と「印象づけ」の為につけた顔の傷に指をなぞらせた。
これで少しは「海の女」らしい顔になっただろうか。そのような気持ちをわずかに持ちながら。
彼女の名は、この地においてはアルティノーツと呼ばれる冒険者にして船乗り。
『αテスター』と呼ばれる、この世界に知識を伝える為に招集された――。
「……先遣隊、ってことだから、いやぁやっぱりワクワクするなぁ……!」
独り言としてはやや大きめ、当人の高揚を示すかのような大声。
この見える限りの海原に、これから足跡を付けていくことができる。
それでもおそらく環境は日に日に変わるだろう、新しく現れるダンジョンもいずれあるに違いない。
それでも尚、この地を切り拓くことに意味はあるのか、否。
――作るのだ。
「足跡を追え、無きところには刻みつけろ、そして――」
その足跡は、きっと続くものを作る。
自分がそうだったように、誰かの後だとしても構わない、と星を目指したように。
「なんてなと」
理想は高く掲げたまま、下ろすよりはそのままに。
ただし、それより先にやることがある、と彼女は一度海より踵を返す。
「まずは……何からかなぁ」
まず天文学、これは元よりの専門であり――。
基礎というよりかなりの方向に繋がることもあり最優先。ただ。
「星、どんだけ違うものになってるかどうかかな」
恐らく「似たもの」はあれど「同じもの」にはならないだろう。
天体の観測という概念からそれに付随する計算、教えることも「こちらで構築し直さねばならない」ことも数多ある。
それでも、彼女のその言葉は、不安ではなく。
「新たなる学び」の期待に満ちた、好奇のそれであることに違いはなかった。
*
「――面舵いっぱい! いや聞いてないなぁこんな"デカブツ"いること!」
時に、海原に根ざす「海獣」――或いは「怪獣」を相手取り。
「……そっか、時間軸の流れが"変わってくる"なら、こっちの主観より環境の変化は速いハズだよね。
――つまり、あれは新しい島だ! いやぁ目にできるとは思ってなかった!!」
新たな環境の変化を具に確認し、その度に「海図」を更新し。
「長く旅を続けるなら、必要なことはまあ多い、その内から幾つか、アタシが知りうる限りを教えよう。
行くべき途を見失わないための星読み、数多の困難な環境に打ち勝つ為の知恵と技術、それと。
――当然ながら、身体を癒やす薬効の学び、と。教えることは多いけどひとつひとつ行こうね」
根付いた人々に、世界に、その知識を伝え、活用されるようにより多くに拡げ。
「お、おー……!! 威勢の良いのも出てきたなぁ! やりあうってんなら付き合おう!
なあに、沈みまでさせやしないけど覚悟は決めろよ、そぉらよぉ!!」
対抗心燃やすものに、時に「障害」として立ち塞がり。
「"ストレージ"に限界もあるし、海運方面も開いといて損は無いかなぁ。
とは言え伝えて管理するには限界あるし――。
……アタシやるか!!」
時に、世界を回す為の交易の一つを請け負い。
海に根ざした活動を行い、数多の活躍を為した彼女は大きく評価を受け。
海に生き、その恩恵と共に生きながらにして自由を帆に掲げ行くその姿を指して。
彼女は、いつしか"海賊"と呼ばれるようになった。
ジャムプレイス歴にして900年から999年、各地で姿を見せた『アルティノーツ』の伝承は。
成立からの時間としては少ないものであれど、鮮烈な影響を残していき。
――そして、忽然と姿を消したという。
*
埠頭についた船の上、時刻は真夜中、雲ひとつない夜空には星々が瞬く。
船員も降り、船長であるアルティノーツを残し、船の上にも誰もいない。
海運の為の荷物の積み込みは終わり、あとは一種の確認作業を残すのみ。
ただし、今回の量は流石に多くなるとくれば、しばらく船は出せないだろう。
碇を下ろしたその船の上で、ゆったりと星を眺めながらぼんやりとしている。
「……そろそろ公開式典だっけな」
テスト各種のデータフィードバックが完了したと聞き、恐らく大きくではなくとも。
安定の為の処置に相応の変化はあるだろう。
ログインしてくる人数もαテスト、βテストを越えて恐らく膨大になる。
一種の巨大な変化、心待ちでもあり、一抹の不安を抱えなくもない程度。
「んー、でも流石にこの名の通り方だとなー」
単純な知名度の多寡、であるなら他のαテスターにも存在しないわけではない。
しかし、一種「ロールプレイ」として八面六臂の活躍、という形の評判になった以上は。
そこから『海賊としてハズレた』行動もするのも、少し躊躇うところはある。
「ある意味、『その為に』ってのも行くっての微妙に格好は付かないよな、立場的に」
しかしイベントとしては相応に巨大であり、わざわざ配信などを通して見るくらいなら。
内部にログインしてる以上はその現場に行きたい心持ちもあり。
"アルティノーツ"というよりは、彼女のプレイヤーとしての立場として、微妙に座りが悪い話ではあった。
あれやこれやと思索をしながら独り言に耽り、星をぼんやりとリラックスに眺めつつ。
ふと、彼女の脳裏に思い出すことと閃きひとつ。
……そういえば、一応「もうひとつ」個人的に機材は用意していたこと。
「あ、そっか」
今の「姿」で困るなら、違う格好で入ってみるのもまた一興。
閃きが速いかコンソールを表示、手早い操作で行われるログアウト。
次の瞬間、潮騒の音を背に、アルティノーツは船上からふいと姿を消していた。
*
「……よ、っし!」
準備完了、ダイブの為のゴーグルをつけるのに髪を掻き上げようとして――。
それほど長くなかったので、すかっと手は空を切る。
「あり? あ、あちゃー」
つい取った動作に頭を掻く、そうだ、今の「私」はあちらほど髪は長くなかったと思い直す。
「……さてっ」
ともかくと気を取り直し、完成した「アバター」を目の前にふんと姿勢を直す。
……ちょっとアルティノーツの面影があるのはそれはそれ。自分をある程度は元にしているからしょうがない。
……作りやすかったし、うん。
性能は打って変わって支えるタイプの支援型。自分一人では戦うには少し物足りない。
でも、もともと気分を変える為だったからこれくらいの違いが丁度良い。
「それじゃ、行こうかな!」
時刻は公開式典直前、ログイン許可直前。
この帯域に耐えうる想定だって言うんだから相当なものだけど、今回は「関係者」の顔はしない方で。
アルティノーツの時とは違う個人宅、デバイスも違うところからのログイン。
『アポロニア・ボトルシップ』として。
彼女は、ジャム・プレイスという世界に、改めてまた飛び込んだ。
――冒険のはじまりだ。