@toasdm
「あんた、あん時やっぱ嘘ついてたんだな」
「……ちょ、ちょっと昔のことすぎてわかんないなぁ」
「コラ」
「あぅ」
古ぼけた封筒を手に、冬馬は彼女の頭にコツンと軽く拳を当てる。だってぇ、と上目遣いの彼女に目線を合わせて、ニヤリと笑いながら冬馬は言った。
「証拠はあがってんだぜ」
「うぅ……今と昔とじゃ、状況が違うっていうか」
「……ん」
ぎゅ、とそのまま彼女を抱きしめて、彼女の髪の香りを吸い込む。嗅ぎ慣れた匂いは冬馬に、安らぎと高揚の相反する感覚をもたらしてくれる。
「ありがとな。取っといてくれて」
「私が、勝手にしたこと、だし……」
「っはは、素直じゃねーの、十年前からぜんっぜん変わんねーのな」
「わ、っも、冬馬っ」
わしわしと彼女の頭を撫で、冬馬は彼女の隣に腰を下ろす。懐かしいな、と目を細めた冬馬の人差し指が、封筒の縁をゆっくりとなぞった。
「ちゃんと、愛だったんだよな。俺のも、あんたのも」
「ん……」
「じゃなきゃここにこれはねーだろ」
「ふふ……うん、そうだね」
十年前と同じように、冬馬は彼女に封筒を手渡した。
「あんたが好きだ」
「……それは、愛じゃなくて信頼だよ」
それに乗っかる形で、彼女も十年前と同じように受け取った。冬馬は気恥ずかしそうに笑う。
「年上のあんたがそう言うならそうなのかもな、ってあそこで俺引いたんだけどさ」
「私は冬馬をトップアイドルにするまでそうやって誤魔化すつもりでいたよ」
「ま、そうだろうとは思ったけどな」
懐かしさとばつの悪さに複雑な顔をする冬馬は、彼女をそっと抱き寄せる。すり、と頬をすりよせれば、頭を預けられた肩に、慣れ親しんだ温もりと重さが心地良い。
「でも、冬馬はどうして諦めなかったの?」
「……」
十年前、冬馬は彼女に告白をして振られた。そこで終わることもできたはずなのに、冬馬はそれをしなかった。
「冬馬?」
「……あ、愛してるから、って、言えば、いいのかよ」
「っ……」
「っつーか、そんな簡単に諦められるような気持ちだったらわざわざ手紙にまでしたりしねーっつーか……あんだろ、そういうやつ」
「う、ん……っ」
照れ屋なところ、十年前と変わらないね、と言おうと思った唇は、冬馬の唇で塞がれる。口は二種類の愛を伝える。一つは言葉、一つはキス。
「じゃ、これはこっちに入れとくからな」
「あ……う、うん……」
「他は?」
「他は、大丈夫なはず」
「そっか……」
小さな山を築いている段ボールの数は、女性の一人暮らしとしてはそこそこの量があるようだ。大半の段ボールには「仕事用・書斎」と書かれていて、彼女の性格が伺える。
「俺がこなかったら一人で片付けるつもりだったのかよ」
「あははは……うん、そのつもりだった」
「徹夜じゃねーか」
十年前のきっかけの手紙を「大事なもの・寝室」の段ボールに大事にしまい込んで封をして、冬馬はそれを部屋の隅にまとめた。
「明日、十一時だったよな」
「うん、そう」
「うっし、じゃあ飯でも食いにいくか」
使うもの以外をきれいに片づけた雑然とした部屋を後にして、二人は外食へと出かける。
明日、二人は同棲を始める。