@takonsm
ある日の出来事。
イリーガル・レイドに指定される前の、それもアバターにとって過剰な態度を取ることのなかったかつての姿。誰もが認める組織であった頃。
その構成員であるアイルは迷わずの森で仲間の風(ぷう)の指導を受けていた。白髪のイケてる30代を名乗るその男は単純な斬撃を極めている。
「そこまで。……陽が暮れる。そろそろ帰るとしよう」
「……待って。まだ、出来る」
鍵状の剣を振るう少女は更なる指導を待ち焦がれていた。
雑多な日常にロクな関心を示さない少女は、強さを得るその瞬間だけは恋を覚えた少女のようにそれを求めている。
「……むう。アイル。お前が強さを求めるのは確か自分の望みを叶える為、であったな」
「うん」
「お前が何かを望むことは構わん。だが、日常を疎かにするのは愚の骨頂よ。日常を知らねばお前は戦闘狂に成り下がる」
困惑した様子だが、続けて「日常を知るべきだ」と彼女を諭した。
「意味無いから要らないよ。そういうの。それを言うなら私は皆に貢献してるけど」
「確かに毎日食事を作り、掃除、洗濯……数々の家事には団員一同助かっているが……。そういう事ではない」
「ならどういうこと?」
「まあ、待て。つまり日常を知る為にはレーベルの街の探索を」
「どういうこと?」
「さっぱり分からん顔するのか貴様は。……とにかく今日は帰るぞ。儂は今日何も教えん……」
男は頭を抑えた。薄々感じている違和感を口にするべきかも悩んでいた。
少女を手招きし、共に帰路を歩む。
「(一見アイルは大人しいが、それは戦闘を愛する現れか。あるのは戦闘と仲間の統率のみ)」
……続いて思考を進める。
「(……本当に必要なのは剣術ではなく、一人の少女としての生き方であろうよ。さて、どうするべきか……)」
……続いて思考を、進めよう、としたが。
「アイル!!」
隣にいるはずの少女が居ない。何をしているか直ぐに理解した。直ぐに剣術鍛錬を始めたのだった。
「……油断してしまったな。儂が思考に溺れるとは。……またもあの馬鹿から目を離してしまったばかりに。8度目だ」
吐き捨てるように呟いた。
……続けて11月下旬。
いつぞやと同じシチュエーションが整った。というのも、前回と同じく風(ぷう)の指導の下剣術訓練を受けている。
迷わずの森で鍵状の剣を使い魔獣を倒す姿はどこか歴戦を感じさせる。
「……うむ。そこまで。陽が暮れる」
男はそう伝えるが、あの女が素直に帰ってくれるとは思ってはいなかった。何故なら帰らないアイルは覚えてる限り12度目だ。
「……そろそろ、帰らなきゃね」
「ん。そうだな。なんだ、今日は素直ではないか」
彼女に視線を下す。表情が綻んだと同時に、疑念が生じた。
「いいのか? 指導は――」
「……戦うのも大事だけど、やりすぎるとちょっと、ね。料理も作らないと」
「他の者が作るのでは?」
「……それもいいんだけど、その時はその時」
「むう……」
男は困惑した表情を見せた。心変わりの理由はなんだったのか。思い当たる節はない。
「……アイル。お前は」
「ん? 明日はあの騒がしい人から魔法学んで、その次は……」
「変わってなかったな……」
男はがっくりとした表情で2人揃って帰路を辿った。