ワンライお題「ゴールドソーサー」
@tomo27vt
(目が痛いくらいだな)
見慣れない光の洪水を浴び過ぎたらしい。少し頭痛を感じて、クラウドは知らず目を細める。
ゴールドソーサーという名前は聞いた覚えがあるが、足を踏み入れたのは初めてだった。目も眩むような煌びやかな装飾で包まれたこの場所は、派手な外観をそのまま音に落とし込んだような陽気な音楽で満ちていた。歩いているだけで明るく声をかけてくるガイドや着ぐるみと言い、呆れるほど呑気で、此処は娯楽のための施設だと否応なく知らせてくる。
煌びやかと言えば、ミッドガルの六番街スラム・ウォールマーケットも該当するが、あちらは歓楽街の色が濃く、直視し辛い欲望をわざと煽るような派手さが目立っていた。思えば、あの露骨さはスラムの廃れた雰囲気を隠す目的もあったのだろう。
このゴールドソーサーは規模もまるで異なり、隠す云々ではなく、この場所すべてが“遊ぶ”ためだけで構成されていた。
巨大組織に追われ、正体不明の生物を抱えて各地を彷徨う男を追うという、戦いに満ちた旅を続けるクラウドたちには縁遠い場所だ。場違いである感覚が拭えないクラウドをよそに、一緒にこの施設を巡っているエアリスは、輝く目を隠そうともしない。
「キラキラしてるね!」
興奮がそのまま顔に表れており、白い頬は紅潮していた。無邪気な様は緊張感に欠けているが、晴れやかな笑顔も相まってか、クラウドの緊張感まで削いでくる。
「エアリスさん、ゴールドソーサー初めてですか?」
「うん。遊べるもの、たくさんあって、目移りしちゃう」
「そらもう、最高の娯楽を詰めまくった、夢の場所ですから!楽しまな損っちゅうもんです」
横から視界に入ってくるのは、大きなデブモーグリの着ぐるみと、上で跳ねる黒猫の人形。
占いマシーンを名乗るケット・シーというこの人形は、強引に一緒についてくることになったのだが、どうにも慣れない。園内だけならともかく、旅を共にするとなると悪目立ちしそうで、何より胡散臭さが拭えないこともあり、クラウドとしては置き去りにしていきたかった。
短い間でエアリスとは打ち解けているようだが、この人形を動かしている人間の正体もわからないのだ。談笑するエアリスの間に入るのは気が引けたが、声をかけずにはいられない。
「エアリス」
「なぁに、クラウド」
「目的を忘れないでくれよ」
「は~い。黒コートの男、だよね。探し物、してたみたいだけど」
「ああ。“黒マテリア”だとか……」
黒コートの男が娯楽施設へ向かったと聞いた時は真偽を疑ったが、情報は確かだったらしい。施設の園長に“黒マテリア”の所在を聞いたというが、行動の真意が一向に掴めなかった奴の目的がわかったのは大きい。ただ、この“黒マテリア”が何なのかわからなかった。マテリアは秘める力によって色を変えるが、黒色は聞いたことはない。
考え込むクラウドの視界に、急に白と黒が入り込んできた。思わず顔を後ろに仰け反らせると、ケット・シーが覗き込んでいたのがわかる。
「クラウドさぁん」
「っ、急に視界に入るな」
「また暗~い顔してはるから。せっかくのゴールドソーサー、楽しまなあきませんって」
「あのな……」
「でも、ここ、“黒マテリア”ないでしょ?黒コートの男も長居、しないんじゃないかな」
施設の主である園長が“ない”と明言していた。探しはするだろうが、園長の口振りからすると本当に無いのだろう。長居しないというエアリスの言葉は正しいに違いない。
だったらクラウドたちとて長居する理由もないが、そう反論しようと開きかけた口を閉じる。クラウドたちがここに来た理由はもう一つあると思い出したからだ。表情からクラウドが口を閉ざした理由もわかったのだろう、エアリスは微笑みながら言葉を続けた。
「バレット、落ち着くまで待たなきゃ、だしね。せっかくだし、楽しも?」
バレットは直情型の人間ではあるが、自分の暗い感情を引きずることは少ない。今回は理由を考えれば致し方ないが、その分落ち着くにも時間を要するだろう。
仲間が鬱屈した思いを抱えているからと言って、同じような感情を共有するのは良くない。気分転換も大事だと述べるエアリスの言い分も理解できる。
小首を傾げて笑顔でクラウドの答えを待つエアリスに、先程までの彼女の興奮を見ていた側としては無碍にするのも気が引けた。
「……バレットが落ち着くまでな」
「やったぁ!ねぇケット・シー。おすすめ、ある?」
「おすすめ、おすすめ……そうですなぁ……仰山ありますけど……」
ケット・シーは腕を組んで唸りながら考え込む。デブモーグリは呆けたように動かないままだ。片手に握りしめたメガホンで逐一動かしているようだが、声だけで動かせるとも思えず、原理はよくわからなかった。
取り留めもないことに考えを巡らせていると、ケット・シーがあ!と声を上げる。
「闘技場はどないですか?クラウドさん、腕に自信おありでしょう?
ディオ園長お墨付きで、結構な腕自慢を揃えとるっちゅう話ですわ」
「応援席、あるかな?」
「あったはずですよ」
園内で出会った園長は屈強な肉体をしており、会話中にも肉体美を見せつけるかのように何度かポーズをしていた。立派な体躯だからと言って腕に覚えがあると一概には言えない。ただ、ああまで自己顕示欲が高いのであれば、自分のお墨付きと銘打つからには相応の腕前を揃えているだろうと推察できる。戦闘をいくつかこなせば時間もそれなりに潰せる筈だ。そこまで来れば、バレットもいつもの調子を戻していることだろう。
「まあ……暇潰しにはなりそうだな」
「決まりだね!場所、どこ?」
「バトルスクェアです。
えーっと、こっからやと……あそこの穴に入ってもろたら、すぐ行けます」
「行こう、クラウド」
「ああ」
先に跳ねながら目的の穴に向かうケット・シーに、エアリスと並んで続く。鼻歌を紡ぐ声が隣から聞こえて、呑気なものだと感じながらも、その胸に落ちる声は冷たいものでは決してなかった。
ひと時を楽しむ
(FF7無印:クラエア)
2020/8/8