クラエアファンネットSummerCollection「水着」
@tomo27vt
**ホロウバスティオン(レイディアントガーデン)のFFメンバー(シド除)を孤児院育ち設定にしています
連日太陽の光がさんさんと降り注ぎ、地面を容赦なく照り付ける。この国は温暖な気候ではあるが、どうも今年の暑さは例年と比べても随分と酷い。熱気を帯びた空気は体力を奪うだけに飽き足らず、体中に纏わりつく不快感により気持ちを芯から萎えさせてくる。
不快感から逃れようと涼を求める人々の中で最近人気を博しているのが、広場にあるスイーツ屋の新作のアイスだ。いつ見ても大盛況で時には行列ができるほどだが、クラウドたちが暮らす孤児院は優先的にその店のスイーツを買える権利を得ており、行列に並ばずとも新作アイスにありつけていた。一人一つと制限はあるものの、人気スイーツ店のお菓子をおやつに食べられるのは子供たちの間で大好評である。
学校の課題をきちんと終えたご褒美のアイスは、格別に美味しく感じた。ひんやりと冷たい甘さの中にしょっぱさが混じる独特の味がたまらない。
「あっ」
「どうかした?エアリス」
「えっと、あのね、クラウド」
一緒に並んでアイスを食べていたエアリスが、小さく声を上げた。機微を捉える感覚が鋭いのだろう、エアリスは様々な物事に気が付く。それは人の行動であったり、感情であったりと多様で、今回も何かあったのかと思ったが、エアリスの視線はまっすぐクラウドに向いていた。翠色の目で見つめられると、何となく落ち着かなくなるが、決して不快ではない。
「プール、いっしょに行かない?」
「プール?」
「賢者様のおうち、プールできたんだよ」
「それは、知ってる。朝に先生が言ってたから」
“賢者様”とは、この国一番の研究者にして発明家だ。国の発展と平和に大変な貢献をしており、街の防衛システムが最大の発明とされているが、他にも様々な分野で名前を見かける。彼の住む城はその功績を讃えて国から授けられたものだという。
偉大な称号を戴いている彼だがその実気さくで、街に顔を出して人々と触れ合う姿をよく見かけた。その姿を見ると、穏やかな笑顔を浮かべる好々爺の印象が強い。
高齢になった今も弟子たちと共に現役で研究と発明を続けており、件のプールも何某かの実験で作成した空間を改造したものだという。暑さに喘ぐ人々の心が少しでも和らげれば、という言葉は人々に寄り添う彼らしい。
無料で開放されたプールは急な作成ということもあり、それほど広くないようで、人数制限が設けられている。孤児院の先生から希望は聞くが一人一回ずつ順番に、と伝えられていた。
「クラウド。いっしょに行こう?」
「え、……いいの?」
「え?」
問いかけに、エアリスは目を丸くして首を傾げる。
何かと気が付くことが多い所為か、不思議に見える行動が多いエアリスだが、社交的な性格もあってか、誰かと一緒にいることは多い。今でこそクラウドとよく行動を共にしているが、彼女と一緒にいたいと思う人間が多いのは知っていた。気持ちはよくわかる。彼女と一緒にいると、心が温かくなって、心地好いのだ。
だから、つい、確認をしてしまう。自分で良いのか、と。
「ユフィとかじゃなくて、いいのか」
「わたし、クラウドと行きたいもん」
よく一緒にいる子供の名前を挙げるも、エアリスは迷わない。
あまりにまっすぐ言われてつい言葉を失っていると、首を傾げたエアリスの眉が八の字に下がった。不安げに揺れる目で、だめ?と確認され、慌てて首を横に振る。
「だめ、じゃない。いいよ」
「やった!」
憂いを帯びていた瞳が一転、明るく朗らかな色になり、クラウドはホッとする。
エアリスは悲しそうな顔よりも楽しそうに笑っている方がいい。曇りのない満面の笑みは見ている側も自然と笑んでしまいたくなるから不思議だ。
「水着、どんな感じかな」
「俺、水着着るの、久しぶりだ」
「わたしも。楽しみ!あ、上手に泳げるかな」
学校にプールがないこともあり、孤児院の子供たちで水着を持っている者はいない。正確に言えば、幼児はビニールプールで遊ぶために持っているが、クラウドたちの年頃の子どもは持っていないのだ。
孤児院の先生で用意してくれるとのことだが、素直に胸を高鳴らせるエアリスが何となく眩しく思えた。クラウド自身はどうも不安の方が先立ってしまう。例えば、ほとんど初めての泳ぎで失敗しないかどうか、など。先のことを考えると、暗い考えで埋め尽くされそうになりがちだが、エアリスと話す時は不思議なほど、ネガティブな不安は沸いてこないのだ。
実際、プールについて二人で話す間、あんなにも鬱陶しくて仕方のなかった暑さが気にならなかった。胸の中が期待感で満たされるほど、クラウドの心の中にはエアリスと一緒に遊びに行くその日が待ち遠しい気持ちしかなかったのだ。
**
存外、“その日”がやってくるのは早かった。
学校の課題を早めにこなし先生の言いつけはきちんと守るという素行の良さも影響して、クラウドとエアリスの希望は本人たちも驚くほどすんなりと通ったのである。ズルい!と抗議するユフィの姿を見ながら、クラウドは日頃の行いの大切さを痛感していた。
そうしてやってきたプールは、屋内ということもあり、涼しくてそれだけで心地よかった。一見すると広々として見えたが、全員が入ればギリギリ遊ぶスペースが確保できるレベルだ。クラウドたち以外は家族連れが3組ほどでそうなるということは、人数制限は当然と言えよう。その程度の広さでは泳ぎを教えるというのも本格的なものではなく、幼児相手に軽く教える程度だったようなので、クラウドたちは貸し出された浮き輪でぷかぷかと浮きながら涼むことを選んだ。
「涼しくて、気持ちいいね!」
「、うん」
浮き輪に浮かれながら、エアリスは気持ちよさそうにため息をつく。茹だるような暑さから解放された心地よさも、ほっと溜息の一つも付きたくなる感覚も理解できた。理解できるのに、濡れた前髪やほんのり赤い頬が何故だか直視できず、妙な胸の高鳴りも相まって、相槌も途切れ途切れになってしまう。
水着姿を見た時も似た感覚を覚えたが、自分の内から湧き上がっているのにどういうものかわからない感情に、クラウドは内心戸惑いでいっぱいになっていた。
(なんで変にドキドキしてるんだろ、俺)
紺色のワンピースタイプの水着を纏うエアリスを初めて見た時、白い肌とのコントラストが妙に目に焼き付いてしまった。彼女の笑顔よりも服装が気になるのは初めてだ。似合っているからかとも思ったが、それでもこんなにも胸が変に高鳴るのはよくわからない。プールに入れば水着は隠れるから高鳴りは収まると思ったのに、今度は水に濡れる彼女の姿が目に焼き付く。あんなに楽しみにしていたというのに、妙な感覚のせいで悶々とする気持ちでいっぱいだった。
「クラウド」
「ん?」
「えいっ」
悩むクラウドに横から声がかかる。振り向けば、エアリスが両手を組んでいた。
眉根を寄せて首を傾げる姿に、クラウドも首を傾げる。よく見れば、組んだ両手の掌を何度か開閉させて、水を飛ばそうとしていた。よく見かける手で作る水鉄砲だが、飛距離はほとんどなく、バシャバシャとその場の水を波立たせるだけに終わってしまっている。
「水鉄砲?」
「うん……前、上手くできたんだけどなあ」
「それはこうして……」
クラウドも同じように両手を組む。エアリスは掌全体を開閉させていたが、それでは水鉄砲にはならない。手首の付け根は合わせたまま、飛ばすための水が入るよう、掌で空洞を作る。その空洞を潰すように両手を閉じれば、水が勢いよく飛ばせるのだ。
実践して、見事に水鉄砲を作ったクラウドに、エアリスは目を輝かせた。
「すごーい!」
「コツ掴めたらいけるよ」
「えーっと、こう……」
「うわっ」
早速実践するエアリスは飲み込みが早く、今度はきちんと水鉄砲を作れた。クラウドの顔の近くを飛んでいく水に声を上げて避けると、ニヤリと悪戯っぽく笑う。得意げな笑みは満足そうだが、やられっ放しは何だか悔しい。クラウドも同じように水鉄砲を作って、エアリスの方向に飛ばした。浮き輪にあたった水の跳ねにエアリスは驚きで一旦仰け反るも、すぐに笑って、仕返しとばかりに水鉄砲を繰り出す。
そうして、開放時間は終わりだと係員が告げるまで、カラカラと笑いながら二人は水鉄砲を飛ばしあったのであった。
キミと一緒
(KH:クラエア)
2020/8/19