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あなたが傍にいるから(FF7無印:クラエア)

全体公開 FF7(クラエア) 1 2841文字
2020-08-30 15:55:16

ワンライお題「約束の地」

Posted by @tomo27vt


『我ら星より生まれ、星と語り、星を開く。そして、約束の地へ帰る。
至上の幸福。星が与えし定めの地』
それは、古くから生きてきた種族“セトラ”に言い伝えられてきたとされる文言だ。
セトラは古代の星の発展に寄与し、更に彼らだけが持つ能力が星の命の概念に大きく関連することから、“星命学”という学問でもその文言はしばしば扱われている。ただ、あまりに抽象的で、文言に関する文献も少ないことから、研究者の間でもその文言が指し示す場所についての研究は盛んではない。
お伽噺にあるような文言が指し示す場所を特定しようと真剣に動き出した酔狂な輩が、世界を牛耳る巨大組織・神羅カンパニーである。
傍から見れば酔狂でも、世界で最も権力を持ち、資金力も余りある組織が実行すれば、話は別だ。セトラが既に絶滅してれば話は別だったが、不幸にも彼らは現代においてもひっそりと生きていた。彼らの生存がわかったからこそ、神羅は本腰を入れたと言えるかもしれない。セトラではなく、わざわざ古代種と特別に銘打つようになったのも、その本気の表れと言えた。
そうして、当事者であるセトラ――古代種のエアリスは、物心つく前から何度も何度も問われることとなる。『約束の地はどこか?』と。


**


酒場や露店が並ぶ通りの喧騒を背中に受けながら、エアリスは一人、白い砂で覆われた海岸沿いを歩く。昼間はあれだけ人でごった返していたというのに、日がとっぷり暮れた今は誰もいない。一歩足を進める度に、踏みしめる砂の軽快な音が聞こえるほどに静かだった。時折響く波の音や潮の香りを纏った涼やかな風は、寂しさを感じさせる静寂にそっと寄り添うように聞く者の心に癒しを与える。自然が織りなす心地よさを確かに感じながらも、エアリスの心はあまり穏やかではなかった。

(セトラ、古代種、約束の地)

頭の中を巡るのは、長年エアリスから離れない言葉たちだ。四六時中考えているわけでもなく、決して悪い感情ばかりを持っているわけでもない。ただ、それにまつわることで衝撃的な出来事が連続して起こり過ぎた所為で、心のざわめきが止められないのだ。
例えば、同じ古代種とされるジェノバの化け物然とした様相。実母の代から研究との名目で対峙し続けてきた宝条博士との邂逅。

(約束の地)

件の宝条博士からも、他の神羅関係者からも何度なく聞かれた。聞かれても、エアリスは答えを持っていない。幼い頃は朧気ながらもイメージが浮かんでそれを答えていたが、歳を追うごとにそのイメージはどんどん漠然としたものに変容している。能力が衰えているのかもしれないが、それすらわからない。エアリスと同じ力を持つセトラはいないのだから。
エアリスこそ、約束の地を知りたかった。実母との数少ない繋がりである、セトラが求める場所。

(でも、セトラって、古代種、って何だろ。何か、変わる?変わっちゃうの?)

堂々巡りの考えは昼間からずっと渦巻いており、疲労からくるものかと思って休息を取ったが、あまり変わらない。むしろ、昼寝をしたせいで、こんな夜更けに目が冴えてしまった。しばらくベッドの上で横になっていたが一向に眠気が訪れないので、気分転換も兼ねて散歩することにしたのだ。昼間の焼けつくような暑さと打って変わって、散歩もしやすいほどに涼しいというのに、渦巻く不安はどうにも晴れず、エアリスは人知れずため息を零した。

「エアリス」

後ろからかけられた声に、エアリスは驚いて振り返る。気づけばそこに、クラウドが立っていた。目を白黒させるエアリスに、クラウドは大股で近づいてくる。
眠れないのは個人的な理由だったので、散歩に赴く際は誰も起こさないよう、音を立てないよう慎重に行動した。同室だったのはティファとユフィだったが、二人ともぐっすりと眠っていたし、廊下を歩く時も忍び足を心掛けたので、誰かが起きてくるとは思わなかったのだ。

「こんな夜更けに何してるんだ」
「えっと、ちょっと目、冴えちゃって……クラウドこそ、どうしたの」
……似たようなものだ」

少し間を置いての返答するクラウドに、嘘だろうとエアリスは直感した。眉間に皺を寄せて口を引き結ぶ姿は、不機嫌に顔を歪ませているようにも、眠気と戦っているように見える。
他人にそっけない態度を取ることの多いクラウドだが、彼の心根はとても優しい。ボディガードの約束を持ち出しては、旅に不慣れなエアリスを何度もサポートしてくれる。今回もきっと夜中に起きて外に出たエアリスに気付いて、様子を見に来てくれたのだろう。心遣いに申し訳なくもなりながら、自分に優しさを向けてくれることが素直に嬉しくもあった。

「寒くないか」
「それは、だいじょぶ。涼しくて、ちょっとビックリしたけど」
「確かに、昼間と寒暖差が激しいな」

ちらりと投げられたクラウドの視線の先は、露出した白い肩だ。すぐに戻るつもりだったから、いつも着ている赤いジャケットは部屋に置いてきていた。
巻き込むのもどうかと思い、戻ろうかと思案するも、先にゆっくりと歩き出したクラウドの足は海岸の先に向いている。まだ眠れそうにないと感じていたから正直有難い。クラウドの優しさにまた胸の中が温かくなるのを感じながら、エアリスは彼の隣に続いた。

「ありがと、クラウド」
……何の話だ」
「何でも、だよ」

礼を言ってもつれない言葉しか返らないが、月明かりのもとで薄ら見える耳元が赤い気がする。優しさに甘えながらも、エアリスは心の中で少し経てば自分から散歩を打ち切ろうと決意した。甘えるのは心地好いが、何かと背負いがちなクラウドに無理はさせたくない。

「エアリス」
「なぁに?」
「あと1日くらい、ゆっくりできると思う」
「え?」
「山を越えることは確定だ。情報は多い方が良いからな」

思いもかけない言葉に、またもエアリスは目を白黒させてしまう。何でもないことのように自然とそっけない声音で言われた言葉は、エアリスへの心遣い以外の何物でもない。
クラウドは優しいが、有耶無耶のままに終わってしまったセフィロスとの因縁に決着をつけるという決意は何よりも固いと感じていた。一刻も早く追いたいだろうに、一旦保留にしてくれるというのだ。昼間の様子を見るに、エアリス以外の面々にも疲労を感じたので、エアリスのためだけではないこともわかっている。それでも、エアリスは胸の中が温かくなるのを止められない。クラウドを好きだという気持ちで心が満たされ、自然と表情は笑みの形に緩んでいた。

「何だ」
「ううん。ありがと。クラウド」
「だから、何の話だ」
「だから、何でも、だよ。ありがとう」

笑いかけると、クラウドはふんと鼻を鳴らす。あんなにも心をざわつかせ渦巻いてやまなかったドロリとした不安は、嘘のように治まっていた。


あなたが傍にいるから
(FF7無印:クラエア)
2020/8/30


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