全員生存未来設定。メインは星宿。張宿が役人。井宿が流浪。原作沿いだけどなぜかSNSが存在する謎世界観。TLでのやり取りをもとに書いてしまいました。読む時に必要なものは広い心です。
@satomi8429
彩賁帝の毎日は忙しく、規則正しい。
朝は身支度の後、重臣から昨日までの報告を受け、その日の予定を把握する。
朝食もそこそこに、執務室に移動し、処理すべき書類に目を通す。
読んだり書いたり指示をしたりする間にも、各部署の役人たちからの報告やら相談やらが絶え間ない。
正午に昼食、食後に軽く宮廷内の散歩をし、また執務に戻る。
来客との謁見や会議を挟みつつ、十六時に小休憩。
茶と茶菓子で休息をとり、また夕食まで執務である。
そんな彼の毎日に新しい日課が加わったのは、ある秋の日の午後だった。
その日も、星宿はつかの間の休息時間にお茶を楽しんでいた。
香杯で香りを堪能していると、扉が鳴った。大臣だ。
「面会を希望する役人がいるのですが」
重臣や各役所の長であれば、名前を言われるはずである。
名を言わないということはそれ以下の下級役人ということだろうか。
「誰だ、その役人とは」
「は。昨年最年少で科挙登第をなされた王道輝であります」
星宿は杯を落としそうになった。王道輝。張宿だ。
同じ七星士として朱雀の召喚に関わったのは数年前。
その後科挙に挑戦し、晴れて合格したのが昨年だ。
同じ宮廷内にいるのに、しかし星宿が張宿と会えたのは、登用式の時の一瞬だけであった。
登用されたばかりの若い役人が、皇帝陛下と謁見するなど本来ならば叶わない。
星宿のほうは、どうにか張宿と親しく言葉を交わしたいと願っていたが、大臣たちに止められていた。張宿のほうも立場をわきまえ、目を合わせることすら畏れ多いと避けているようだった。
それが、面会を希望とは。何年振りだろう。星宿の顔は自然と笑顔になった。
「よし、入れ」
「陛下、このような面会に応じてくださり、恐縮にございます」
「堅苦しい挨拶は良い。よく来てくれた。会いたかったぞ、『張宿』」
親しみを込めてそう呼ぶと、張宿のこわばっていた頬も少し緩んだようだった。
「畏れながら皇帝陛下、わたくしもでございます」
「ここには誰も居らぬ。今人払いもしておいた。七星士同士だった頃のように喋ってかまわないぞ」
「ありがとうございます、『星宿様』」
にっこり笑って目を上げた張宿の顔は、雰囲気こそ昔のままだが、随分と大人びていた。
「それで、話とは」
別に話などなくてもいいのだけれどな、と思いながら星宿は聞いた。
「はい。実は……」
張宿は両手に抱えていた端末を開いた。両掌ほどの画面が白い光を放っている。
「星宿様、SNSをご覧になったことはありますか?」
「SNSか。言葉は知っているが、見たことはないな。SNSがどうかしたのか」
張宿は画面に指を滑らせ、三つの画像を示した。
「僕も情報収集で使う程度なんですが、最近この三つのSNSに共通して、気になるタグが出現しているのを見つけたんです」
星宿が画面をのぞき込むと、そこには色付きの文字で『# 噂の僧侶』という言葉のついた記事が並んでいた。
「タグっていうのは、この『#』がついたものを言うんですけれど、この『噂の僧侶』という内容、読めば読むほど……」
『# 噂の僧侶 ○○川にいたの多分本物だと思う!釣りしてたよ』
『さっきすごい髪型の人とすれ違ったんだけどあれってもしかして# 噂の僧侶』
『この間、道に迷ったうちのおばあちゃんを家まで連れてきてくれた人がいて助かった!ネコかわいかった # 噂の僧侶』
……釣り……すごい髪型……ネコ……?
星宿がかの人物を思い浮かべたのと同時に、張宿が言った。
「この『噂の僧侶』、井宿さんじゃないかと思うんです」
それで、と張宿は続けた。
「この噂の僧侶タグを検索していくと、あることに気が付いたんです」
張宿が画面を切り替えると、そこには細かい文字で日時と文章と地名が一覧になって表示されていた。
「たとえばこの日、一週間前ですが、この時の呟きを整理するとこの川のこの集落付近のできごとが多いんです。そしてその数日後はこの山のふもと付近の呟きが多い。……もしこの噂の僧侶が井宿さんで間違いなければ、このタグを追っていくと井宿さんの居場所が割り出せるのではないかと……」
井宿。一緒に旅をした七星士の一人。
朱雀召喚の旅が終わり、役目を終えた七星士は皆、それぞれのくらしに戻っていった。
星宿は皇帝として、また仲間の一人として、各々の居場所を確認していた。
流浪の旅人という身分を頑として変えようとしなかった、井宿を除いて。
「井宿か。もう五年も会ってないな」
「僕もです。星宿様、いかがでしょう。井宿さんを探してみませんか」
「そうだな。これを見ている限り元気そうではあるが、五年も音沙汰なしというのはいささか不義理と言わざるを得ない。これを機会に、捕まえる算段を整えてもいいやもしれん」
かくして、星宿の十六時のお茶の時間には、SNS閲覧という作業が加わったのであった。
週に一度、張宿が地図を持参で尋ねてくる。
張宿がSNSをもとに地図上に打った点を見ながらこの一週間の動きを確認し、近くに来た頃合を見計らって使者を出す計画だ。
「星宿様、先週このあたりだった情報が、今週はこっちへ移動しています。そろそろ近いかもしれません」
「よし。来週あたり確保だな。引き続き動向を確認してくれ」
「承知しました、星宿様」
井宿が捕獲される日は、近い。
2020/9/13