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解離


(■■■■/■/■■ 監視カメラ映像)
名称:解離 Dissociation
外見:170cm程度 -kg 外見年齢20代前半

能力:
当哲学人を視認した対象に一時的な記憶喪失を起こす。
接触した対象の精神の一部を切り離し、別個体(以降【解離個体】と呼称)として具現化する。

解説:
 頭髪の一部の色素が欠乏し、左目の強膜が黒い男性です。頭尾が逆向きの、灰褐色の小さな翼が腰から生えています。左翼は根本付近から欠損しており、出血は止まることがありません。衣服や床に血液が付着した場合、数分後に消滅します。

 人間の多く集まる土地に現れ、人間に対して回避的な行動を取ります。対話がほぼ成立せず、保護・研究・収容には非協力的です。

 能力は人間・哲学人両方に作用します。
 視認による記憶喪失は時間経過によって自然に回復します。
 接触による能力影響は『記憶喪失』と『喪失した記憶内容に対応した【解離個体】の出現』です。【解離個体】は記憶内容に相応しい外見をとります。
 接触による能力影響は、【解離個体】に触れると即時解除されます。接触前に能力対象もしくは【解離個体】の片方が死亡した場合、能力は解除されず、記憶は戻りません。
 【解離個体】に触れる以外の能力解除方法とその有無は不明です。

補遺:
20■■/9/1の事案Dis-002を発端として、哲学人犯罪取締課所属■■隊員【解離個体】の保護実験が7年間継続中です。
現在、【解離個体】具現化の最長記録更新中です。

対応: 精神世界を移動する特性上、収容不可能。発見次第説得と記録を行い、長期的な研究協力を申請する。

発見経緯:
19■■/■/■■ ■■県■■市 ■■■駅前広場にて発見される。その場で開催されていたイベント関係者■■名が約十分間、自身が駅前にいる理由を忘れたため騒動となり、取締課に通報される。

20■■/■/■■ ■■県■■■■市 ■■■■■小学校にて発見される。全校朝会中であったため、校庭に居た全生徒と教師が自身の名前含む個人情報を忘れて騒動となり、職員室に居た教師数名が取締課に通報。
 取締課は当事件に関わる哲学人を哲学人【抑圧】であるとして処理し、調査を終えている。

20■■/■/■■ ■■県■■■市 ■■■■■■病院にて発見される。接触したと思われる医師、看護婦、患者合わせて■名が院外へと抜け出した為、通報される。当事件に関わる哲学人を哲学人【逃避】であるとの推測の元調査が進められていた。

20■■/■/■■ ■■県■■市 ■■■■教会にて発見される。発見後すぐに通報された為に被害は■名の記憶障害に抑えられた。
 事件関係者の目撃証言から前述全ての事件と当事件が同一哲学人のものであると判明。取締課にて簡易的な資料作成が開始される。

20■■/■■/■ ■■県■■市 ■■駅構内にて発見される。【解離個体】十体が出現する騒動となり、三時間程度の運行遅延を引き起こしていた。
 このとき【解離個体】の存在と対処法が発覚。

20■■/■/■ ■■大学附置哲学人研究所内に出現し、研究員一名に接触(事案Dis-001)。映像記録により哲学人名と能力が判明。
 研究所にて哲学人資料を作成。取締課と連携し資料を一部引継ぎ。

+事案Dis-001資料の抜粋

+事案Dis-001概要

発生日時:20■■/■/■■
内容:18時頃、研究所西棟一階の廊下に当哲学人が現れる。■■研究員が声をかけ、接触。当哲学人は消失し、発生した■■研究員の【解離個体】が逃走。研究所内にて5件の傷害事件を起こした後、■■研究員に捕らえられて消失。
損害:なし

+現場記録

本記録は監視カメラ映像と■■研究員の所持していたボイスレコーダー記録を照合したもの。
(哲学人【解離】が出現。移動せず、困惑した様子で窓を眺める)
(■■研究員が歩み寄る。ボイスレコーダーを起動し、哲学人【解離】と対話を始める)

■■研究員:どうしたの? 迷子かな。
【解離】:わぁ!? あ、あの……え?
■■研究員:びっくりしちゃった? ええと、ここは研究施設なんだ。
【解離】:そ、そう、なんだ。
■■研究員:身分証がないと出入りができないはずなんだけど、君は持ってない、よね?
【解離】:(曖昧な返答。目線を逸らしながら小さく頷く)
■■研究員:お名前を教えてくれる?
【解離】:か、解離。
■■研究員:ありがと。どうしてここに居るの?
【解離】:それがわかんなくて……気が付いたら、ここに、いて。

(哲学人【解離】は辺りを見渡す。怯えている様子)

【解離】:迷子っていうか……迷子だなこれ……えぇ、うん。迷子だこれ。
■■研究員:そっかー。じゃあ、ここで立ってお話しするのも疲れちゃうし。事務室に行かない?
【解離】:え、え。あ、はは。じゃあ、そうしようかな。
■■研究員:これからどうするのかとか考えるためにね、君について色々するかも。それは大丈夫?
【解離】:う、うん。大丈夫だけど……ここって、何の研究してるとこ?
■■研究員:それは。

(■■研究員は思い悩むように俯き、辺りを見渡す)
(哲学人【解離】は困惑した様子。■■研究員に近寄り、肩に触れる)
(当哲学人の手が■■研究員の体をすり抜ける。その際、手に押し出される形で【解離個体】が出現する。【解離個体】は■■研究員を10歳程度にした容姿をしている)

【解離】:え、あ、ごめんごめん僕そんなつもりじゃ、ああやっちまった!
【解離個体】:あははは! ばいばーい!

(【解離個体】が走り去る。■■研究員は呆然とそれを眺めている)

【解離】:そ、その、えっと、ちがっ……ああああ! 僕、知ーらない!

(哲学人【解離】が逃走。5メートル程進んだところで突如消失)

■■研究員:ま、待って。待って! 駄目!

(■■研究員が【解離個体】を追いかける。ボイスレコーダーを落としたため、書き起こし終了)

【解離個体】の引き起こした傷害事件一覧。
18:23 西棟二階階段にて職員一名が突き飛ばされ落下。右肩から腕の打撲。
18:27 西棟二階第四実験室扉に非殺傷トラップを設置。職員一名の衣類が汚損。
18:29 西棟二階通路にて取り押さえようとした職員を殴打。
18:29 西棟二階通路にて通行中の職員一名が背を押され転倒。
18:31 西棟三階通路にて職員一名が衝突され、窓から落下。命に別状なし。

 【解離個体】確保により事態収束。
 ■■研究員とその【解離個体】は共に興奮状態であり、指示に従わなかったため、インタビューは事案収束後に行われました。

+事後インタビュー記録

日時:20■■/■/■■
対象:■■研究員
 【解離個体】消失後、落ち着きを取り戻した■■研究員に対して実施。
■■■■■研究員:お疲れ様です。
■■研究員:ごめんなさい……
■■■■■研究員:記録の無い哲学人でしたから。本件を元に資料作成、対策を考える予定です。反省したらしっかり覚えて、次に活かしましょう。
■■研究員:はーい。
■■■■■研究員:ではまず、あの哲学人と出会ってからの流れを細かく教えてください。記憶に影響がないか、あるいは肉眼と記録で違いがないか、確認します。
■■研究員:そうだね……ええと。

(映像記録と差異が見られなかったため省略)

■■■■■研究員:問題なさそうですね。ではあの哲学人の外見情報ですが、黒い服の。
■■研究員:うん? 青い服だったよ。黒い髪で、前髪だけ白くて。左目だけ白目と黒目の色が反転してて。ズボンは黒で、靴は……覚えてないや。見れてない。
■■■■■研究員:ああ、ありがとうございます。それでは更に細かい確認ですが、話しかけた時点で他の職員へ連絡しなかった理由は、わかりますか?
■■研究員:哲学人発見時のマニュアルが飛んじゃった。その後は自分のお仕事を忘れて、研究所が何の施設なのかが抜けてるかもー。
■■■■■研究員:記憶に影響が出る哲学人ですね。子供の■■さんを追いかけている間も、なんだかいつもと様子が違いましたね。
■■研究員:うん。幼少期の記憶がすっぽり抜けてたね。そして駆けまわってたあの子が、僕の記憶の塊みたい。捕まえたら記憶は戻ったよ。
■■■■■研究員:ありがとうございます。主観的な内容のため、確認ですが。今ここに居る■■さんは、追いかけていた方で間違いないんですね?
■■研究員:あー(数秒の思案)……そうだね。僕の主観だと、ずっと仕事していて、突然記憶を失って、子供時代の僕が現れて。そして彼が消えると同時に記憶が元に戻った、っていう地続きになってる。
■■■■■研究員:ありがとうございます。あの子供が起こした騒動について、記憶が統合されるなどは?

(数秒の沈黙。■■研究員は微笑んでいる)

■■■■■研究員:■■さん?
■■研究員:統合、されたよ。あの子が色んな人を怪我させたっていうのが、僕自身の……子供の頃の記憶、ってわけでもないかな。不思議な感じ。ついさっきの記憶とも、子供自体の記憶とも、どっちでも思える。そんな風に、入ってきた。
■■■■■研究員:そうですか。貴重な情報です、助かります。
■■研究員:階段から突き落とすなんて、やりすぎだよ。ごめんね。
■■■■■研究員:一人称視点での記憶のようですね。
■■研究員:うん? ああ、うん。僕がやった、っていう記憶。
■■■■■研究員:では、それを行った理由についても。記憶として、貴方には入ってきたのではありませんか?

(数秒の沈黙。■■研究員は微笑んでいる)

■■■■■研究員:■■さん。あの哲学人が作り出した分身へ、攻撃的な行動を取るよう指示されている可能性があります。その判断のため、分身の精神状態について確認したく思います。
■■研究員:(曖昧な返答。微笑んでいる)
■■■■■研究員:回答は難しいでしょうか?
■■研究員:言いたくない……けど、(困惑した呻き声)……いや、うん。あれは発達初期の子供が虫を殺して遊ぶような、そういうものだったよ。
■■■■■研究員:つまり、自然な感情でしょうか。
■■研究員:うん。多分、攻撃性は個人の性格と、記憶のどの部分を切り出したかに由来してるんじゃないかなぁ。彼が意図的に、そういう、危ない部分を選んで形にしたって可能性は、あるけどね。
■■■■■研究員:わかりました。ありがとうございます。
■■研究員:あー、と。もう一個。これは僕の、予想で。検証にはもっと検体が必要なんだけどね。
■■■■■研究員:何でしょう。
■■研究員:その人の認めたくない過去を選んで切り出してる可能性がある。だって彼、解離らしいから。
■■■■■研究員:確かに。検討します。
■■研究員:言えそうなのはこれくらいかもー。
■■■■■研究員:そうですね。一旦休憩にして、その後は検査へ。インタビューは終了します。



+事案Dis-002資料の抜粋

+Dis-002概要

発生日時:20■■/■/■■
内容:21時頃、東棟哲学人収容室に哲学人【解離】が出現。収容中哲学人■名の【解離個体】を発生させ、大規模な収容違反が発生。【解離個体】と哲学人による論争と能力暴走が■箇所で発生。哲学人【■■■■■■】の能力により施設の一部が崩落後、哲学人犯罪取締課へ協力要請。各【解離個体】を確保し、能力解除を行い、事態収束。その後、研究員と隊員二名分の攻撃性のない【解離個体】具現化が判明。実験用として確保。
損害:東棟二階の床が崩落。同階の設備が損壊。

以下は関連する各記録の書き起こしである。
なお、主要人物は以下の置き換えを行う。
■■■■■研究員:A(哲学人【解離】担当者)
■■■■■研究員の【解離個体】:α
■■隊員:B
■■隊員の【解離個体】:β
【解離個体】と本体の識別は身体変化の有無と装備品により行っている。

+現場記録

事案時、A所有ボイスレコーダーからの書き起こし。
(風によるノイズ。足音。屋外での録音と考えられる)

A:こんばんは、【解離】さん。
【解離】:あ、あはは……こんばんは。
A:酷い状況ですね。研究所内は大混乱です。
【解離】:みたい、だね。

(轟音。建物の崩壊音と思われる)

【解離】:わ! ……あ、あの、どうして、ここ……こんなことに?
A:貴方が事件を起こしたからですね。
【解離】:え。
A:意図的でしたか?
【解離】:わ、かん、ない。ごめん……
A:研究所に来た理由はなんですか?
【解離】:わかん、ない。
A:来る前は、どこに居ましたか?
【解離】:……わかんない。
A:そうですか。
【解離】:ここって、何の施設?
A:貴方がここに来たのは、始めてじゃないんですよ。

(サイレン。哲学人犯罪取締課の到着と思われる)

【解離】:あ、あのー……どうして、ここ……こんなことに?
A:ああ、健忘ですか。どうりで。哲学人である貴方は改善などされないし、ずっと迷子のままなんでしょう。

(爆発音。建物の崩壊に伴うものと思われる)

A:羨ましい。
(以下記録消失)

Aならびにαはこの音声について記憶がないと証言している。

+事後インタビュー記録

事案翌日、■■大学附置抗哲科病院にて実行された記録。

日時:20■■/■/■■
対象:A
事案中の頭部負傷により入院中の対話。

■■研究員:お疲れ様でーす。
A:お疲れ様。昨日定時上がりだった人は良いですね。
■■研究員:いや、事後処理に追われてるんでどっちもどっちですよ。そんじゃちゃっちゃと本題。■■■■■さん(※A)の【解離個体】について確認するため、覚えてないことについて教えてください。
A:ドーナツの穴だけ食べてください、って感じの質問ですね。
■■研究員:お、哲学的な言い回しは覚えてますね。
A:ええ。忘れているのは、昨日の夜の記憶です。
■■研究員:どこからどこまで?
A:勤務時間から、保護されるまで。さっき出勤したと思ったら時間が飛んでて、研究所が煙を上げていて、もう一人の私が立っていて。取締課の人が来ていて保護されました。
■■研究員:昨夜、【解離】の姿は見ました?
A:見た記憶はありません。ただ、【解離個体】は居るっていうことは、触れたんでしょう。
■■研究員:【解離】の情報は維持されてますね。じゃー担当継続できそうって報告しときます。
A:ええ……私の【解離個体】に対する実験は難しそうですけど。
■■研究員:そこは助手使うでしょ。
A:そうですね。人手が足りてないのか余ってるのかどっちなんでしょう、うちは。
■■研究員:駒は足りてるけど人間が足りない、って思ってそうですよ。上は。
A:で。今回の事故でさらに減りましたか。
■■研究員:人材的には減ってないです。死者1名、負傷者5名。研究所の大規模事故にしては大人しく治まった方ですね。
A:他所の研究所を笑えなくなりましたね。亡くなったのは取締課隊員ですか?
■■研究員:正解です。ええと、■■隊員(※B)。【解離個体】が残ってるので、後で資料が届きますよ。
A:そう。
■■研究員:どうされました?
A:え?
■■研究員:表情……顔色? 悪いですよ。あと瞳孔が開きました。迷走神経反射?
A:よく見てますね。
■■研究員:インタビュアーなので。
A:特に、動揺する理由は。思い当たりません。記憶には。喪失した記憶部分にあるんでしょうか。
■■研究員:あー。理由は覚えてないトラウマ反応? そういうのは残るんですかね。
A:解離の名前通りなら、ありえますね。ああでも、研究者としては喜ばしいという不謹慎な思いもありますよ。能力の対象が死んでも【解離個体】が残るなんて、新しい発見です。それに【解離個体】消失の条件は本体との接触ですから。それ以外の消失条件、能力の継続時間とか、そういう新しいことを知れます。
■■研究員:ラッキーでしたね。うちの職員が減ったわけでもないし。
A:不謹慎です。研究所外では絶対に言わないようにしましょう。
■■研究員:勿論。共有資料じゃこの部分消しときますよ。
A:ああ、はい。そう、ですね。消してしまえば。
■■研究員:はい?
A:消してしまえば、誰にも見えなければ無かったのと同じですよね。
■■研究員:そうですね。
A:ああ、何でもないです。解離の能力を受けたから、多分思うところがあるんです。ただ、事故ではなく研究的関心ですから、今はここを掘り下げる必要はありません。
■■研究員:そ。分析に使えそうです?
A:しっかり反省と分析をして、次に活かしますよ。
■■研究員:やる気も有り、と。怪我さえ治ればすぐ職務復帰できそうですね。
A:ええ。あ、雑談になってしまいましたが、インタビューは大丈夫ですか?
■■研究員:大丈夫でーす。記憶の範囲と正気かどうかの確認なんで。失った記憶の詳細は【解離個体】側のインタビューで判明させますよ。
A:そっちもやるんですね。後で資料いただけます?
■■研究員:勿論。
A:助かります。
■■研究員:それじゃ、事後インタビュー終了っと。お大事にー。

(記録終了)

日時:20■■/■/■■
対象:α
保護に伴い、身体検査を行った後の対話。
αはAとほぼ同じ外見である。相違点として、両足に原因不明の運動麻痺と疼痛がある。

■■研究員:こんにちは。何て呼べばいいですかね。
α:あー……■■■■■(※A)では、呼び分けにならないですね。あだ名、付けてくれますか?
■■研究員:研究上の名称なら。Dis-002αって呼ばれる予定です。それで不満は?
α:ないでーす。
■■研究員:ではDis-002α。君は【解離個体】で、本体からいくつかの記憶を切り出したものだってこちらは考えてる。君が覚えてる内容について教えてくれますか?
α:はーい。まず昨日、研究所に出勤して。警報が鳴って。皆と一緒に逃げていたら建物の融解があって。他の研究員とはぐれちゃったんですよね。
■■研究員:続けて。
α:どの哲学人の能力かなぁ。急に歩くのが難しくなって。かなり遅れて、研究所を出ました。裏口にある林の中に逃げ込んだら、【解離】に会いました。
■■研究員:彼に触れた?
α:多分? 能力は使われました。それで、気が付いたときには私が増えていて、彼は居なくなってしまって。このとき、記憶が地続きになってるのは私なんですけど……
■■研究員:研究所としては君を【解離個体】であると判定してますね。ネームプレートの所有と、着衣の状況からの判断です。
α:ええ~、着替えたとか、奪ったとか、本物が落としたとかありえるじゃないですか。
■■研究員:ま、いいじゃないですか。研究素材となったおかげで安泰ですよ。働かずにのんびり過ごせます。
α:でもなぁ。
■■研究員:そういえば、哲学人の知識は持ってるんですね。研究所事故の記憶が貴方にあるから、研究所関連の記憶も付随しているんでしょうか。
α:さあ……私としては、今まで通り勤務していたら事故が起きて……という認識なので、勤務内容も知っていて当たり前、というか。
■■研究員:ご両親のことは?

(数秒間の沈黙。αは思案した後、首を横に振る)

■■研究員:他に、忘れていることはありますか?
α:うーん。もう一人の私の方に、その記憶はあるのかな、と。
■■研究員:なるほど。では貴方の担当哲学人名は?
α:【解離】です。
■■研究員:彼の能力は接触で発動する、と思われています。貴方がもし元の彼女であっても、その知識量を鑑みると、職務復帰はもう一人の貴方が適していると考えられています。
α:……嫌な職場ですね。
■■研究員:人手不足なんですよ。ご存知の通り。
α:知りませんよ。
■■研究員:そうですか。では伝えておきます。ここ、結構職員の扱いが雑なんですよ。
α:そうですか。
■■研究員:分析に使ってください。この情報も。
α:まあ……覚えてはおきますよ。
■■研究員:そうですか。(軽く息を吐く)うん。解離元の性格とは全く変わってますね。貴方が【解離個体】で問題なさそうだ。
α:あら。そんなに?
■■研究員:ええ。どう違うかは言いません。観察に影響する可能性がありますから。
α:意地悪ですね。
■■研究員:ただ、安心してください。貴方が偽者だと言っているわけじゃないんです。言った通り、職務復帰しやすい方を元の■■■■■さんだとしているだけです。検査の結果、貴方の体は人間のものと同じでした。哲学人の能力由来ですから、権利関係の制限はかかりますけど……無茶なことはしませんよ。
α:……お願いしますよ。
■■研究員:勿論。では貴方の立場について確認が終わりましたので、もう一つだけ。質問があります。
α:はい。
■■研究員:■■隊員(※B)が亡くなり、【解離個体】だけが残りました。これについて思うことは?

(数秒間の沈黙。αは明確に蒼白となり、呼吸が乱れる)

■■研究員:Dis-002α?
α:彼女、が。死んだんですか。
■■研究員:ええ。ご友人ですか?
α:幼馴染です。仕事で、取締課提携で再会して。それで。そんな、死んだんですか。あの子が。
■■研究員:【解離個体】だけが残っています。
α:会えますか。
■■研究員:監視は付きます。けど、実験の一環で予定されています。
α:そうですか。今、どこに? 怪我とか、してませんか? あの子、昔っから無茶ばっかりで。そんな。私が助けないと。
■■研究員:【解離個体】に怪我はありませんよ。検査を終えて、今は休んでもらっているところです。
α:そう……

(αがため息を吐く)

α:すみません、取り乱してしまって。
■■研究員:構いませんよ。その様子も大事な情報です。
α:そう、なんですね。
■■研究員:彼女についての記憶はあるようですね。どのような記憶がありますか?
α:小学校……いえ、幼稚園の頃から。一緒に過ごしていました。
■■研究員:長い付き合いですね。
α:いえ。高校で離れて、連絡を取らなくなったんです。仲が悪いとかじゃなくて。あの、自然と。お互い、地元を離れていますし。当時はまだ携帯電話を持っていなくて、家の固定電話しか知らないものでしたから。
■■研究員:なるほど。学生時代の記憶についてですが、彼女以外の記憶はありますか?
α:(数秒思案)……ありません。
■■研究員:そうなんですね。では反対に、彼女のことで一番印象に残っているのは、いつ頃のことでしょうか?
α:幼稚園の、頃です。お絵描きの時間でした。同じ園の子達に泣かされた私を、彼女が助けてくれて。
■■研究員:なるほど、恩人なんですね。
α:でも彼女、怖いもの知らずっていうか。元気が有り余ってて。そう、一番印象に残ってるのは、公園の……大きな池が、あったんです。幼稚園児にとっての大きな、だから、大人からしたら大したことなかったんだと思います。
■■研究員:はい。
α:だから、あの子が落ちて。溺れて……私は泳ぎが得意だったから、誰より先にあの子を助けたんです。
■■研究員:凄いですね。当時貴方も幼かったんでしょう。
α:だって大人は誰も気付いてくれなかったから。
■■研究員:そうなんですね。
α:すみません。本当に、子供の頃の話で。でも凄く、覚えています。両親の顏もわからないのに。あの日の水の冷たさとか、濁りとか、そこから見た空の黒さとか。そういうのは、はっきり。
■■研究員:哲学人【解離】は記憶を取り扱います。この偏りは、影響が考えられますね。
α:やっぱり、私が偽者なんですね。
■■研究員:【解離個体】だと認識しています。

(数秒間の沈黙)

■■研究員:ただ、これ以上話すのは辛そうですね。これはあくまでも事故記録ですし。これから研究所で暮らしていただきますから、その時に少しずつ、わかっていきますよ。
α:はい。
■■研究員:では今日は休みましょう。ありがとうございました。
α:ありがとうございます。

(記録終了)

備考:この後、Bとの交友についてAへ確認したところ、職務上の知人との証言がありました。幼馴染であると主張するのはαのみです。

日時:20■■/■/■■
対象:β
保護に伴い、身体検査を行った後の対話。
βはBより幼い容姿であり、両腕はハトの翼に類似した形状である。

■■研究員:こんにちは、Dis-002βさん。
β:(沈黙。ベッドの下に隠れている)
■■研究員:貴方は怖がりなようですね。■■さん(※B)は勇敢な機動隊員でしたが。
β:(沈黙。ベッドの下に隠れている)
■■研究員:恐怖心を抱えたままできる仕事ではありませんからね。納得ではあります。ただ、解離元との比較ができないのが残念です。
β:(沈黙。ベッドの下に隠れている)
■■研究員:Dis-002β? Dis-002β……■■さーん?

(■■研究員がベッドの下を覗き込む。以下、βの返答は■■研究員が目視で確認した内容)

■■研究員:僕が怖いですか?
β:(肯定)
■■研究員:大人が怖いですか?
β:(肯定)
■■研究員:■■■■■さん(※A)という方を知っていますか?
β:(否定)
■■研究員:貴方の幼馴染とのことです。
β:(否定)
■■研究員:女性の方がお話ししやすかったりしますか?
β:(沈黙)
■■研究員:今は僕がインタビュー担当ですけど、これからの生活では女の人が担当者です。事故の管理担当と、生活担当は違います。今日のインタビューが終われば僕はもう来ませんよ。
β:(沈黙)
■■研究員:で、今日の目的は、事故の記録です。貴方は哲学人【解離】……ええと。黒髪の、片目が真っ黒で、おどおどしたお兄さん。前髪の一部が白い特徴的な人ですね。そんな人と、会った記憶がありますか?
β:(肯定)
■■研究員:彼は貴方に触れましたか?
β:(肯定)
■■研究員:その時、大人の貴方が、貴方のそばに居ましたか?
β:(肯定)
■■研究員:ありがとうございます。声は、あー、出ない感じですか?
β:(沈黙)
■■研究員:喉が痛い?
β:(否定)
■■研究員:喋るのが怖い?
β:(肯定)
■■研究員:わかりました。無理をさせることはありません。ただ、定期的に様子を確認します。心配ですから。
β:(沈黙)
■■研究員:インタビューは終了です。これから、貴方が安心して暮らせる場所を用意しますから。あと数日は病室でお待ちください。
β:(肯定)

(記録終了)

当事案を発端にし、能力影響の時間的上限を計測する実験が開始されました。


+【解離個体】の保護実験記録(抜粋)

本実験は保護を目的としているため、当記録は【解離個体】の経過記録である。

なお、記載名称は以下置き換えを行う。
■■■■■研究員の【解離個体】:α
■■隊員の【解離個体】:β


日時:20■■/■/■
対象:α+β
状態:健康。軽度のバイタル異常は新規環境による緊張と考えられる。未対応。
環境調整のため、両個体の許可を取った上で同じ人型収容室で保護。室内個室を設置し、両個体のプライバシーを確保している。
αは車椅子を使用。職員の補助なく生活可能。
βは室内個室にて一日の大半を過ごす。


日時:20■■/■/■
対象:α+β
状態:健康。バイタル安定。
αからの声掛けにより、βが室内個室から出る時間が増加。
共同スペースにてαが話し、βが頷く形での対話が行われる。


日時:20■■/■/■■
対象:α+β
状態:健康。
共同スペースにてαが話し、βが頷く形での対話が行われる。職員が室内に入ると、βは室内個室に逃げる様子がみられる。
αがグラフィックデザイン認定資格の教材取得を申請。受理。


日時:20■■/■/■
対象:α+β
状態:健康。
共同スペースでのα、βの会話が習慣となる。職員が室内に入ると、βは室内個室に逃げる様子がみられる。
αがレタリング技能検定/カラーコーディネーター検定試験の教材取得を申請。受理。


日時:20■■/■■/■
対象:α+β
状態:健康。
αが通信機器の取得を申請。条件付きで受理。


日時:20■■/■/■
対象:α+β
状態:健康。
健康診断の際、βが強く抵抗する。その際αが転倒。外傷なし。


日時:20■■/■■/■
対象:α+β
状態:α健康/β発熱・発咳
αが体調不良に気付き報告。
■■大学附置抗哲科病院にて診察。風邪の診断により、解熱剤が処方。


日時:20■■/■■/■
対象:α+β
状態:α発熱/β健康
βが発話可能となる。
職員が室内に入ると、βが室内個室に逃げる様子がみられる。
■■大学附置抗哲科病院にて診察。風邪の診断により、解熱剤が処方。


日時:20■■/■/■■
対象:α+β
状態:健康。
αとβが同行し、許可範囲内での研究所内散歩を実行。
αがグラフィックデザイン認定資格取得。


日時:20■■/■■/■
対象:α+β
状態:健康。
βが翼で車椅子を押す形での散歩が習慣化する。許可範囲拡大。


日時:20■■/■/■■
対象:α+β
状態:健康。
αがレタリング技能検定合格。WEBサイトにて制限付きで活動開始。利益は■■■■■研究員名義口座にて、αの資産として運用。


日時:20■■/■■/■
対象:α+β
状態:健康。
αがWEB通話を申請。研究所情報流出の危険性から却下。


日時:20■■/■■/■
対象:α+β
状態:健康。
α運営WEBサイトの収益が月■■■■■■円を超過。利益は■■■■■研究員名義のため、各種事務手続きについて相談。収益の分配取り決め後、活動維持の方針で確定。


日時:20■■/■/■■
対象:α+β
状態:健康。
βより資格試験の相談が持ち掛けられる。オンライン取得可能な資格一覧を進呈。
必要な場合は■■隊員の名義を利用予定。


日時:20■■/■■/■
対象:α+β
状態:健康。
保護5周年祝い実施。


日時:20■■/■■/■
対象:α+β
状態:健康。
ストレスチェック実行。問題なし。
保護当時と比べ、α/β共に精神的に安定している。


日時:20■■/■/■■
対象:α+β
状態:健康。
【解離個体】死亡時の反応実験を提案。 -■■■■■研究員
反対します。 -■■研究員


日時:20■■/■/■
対象:α
状態:死亡。
αの遺体は人間同様に処理加工が可能。病理廃棄物として処理を実行。
記憶統合は起きなかった。 -■■■■■研究員


日時:20■■/■/■
対象:β
状態:健康。


日時:20■■/■■/■
対象:β
状態:健康。


日時:20■■/■■/■
対象:β
状態:健康。


日時:20■■/■■/■
対象:β
状態:健康。
αの所在について質問あり。死亡を伝えると、抑鬱症状を呈する。
カウンセリングルームの使用を申請。


日時:20■■/■/■
対象:β
状態:健康。


+チャットログ


20■■/■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
20■■/■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
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20■■/■■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
20■■/■■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
20■■/■■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
20■■/■■/■■:お疲れ様です。 -■■■■■研究員
20■■/■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
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20■■/■■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
20■■/■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
20■■/■/■■:これは好奇心ですけど。主任が解離した記憶って幼馴染への何ですか? -■■研究員
     :好きだったんです。 -■■■■■研究員
     :わあ。それはすみません? -■■研究員
     :構いませんよ。その感情は私に返ってきませんでした。あれはもう、別人として歩んでいたのでしょうね。 -■■■■■研究員
     :羨ましい。 -■■■■■研究員
20■■/■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
20■■/■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員
20■■/■/■:経過確認。問題なし。 -■■■■■研究員






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