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口説き文句じゃないんだが

全体公開 その他色々二次創作 3604文字
2020-09-22 21:07:30

風花雪月 シルヴァンがはずかしいシルイン

Posted by @syuu_29

イングリットといえば、道行く乙女のようなことの大半に強い興味を示さない幼馴染みの一人だった。なにしろたいした性差のない頃などはフェリクスに剣で勝っていたぐらいには武芸の才まである。さらには本人の興味もそちらに向いているのだから、それなりの身嗜みをしていたところで、わざわざ性別を意識する方が難しい。よく遊びよく眠りくっついてじゃれる年下たち、そんな手のかかる弟の一人、ぐらいに数えていた。
もちろんそれでもいつしかフェリクスが彼女に一本取られることはなくなった。
なにしろ日ごとに肉体は性別の厚みを得ていく。身長は伸びる。生まれ持った肉体故の差が広がる。
それがグレンがいなくなったより早かったか遅かったかは曖昧だが、しかし体つきも顔立ちも、お互いに幼さが抜けていく。
ついには士官学校に入りやっと女友達ができたのを見て、ようやくシルヴァンは弟扱いをやめた。
けれど女扱いもしていなかった。できなかった。なにしろ血筋に群がる女たちと違い、色眼鏡でシルヴァンを見ない、大事な大事な幼馴染みだ。
それもとびきり真面目で清廉で、眩しいほどの。

振り返れば学生時代はよかった。なにしろほとんどいつも側にいた。シルヴァンのみならずフェリクスもディミトリもが彼女の幼馴染みであることを皆が知っていた。さらにはもちろんイングリット自身の友人と過ごす時間のほうが多くなりはしたが、それでもまだ多くの時間を共に過ごした。ちょっかいをだすバカなんかほとんどいなかった。

しかし学生でなくなるとそうもいかない。遠征だ出撃だとすれ違い、今節など、お互いがガルグ=マクにいるのは数節ぶりのことだった。お互いに今や家の騎士団を束ねる身にもなれば食事時ぐらいしか顔を合わせない日もすくなくない。そばによれば変わらぬ親しさでも、随分距離は空いた。

そんな折、ふいに耳に入った兵士の言葉に、シルヴァンは彼らの視線を追って呆然と遠くの女騎士を見つめた。
学生時代のおかげもあり、親の顔より見慣れた姿ではあるが、しかし今や遠目に見ても美しい乙女には違いない。元々綺麗な顔立ちだったのはわかっていたが、なるほど花咲く乙女に目を留めるなというほうが無理だとわかる。
長かった髪をばっさり切ったイングリットは、髪飾りと薄化粧で装いを整えるようになった。
凜々しく実力もある彼女の評判は出陣のたびに上がっていく。
彼女を知る人間が増えるほど、何にも知らない男の視線が向けられることが増えていく。
学生時代と違って、いまやガルグ=マクに集う兵士は忠義心に厚く家同士の関係を知る者だけとは限らない。だいたい四六時中鎧をきっちり着こんでいるわけでもない。そりゃあ目も惹くだろう。
しかも彼女は紋章持ちで、貴族といえど土地柄故に財政面に難のある家とくる。他の貴族より手が届くであろうと想像するのはたやすく、また彼女を射止めさえば家柄も紋章も手に入るチャンスだなどと見られてしまうのも、シルヴァンとてわからない話ではなかった。
だが結果としてどこまで本気だかわかりはしない下世話な話に名前が上る。女として彼女を見る男がいると改めて思い知らされる。
わかりはするが、どうにも不愉快なことだった。
――ふうん、へえ。おれも混ぜてよかわいこちゃんの話ならさ。
素知らぬ顔で下世話な雑談に口をつっこみ、こちらの家柄とイングリットとの関係に気づいた誰かに青い顔をさせては「あいつはやめといたほうがいいと思うけどね」と男相手には普段見せないような甘さで微笑んで――さすがに片手を越えてから数を数えるのはやめたが、その甲斐あって兵士の中にバカなことを表立って口にする奴はほとんどいなくなった。
やあしかし案外バカが多かったとフェリクスに報告すれば、眉間にしわを寄せた上で「つける薬はないな」と言われた。なんだよお前だってそんな話が聞こえたら同じことをしないのか。そう水を向ければ別に否定もしなかった。ほらな、そうだろう。殿下だって正気ならきっと彼女の武人としての功績なんかを引き合いに出しただろう。おれの誇らしい友だなんだとでも言ったに違いない。きっと。
なにしろ大事な大事な幼馴染みだ。どこぞの馬の骨になんかやれるわけがない。

シルヴァンとしてはそれで折り合いも決着もついていたことなのだ。
しかし破綻はその節の終わり、食堂に向かう渡り廊下からやってきた。

名前を呼ばれたと思いきや、駆けてきたイングリットが無言で手を引っ張るものだから何だ何だと手を引かれるままついていけば、あれよあれよと寮の二階まで辿りつく。
「いや、ていうかなんで黙り込んでるんだよ、説明ぐらい
「いいから」
幼馴染みとはいえ躊躇いもなく自分の部屋に足を踏み入れる彼女に『教育失敗』という言葉がシルヴァンの頭によぎったが、イングリットはそんなことまるで思いつかなそうな様子だった。
「あのね」
おう」
シルヴァンが無警戒すぎることへのお小言を口にするより早く口火を切ったのはイングリットだった。しかし珍しくも決まりが悪そうに言葉を濁す。よっぽど困ったことなのかと怪訝に思うが、本人が話さないことには始まらない。
「ええとね、シルヴァン。その、どうもおかしな噂が出回っているようなのだけれど」
「どうした。お前が言い淀むような内容なんて」
「その、私とあなたが婚約していると」
……なんでそんな話に?」
「知らないわよ!というかあなたのほうでは何も言われないわけ?」
「言われた覚えはないが――まあ、なんだ。よく並んで飯でも食ってるからだろ多分」
しかし噂って単純だよなと茶化す前にイングリットは視線を床に落としたが、それでも鋭く吐き捨てた。
「私、あなたのお手つきだなんて不名誉極まりないことまで言われたのだけれど」
――は?」
そのバカはどこのどいつだと掠れそうな声で訊ねれば、視線を落としていたイングリットがひどく驚いた顔で「ちょっと、名前だって知らない相手よ!」と顔を上げた。さらには自分で槍で打ち据えてやったと呆れた声で付け加えたついでに「いえ、そりゃあなたにとっても不名誉でしょうけど」などと言う。
勇ましくて何よりだが、いやいやいや?何を言ってるんだおまえは。ゴーティエ家の放蕩息子には慣れた話だが、お前のような清廉の騎士様についていい噂とはとてもいえない。というか論外だ。ふざけるな。
「いや、おまえの不名誉は間違いないが、なんでおれまで不名誉なんだ。いまさらどうってこと……
「だってあなた最近は浮ついた話がないじゃない。私も謝罪行脚の必要がなく平和だし。だから誰か一人、大事な人ができたのかもねって話を」
「ハァ?!まてまてまて。そんな話、一体誰としたんだイングリット。いや、アネットとメルセデスか?先生はしないよな?」
訊きながらも先回りして言葉を拾ってしまったせいなのか、イングリットは困惑顔で頷くばかりだ。
「だいたいもう女の子と食事とかお前だけ――
言ってから、はたと気がついた。
女の子。自然にそう言っていた。
目の前で困惑している大事な大事な幼馴染みはたしかに男じゃない。わかっているつもりだった。それでもイングリットはイングリットのつもりだった。
ふいに自覚して、シルヴァンはじわりと手のひらが汗ばむのがわかった。

「あ」

そして唐突に、思い当たる。

「え?」
「いや、うん――その」
「シルヴァン――
……待ってくれ」
手を放すべきだと思うのに、手を離せない。ごまかせないほど自分でも手のひらの汗を感じる。汗ばんでいることなんてイングリットだってわかるだろう。それなのに、イングリットが手を引こうとした瞬間、シルヴァンは咄嗟にその手を強く握り返してしまった。
「ちょっと」
「いや、うん。悪い、待ってくれ」
なぜならば。
なぜならば、この大事な大事な幼馴染みを確かに女の子だと思っていて。
そう思うと自分の振る舞いのあれこれが走馬灯かなにかのように頭によぎり、別の意味を持ち始める。
シルヴァンは心臓が二つ飛ばしで鳴り始めた自覚があった。うああ、と意味もない呻きが口から零れる。顔だって火を噴くように熱い。きっと耳まで赤いに違いない。
「えっと……
たぶんおれのせいです、となんとか絞り出すように白状する。
シルヴァンはそうしてフェリクスに言ったように細々と、しかしなるべく端的に説明した。
「なんで……
「なんでって……
その間にも汗が止まらない気がする手のひらを、しかしイングリットはもう拒まなかった。なぜならシルヴァンが顔を上げるころには、まるで鏡を見るように彼女の顔まで真っ赤だったので。
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なぜか書いてしまったので出す シルヴァンとイングリット
もろもろあれだがカッとなったやつなので許されたい許した(おれが)


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