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[雨P♀]こわいゆめ

全体公開 1 1720文字
2020-09-27 11:19:33

「お前さん?」
「や、やだ、いや、こないで、やだ…………うぁ」
悪夢でうなされて目が覚めた半狂乱Pさんを優しくなだめてあげる雨彦さんのお話です。

Posted by @toasdm

 は、は、と短い呼吸を繰り返して、彼女はベッドに身を起こした。胸が苦しい、呼吸ができない、汗でべったりと張り付いたシャツが気持ち悪い。ぶる、と寒気で震えた肩に、今もまだ、先程の夢の記憶が鮮明に残っている。
「っは……ぅ、ふ……ッ」
「ん……お前さん……?」
「ひ、ゃ、や、いやあぁ!」
 跳ね起きた彼女の肩に、どうしたんだい、と雨彦が手を伸ばした瞬間、彼女は明確なパニックで叫びだした。
「お前さん?」
「や、やだ、いや、こないで、やだ…………うぁ」
 悪夢の恐怖は、一瞬で蘇る。もう何がどんな風に怖かったのか、細かなところばかりではなく大まかな流れすら思い出せずに半狂乱になる彼女の、今度は手を雨彦はぎゅっと握った。
「お前さん」
「ふ、う、うっ……
 酷い汗だな、と雨彦も起き上がり、彼女の体に優しく触れる。頭、背中、肩、腕。そっと触れる度に彼女の震えが、一段階ずつ収まっていくのを確認してから、雨彦はそっと、彼女の体を包み込むように抱きしめた。
「こわ、い、こわいの、こわ、あ、やだ」
「そうかい……よしよし」
 収まってきているとはいえまだ震えている彼女の体を、まるでゆりかごを揺するように雨彦はゆっくり揺らしてやる。揺らしながら、まとわりついた汚れのカスを払うように全身を撫でて、大丈夫さ、大丈夫だ、と耳元で繰り返す。
「横になろうぜ」
「こわい、こわかった、こわい」
「いい子だ……
 取り乱した彼女にどのくらい、雨彦の言葉は届いているのだろうか。まだ震える小さな体を愛しさで包んで温めて、雨彦はゆっくり一緒に寝転がった。
「ぅ……ぁ、は……
「よし、よし……
 彼女の訴えが「怖い」から「怖かった」になったのを見て、雨彦は彼女の落ち着きを捉える。
「怖い時は俺がいる」
「こわかった……
「ああ、そうだな。怖かったな、よしよし……
 怖くない、と否定する言葉はあえて出さずに、雨彦はただ彼女に寄り添うように手を握る。ぎゅう、と握り返してくる力は弱々しく、まだ指先は冷たく震えていたが、それもいずれは、落ち着くだろう。それも、割とすぐに。
「ゆっくり息を吸って――
「ぅ、すぁ……
「吐かなきゃ吸えないぜ」
「はぁーーー……すぅ……
「そうだ、いい子だな。もう一回、ゆっくり吐いて……
「はぁぁぁぁ……
 雨彦の指示に従っている彼女には、ちゃんと言葉は届いている。いい子だな、と頭を撫でてやりながら、雨彦は彼女に、ゆったりと語りかける。
「息を吸って――ッフ。レントゲン撮影みたいだな」
「っぶ、ふ、ふは、あは、あははは」
「っくくく……ようやく笑えたかい?」
「っふふふふ……
「もっと笑わせてやろうか」
 え、と目の焦点がようやく雨彦の方に合って、きょとんと驚く彼女の脇腹を、雨彦はいきなりこしょこしょと布団の中でくすぐった。
「ほーれ」
「ひゃ、っひひぇひぇははははははは! ちょっ、雨彦さん、やめっ、んんんっ!」
「ははははっ、これじゃ今度は笑いすぎて息ができなくなっちまうな」
「もおおおおお……
 つかれちゃうじゃ、ないですか――
 そういって彼女は、笑い疲れたようにうとうととしはじめる。うつらうつらとしはじめた彼女の頭を優しく抱き寄せて、雨彦は自分の肩の辺りに着地させてやる。
「つかれても平気さ。俺がついてるだろう?」
 ひとりじゃないぜ、と囁く声が、その夜の、彼女の記憶の切れ端に結ばれる。穏やかな寝息を立て始めた彼女の額の汗を軽く拭ってやってから、雨彦は長く大きく、吐息を漏らした。目を閉じて、それからゆっくり目を開けて、雨彦は闇に目を眇めて言った。

……二度と俺のもんに手出すなよ」

 ぎろり、睨みつけた虚空の闇がキュウ、と小さく縮み上がる。諸悪の根源がかき消えて、すたこらさっさと退散していったのを見届けてから、雨彦は彼女の頭をぽんぽんと優しく撫でて寝顔のご相伴に預かる。
「はは……笑いながら寝る奴があるかい?」
 あの手の汚れは笑い声には寄り付かないからな、と自身も布団に再度潜って、雨彦は隣の彼女の頬をつんと突いて、似たような笑みを浮かべて目を閉じた。


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